2006年11月09日

銀座の怪人

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本を読むのは、酒を飲むとか映画を観るとか上質の歌を聴くとかと同等の価値があるし、特に「良質の本」に巡りあった時の喜びは大きく、その喜びは明日の仕事があるっちゅうのに、真夜中の3時まで覚醒させてくれるほどだ。

 

 

 

今回の作品「銀座の怪人」は、32歳新進気鋭の作家七尾和晃の良質なノンフィクションルポである。

 

昭和40年代の銀座を、リヤカーに積んだ絵を持ったイラン系ユダヤ人画商が、飛び込みで銀座の画廊を訪問して、何とか自分の絵を売りつけようとしていた。

 

彼はそれから20数年に亘って銀座で名画を売りまくり、それを購入した大手銀座の画廊は,更に10倍の高値を付けて大手企業や美術館に売りつけ、美術館はそれを「目玉」として客を集め、大手企業はそれを賄賂代わりに政治家に送り、政治家はさらにそれを自分の賄賂として使い、最後は大企業や銀行の応接室を飾るようになった。これが絵画バブルである。

 

バブルの頃は絵画が飛ぶように売れたが、それは絵画の価値というものが相対的なものであり、画商の値踏みでいくらでも価値が上がり、いくらでも価値が下がると言う、現金や国債や株と違って正確な市場価格の付けられない商品であり、そこが税務署からしても把握し辛い価値を持ち、また大手画廊は税務署の大物OBを顧問税理士につけているので、ますます現役税務署が手を出しようにない状況を作り出した。

 

ところが、一枚が数億円で取引されたシャガールやルノワールなど有名な印象派の作品が、実は殆ど全てが偽造だとしたら???

 

今までの日本の会計法では、購入した資産は簿価で帳簿に計上出来たので、例えバブル崩壊で土地価格が下がっても「会社の資産はこれだけありますよ」と購入時の価格で決算時に報告出来た。ところがこれからは減損会計という時価方式が導入される。

 

そうなると、購入時の価格ではなく現時点での価値が問題になるので、例えばバブル時に10億円で購入した土地が現在は5億円の価値しかなければ、5億円の損失を計上する必要がある。

 

では絵画は?本物であれば問題はない。しかしそれが贋作であれば、その価値はゼロである。いくらで購入したかは関係なく評価はゼロ、紙くずになるのだ。

 

そしてこの贋作は、実はユダヤ人画商自身が何人ものお抱え画家に描かせており、同じシャガールの名作を同時に何枚もコピーして、同時に様々な人に売りつけていたのだ。

 

そんな時に限って、自分のものこそ本物と思い込んでいるが、まるでプロのホステスに二股をかけられた素人兄ちゃんみたいなもので、自分の彼女が他の男の腕にぶら下がってデートしている場面に、ばったりと鉢合わせするのだ。

 

それが2000年5月にニューヨークで、オークション最大手2社で起こった事件だ。ある日、ニューヨークのクリスティーズとサザビーズで同時にゴーギャンの「花びんの花」がオークションにかけられたのだ。さあ、どっちが本物だ?!

 

FBIは911テロに関してこのユダヤ人画商の取引を調べていたが、ニューヨークの高級住宅街であるロングアイランドに豪邸を構えるくだんのユダヤ画商は、テロとは無関係である事は判明したが、同時に彼日本で売っていた絵画の殆どが贋作である事も判明、彼の口から次々と日本の大物政商、日動画廊を含む大手画廊、その他多くの政治家、銀行、企業名が出てくる事になり、銀座を取り巻く絵画ビジネスの実態が、その醜い正体を現したのだ。

 

銀座とバブルと言う、もうそれだけで食い付くねた満載のテーマであるが、全体を押さえ気味に、しかし劇場効果をしっかり狙った文脈構成が見事であり、最後までぐいぐいと引っ張ってくれる作品だった。

 

tom文庫のハードカバー本の一冊に納めてるが、バブル経験者は是非ともご一読を。少し重くて堅苦しい文体かもしれないが、読了して、腹の中にどしっとしたものが落とし込まれる感じのする作品である。

 

12月03日に東京汐留で第20回ニュージーランド移住説明会を開催します。絵画に興味がない方でも、ニュージーランドの自然の景色は感激します。自然に興味のある方、是非ともご参加ください。

 

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tom_eastwind at 00:00│Comments(0)TrackBack(0) 最近読んだ本  

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