2006年06月09日

夢で逢えたら

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17年ぶりの再会だ。

 

クイーンズタウン付近の、冬山の氷壁を登る僕がいた。あれは多分、ボブズヒルから左手に登った山の、裏側の斜面だ。

 

丁度西向きになっているので、タスマン海からフィヨルドランドを抜けて吹きつける雪が、氷壁に張り付いていく。

 

 

 

足元には、深さ300メートル、NZで3番目に大きなワカティプ湖が広がっている。冬場にリマーカブルスキー場から見る写真がNZ宣伝ポスターに使われている、あれだ。

 

二重に手袋をかぶせてもかじかむ両手でピッケルを持ち、足元のアイゼンを下向きに広がった氷の隙間にに引っ掛けながら、僕は少しずつ体を持上げていく。

 

両手の二の腕の筋肉は疲れきって、ほんの20cm上の氷に腕を振り上げて打ち込むだけで、背中から腕がきしむ。ちょっとでも気が緩むと、そのまま体が反り返って、数十メートル下の地上に叩きつけられそうだ。

 

氷壁にごうと吹き付ける雪の塊と、乾いた寒さが氷壁と僕の胸の間に入って、こいつら、俺を無理やりに壁から引き剥がそうとしている。それでも少しづつ体を持ち上げると、何とか氷壁の途中にある、ほんの少しの窪みに身を寄せて一息つくことが出来た。よし、頂上までもうすぐだ。

 

まるでスプレーのように吹きつける雪を背中に受けながら、壁と体のバランスをずらさないようにしていると、氷壁の下、5メートルくらい下から、ピッケルが氷壁に食い込む音がする。ガシ!バランスを崩さないようにしながらそっと下を見ると、ヘルメットとロープに巻かれた登山服が見えてきた。誰だ?

 

少しずつ、でもバランス良く登ってきたその人影は、そのうち僕の足元まで登って来て、体半分くらいを重ねながら、「すみません、ここ空いてますか?」と、まるで、春の日の都会の街中を走るバスに乗り込んで、空いている座席の空席を軽く聞くように尋ねてきた。

 

そしてするりと、僕の左側下のポジションを取りに行く。おいおい、まだOKとは言ってないぞ。雪山でそんな事が現実に起こる事は、おそらくあり得ないだろう。夢の中だからこんな事もあるのだ。

 

それからは二人でロープを繋いで頂上まで登った。背中には折りたたんだスキーがある。夢だから、この辺は都合が良い。反対側がなだらかな斜面になっていて、二人でエイトを描きながら、途中のブッシュに引っかからないように、気持ちよく滑降していく。これも、夢だ。

 

山を降りた、そこは志賀高原。「同志」という名前のスキースクールの宿舎では、このシーズン、インストラクターが集団生活を過ごす。男も女もない、雑居状態で、話す事と言えばスキー、観るものはスキーのDVD、食べるものはカレーや焼き飯と言った具合だ。「おばちゃん、今日のカレー、うまいね〜、やっぱ、カレーは3日くらい寝かすのが最高だね〜」、「おばちゃん、ごめん、ビールもう一杯頂戴よ、明日レッスン料が入ったらお金払うからさ!」そんな、食堂のおばちゃんとインストラクターの、気の置けない会話。

 

色気も何もあったものではない。

 

僕はインストラクターの宿舎前で雪掻きをしている。九州生まれの僕からすれば、朝起きたら家の前に雪が積もってるなんて、シンセンなカンゲキ!早速Tシャツ一枚になって、雪掻きをする。はしゃいでいるから、10分もすると汗が出てくる。

 

表通りを歩く重武装の地元の人たちは「若いもんはええな」という顔をしながら、でも腹の中では「でもあのペースじゃすぐくたばるべ〜」と、早く潰れろという願望の、可愛らしい嫉妬心が見えてくる。

 

宿舎向かいの喫茶店。とは言っても所詮は雪山の中なので、大したことはない。コーヒーと言えばネスカフェ、みたいな感じだ。仲間に「デートにいきま〜す!」と、大きな声で宣言して俺を連れ出した彼女。氷壁で一緒にしがみついた、後から来て「入れてよ」とあっけらかんとした声で話し掛けてきた彼女だ。

 

二人はスキーで知合った。正確には、スキーをする彼女を追っかける為に、九州生まれの人間が30歳を前に初めてスキーを履いて、その当時すでにインストラクターだった彼女を追いかけて志賀高原まで来て、スキー場を転げまわったと言うのが事実だが。

 

彼女と知合うまでは「スキーなんて、怪我好きな変わり者の道楽ですよ、ばっかげてる!」と言ってた張本人が、真っ先にスキーにはまったのだから、笑いも出ない。周囲が笑っていたかどうか、その時点では不明である。

 

たった10日の志賀高原。ニュージーランドに戻る事になった僕は、なごり雪を見つめながら街に下るバスに乗った。国鉄駅まで一本道を下っていく山岳バスだ。現実の世界へようこそ。明日から仕事が待ってるよ。そう話し掛けてくるバス。

 

志賀高原を、白い雪をかぶったバスが走る。僕は車内最後部で後ろ向きになり、見送ってくれた彼女に手を振る。さよなら・・・。

 

その時から数えて、もうすぐ18年か・夢で逢えたらと思ってたら、本当に、夢で逢えた。

 

あれ?今日って、もしかしたら18年前に彼女がクイーンズタウンに到着した日????

 

 

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舞台となったリマーカブル、興味がある方は、7月23日に東京国際フォーラムで開催するNZ移住・起業説明会にご参加ください!

 

 

 

 



tom_eastwind at 00:01│Comments(0)TrackBack(0) 諸行無常のビジネス日誌 

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