2005年10月28日

「Vinoteca Wagon」

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銀座はいつも最先端な、それでいて歴史の街である。昭和初期にはモガ、モボ、戦後はみゆき族など、今時の若者には理解不能な、それでいて素敵で意味深い言葉が、時代の最先端を闊歩していた。

 

この街を歩く人は、皆、美しい。一言で言えば、「粋」。男も女も、目一杯に異性の目を意識して「粋」に振舞う。年など関係ない、死ぬまでお洒落でい続けるのだ。それでいて嫌味がない。

 

20年ほど前の一時期、この街の上辺を流れすぎていった人種もいた。背広の財布に2百万円、車のトランクに2千万円(レンガ2個と言う)を積み、ボーイに10万円のチップを払い、金曜の夜など、タクシー1時間待ちがざらだった時代だ。

 

今は外資大手のブランドショップが次々と出店し、歩行者天国も出来て敷居が低くなったが、それでも街全体の持つ雰囲気は、おそらく日本中どこを探しても見つからないだろう「粋」で包まれている。

 

秋晴れの日曜の昼過ぎ、80過ぎの老人が銀座6丁目を真紅のアスコットタイで胸元を飾って歩き、洋装のお洒落な親娘は7丁目の老舗靴屋カネマツを2代にわたって贔屓にしている。

 

前置きが長くなったが、そんな素敵な街の7丁目にある「Vinoteca Wagon」を訪れた。名前の通りイタリアンレストランである。大通りから一本裏に入ったビルの2階に、10月に開店したばかりのお店だ。

 

断っておくが、僕はグルメではないし、アルコールを別にすれば、エンゲル係数は低い方だ。昼食もカップヌードルで十分である。なのになぜこの店に来たかと言えば、友達の紹介というだけだ。

 

なのでイタリア語でこの店の由来がどうとか言われても、オーダーの注文を入れる時にイタリア語で言われても、まるですし屋のお勘定のように意味不明なだけだ。

 

しかし、自分の口に入ったものがうまいかまずいか位は、自分で分る。そして、この店の食い物は、すべてがうまい。

 

ビルの右手にある外付けの階段を上がったところに、このお店はある。トスカーナのお店をイメージしたレンガ色を基調に、縦に細長い、全体的に小ぶりなお店だ。席数は40程度だろう。

 

気を使わず、それでいて品のある店内でテーブルに案内されると、まず最初に出てくるのがワゴンに乗った前菜5種だ。僕は水牛とモッツァレーラチーズを選ぶ。オリーブオイルがたっぷりかかっているのに、全然あぶら臭くない。相当に出来の良いオイルだろう、自信の程がうかがえる。

 

次のリゾットは80グラム程度の小飯だが、芯を残した炊き上げで、仕上げを客の目の前でチーズボールの中で行い、これが実に目に良い。そして最後の硬い芯が歯ごたえとして残った状態で、クリームとチーズの薫りが顔を埋めてくれる。

 

パスタはカルボナーラ。良いベーコンと卵の黄身だけを使っているから、ソースがねっとりと絡むクリーミーさが絶妙だ。ひどい店では玉ねぎや卵白を使って火を通しすぎてぱさぱさにしてしまう所もあるが、ここは違う。

 

肉はイベリコ豚。焼き豚のようにざくっと薄切りにしているが、火と塩だけで勝負をしている。おいしい料理とは、出来るだけ材料に手をかけない事。この肉は素材で勝ち、調理で勝ち、最高の材料としてお客様の前に出されている。

 

同じ豚を先週他の店「C」で食った時もすごいと思ったが、ここで食った後は、ちょっと前言撤回の必要ありだ。脂身が多くて、その部分は切り取ってしまったが、空腹ならあの脂身も食えただろうなと思わせる、とろとろさだ。

 

サーブのスピードやメニューの説明が実に気遣いを感じさせる。背中を見られている感じだ。それでいてひっつくようなしつこさがない。このサーブは女性ならではのものかと思うが、店長は男性だ。

 

そしてこの店長、見てて実に面白い。引き締まった布袋さん(ギタリストじゃないよ、本物のお人形の方です)のような顔をした彼にワインを説明させると、まるで魔術のようにお客を惹き込んでしまい、誰でも「はい、それ!」と注文したくなる。自分で頼むよりも10倍うまく飲ませてくれる技を知っている。

 

プレ開店で公表していない為常連しか来ないが、日が沈んだ7時を過ぎた頃から周囲に気心の知れた人たちが集まり始める。あちらの男性二人はザンブーカの出来を話し、こちらの美女3人を連れた6人グループでは、お店に進められるままに赤ワインのコルクを次々と抜いてる上客。いやいや、やはりお店にとっては同伴客が一番儲かるな。鴨ネギとは良く言ったものだ。

 

おいしい料理は人を幸せにする。

 

ワインの酔いが進むと共に、隣で空きボトルが増えていく同伴グループを眺めながら、最後はポートで締めて、出窓から見える銀座の景色を楽しんだ。気になるお値段は、二人で16,000円。ちょっとした記念日には通える値段だ。おい、同伴のおっちゃん、お前らはたっぷり払えよ、この店が存続する利益の為にな〜。

 

戦後の電通前で山口洋子が「姫」という「歴史」を作った街。そこでは力道山や石原裕次郎、慎太郎、野坂昭如や文壇の大物が通っていた。

 

銀座が好きになった。この街で飲めるようになりたいな。そう思ったVinotecaWagonだった。誘ってくれたKさん、ありがとね。また次の機会もよろしく!

tom_eastwind at 22:22│Comments(0)TrackBack(0) 世界と日本 味めぐり 

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