2006年07月30日
P . D
今、日本で、刑務所の収容人員超過の対策として、社会奉仕の刑罰を導入しようとしているらしい。
良い子ばかりが読むこのブログでは、ケーサツも刑務所の事もよく分らないし、ましてや犯罪人が檻の外で社会奉仕って言うのも意味不明かもしれないが、この仕組は実用的で、日本人向きの良い仕組ではないかと思う。とっても合理的である事は間違いないと思う。
一般人が犯罪を犯すと、警察によって拘束され、裁判が始まるまで未決拘留という形で刑務所=「塀の中」に入るか、保釈されて裁判の日まで「塀の外」で待つことになる。
NZでは飲酒運転も交通事故も殺人も、すべて同じ刑務所に放り込まれて、判決が出るまでの間、刑務所は三食ただ飯+シャワーと二人用寝台付き、この費用が全額政府の負担、つまり税金となる。
この期間は未決拘留と言って、刑が確定していないので強制労働もさせられない。だから何の生産性もない肉体が、やる事もなく塀の中をうろうろしてて、それを見張る為に数十人の刑務官が必要となる。
刑務所を維持する費用だけで莫大な金額になるのは当然であるが、更に、重罪の連中は別として、交通違反とか飲酒運転で捕まった程度の人間を刑務所に入れると、かえって悪い友達が出来て、出所後やば〜い交友関係が出来てしまうと言う問題がある。
そして犯罪が有罪となり刑期が決定すると、その期間中は刑務所に入り、昔の網走刑務所では鑑札や木彫りの熊を作ったりして、政府にとっても受刑者にとっても、生産性のない時間だけが続く。
それに比べて社会奉仕という仕組は、勿論軽犯罪のみに適用されるが、有罪判決と同時に裁判長によって「あなたは20週間の社会サービスをしなさい」等と言われて、塀の中でなく外で、罪を償う事になる。
通常この判決は、飲酒運転、交通事故、軽い置き引きや車荒しに適用されるが、その目的は、大した犯罪でもないし本人も反省しているに、何でそれ以上に政府が金を使って労働力を縛り付ける必要があるか、それよりも社会で平日は普通に働かせて、週末はタダで公共サービスをさせようというものだ。つまり政府による無料労働力確保計画である。
この社会奉仕団は、所定の場所に毎週集まり、例えばオークランドでは主に土日の朝9時から午後4時まで、10人ずつがチームを作り、小型のバンと作業車で各地の幼稚園や公園を移動しながら、公園の草を刈ったり幼稚園のペンキの塗り替えをしたりして過ごす。
荒地や高速道路の下で草を刈ったりする時は、それこそ周囲にトイレも無い状況だが、幼稚園等では近くのおばあさんが差し入れのお菓子とかを持ってきてくれたりする、なかなか和気藹々としたものだ。
別に大した罪ではないし、やる事も週末の草刈程度なので、参加する受刑者も、それほど恥かしがっている様子はない。作業の合間には男同士の下らない話が、刑務官の目をそらしながら続く。
「おい、お前、なんで捕まってんだよ?」浅黒いマオリが、更に色グロで小柄な男に聞いてる。
「飲酒運転さ。でもNZは俺の住んでる国よりずっといいよ。」小柄な男が小声で答える。
「俺の住んでたフィリピンではさ、飲酒運転で逮捕されるのは、金がない奴だけなんだからな、この国は少なくとも公平だし、警察が正義じゃんか」
フィリピン出身の男は、楽しそうにそんな話をする。
そしてその日のペンキ塗りが終わると受刑者センターに戻り、シャベルや鍬を洗い、最後に刑務官の「解散!」という一声で終了、飲酒運転で捕まって免許剥奪された受刑者達は、表に停めてる自分の車で自宅に帰るという算段だ。よく出来た仕組だな。
犯罪者と一括りにするのは、犯罪の経験がない素人の言う事だ。実際には国策捜査と呼ばれる「一罰百戒、みせしめの為の冤罪事件」もあれば、「公衆道徳違反」と言う、犯罪の意識さえない犯罪者まで、様々な人種が存在する。
そう言えば額賀長官も1998年の防衛庁汚職で逮捕はされなかったものの辞職に追い込まれたし、安倍総理候補の親戚の佐藤栄作元首相も、造船疑獄で逮捕寸前まで追い込まれた経歴があるくらいだ。首相経験者である橋本氏も贈賄で、田中角栄もロッキード事件で犯罪者となった。
はっきり言えば、世の中で普通に人間が生きてれば、必ずどこかの法律を破りながら生きている。全く法律を破らずに生きていくのは、実際問題として不可能だ。
法律を破らずには生きていけない現実と、でも法律を厳密に守らせては社会が立ち行かないという矛盾の中で、それでも社会の秩序を守る為に、それも、道徳的にも、社会コストとしても納得性のある形で実現させるための一つの解決策として社会奉仕がある。
これは是非とも日本で導入してもらいたいものだ。それこそ、日本人が政治的に一歩大人に近づいたと言えるからだ。
ちなみにこの仕組、NZでは一般的にPD= Periodic Detention と呼ばれている。