2006年11月22日

今年2回目のJury その2

4e4c8927.jpg

 

さて、11時45分に再度集会場に行くと、係員のマオリのおばさん、申し訳なさそうな顔で、「みんなごめんね、実はあなたたちは他の法廷になったのよ」と、実に申し訳なさそうに言う。

 

どうしたのかという皆の質問に「実はね、皆が解散した後に殺人事件の裁判長がやってきて、会場、じゃなかった法廷を変えてすぐにやるので、残った連中全部引き立てろって事になってさ、本当は選ばれなかった人たちが、そっちにいっちゃったのよ」だってさ。

 

最後に彼女、「でも大丈夫、これで皆さんの日当は一日分、62ドルになったから」って、慰めかいそりゃ。

 

でもって、残った僕ら50名は、そのまま第三号案件の麻薬事件に回される。この法廷では6名が同時に起訴されている為、期間が長いという事が判明。3週間の予定で審理。本来この裁判に参加する予定だった連中、じゃない陪審員は、殺人事件に回されたとの事。裁判長は、どうもすべての手続を無視出来る権利があるようだ。

 

 

さて、今回僕らが参加した法廷は、前回の中サイズ法廷と違い、小学校のクラスを3つぶち抜いたくらいに広い。丁度海側に面して、窓のカーテン越しに隣のマンションが見える。え?と言う事は、あそこからも双眼鏡使えば、こっちが見えるのでは?そんなイラン心配しながら、僕らはぞろぞろと入廷。

 

教室で言えば父兄参観の位置に僕らの椅子が並べられ、先生の教壇の位置には、まだ座ってないが裁判長席、生徒の位置に当たる場所は、山のような、と言っても15名程度だが、放送関係者、じゃなかった、法曹関係者、つまり弁護士連中。

 

今回弁護士が異常に多いのは、被告が6名で、それぞれの被告に二人づつ弁護士がついている為だ。一人は主任弁護人、マントを着た極悪人、とまではいかないが、顔に気合が入ってる。もう一人はアシスタントだろう、まだ若い顔を少し火照らせながら、ボスのいう事を一言も聞き漏らすまいと緊張しているのが分る。

 

クラウンと呼ばれる、日本で言う検察は三名。数では圧倒的に負けているが、さて、どんな法廷戦略を練っているのか?

 

クラウンとは、裁判や警察関連では必ず出てくる単語で、権威とか法廷等を表す時によく使う。同じ元植民地の香港でも「クラウン」はよく使ってた。

 

広東語で「皇家(うぉんがー)(天皇家と入力して天を除ければ変換可能)」と呼び、赤柱刑務所で食う臭い飯の事を皇家飯(うぉんがーふぁん)=クラウンライス=王様の飯と呼んでいる。僕はまだ食った事はないが、皇家が出す中華料理なので、さぞ美味いのだろう。

 

さて、僕らが全員座って5分もすると(呼んでおきながら、5分も待たせるとは、主権在民を分っているのか?等と言わない。僕はあくまでも外国人)、裁判長がやってきた。全員が起立して礼。おお、小学校とそっくりだ。級長が起立!と言って、全員が立つ、あれだ。

 

さて、右手奥の扉から、身なりや雰囲気の良い6人のおっさんが出てきた。彼らの後ろに警備員さえいなかったら、僕はまた、入口を間違えたと思ったくらいだ。

 

被告は順番に、その罪状を呼ばれる。罪を認めるか、認めないか。Guilty or not Guilty ?  という質問に、被告がおもむろに答える。殆どが無実を主張する中、鼻髭を伸ばした、豊かな銀髪のお洒落な中肉中背(日曜の昼下がりにカフェで会うかヨットの上で会えば、次の日曜日に自宅のバーベキューに呼びたくなるタイプ)が、2件の罪を認める。

 

彼は全部で7個くらいの罪状で訴えられており、2件くらいは裁判所の手間を省いてやるかって事か?

 

他の連中もこざっぱりしており、堂々と「Not Guilty」と言い続けている。もしかして彼らは本当に無罪なのかと思い出した頃、裁判長が僕らに向かって話し掛ける。

 

「さて皆さん、本日はお集まり頂き、誠に有難う御座います」おや裁判長、わりかし紳士な言葉使いですね。

 

「皆さんの行動がこの国の民主主義と正義のシステムを守っているのです、皆さんの参加が何よりも大事なのです」そうそう、おっちゃん良いこと言うね。出来ればそれ、日本に来てこれから裁判員制度を導入する政府及び国民の皆さんに話してもらいたい。

 

「尚、この裁判は英語で行われます。参加された方で、英語が第二言語である方、証拠書類や証人の発言が理解出来ないという不安がある人は、最初に申し出てください。また、裁判で今後召喚する証人、被告名、その他関係者の名前を読み上げますので、もしこの名前に聞き覚えがある、または直接知っていると言う場合も、申し出てください」

 

そりゃそうだ。周囲の50名を見渡すと、半数は白人以外だし、僕も含めて英語がネイティブでない人も目立つ。国が無作為で選ぶ時には、永住権とか市民権では区別しないだろう。英国出身の永住権保持者もいるだろうからね。

 

「最後に、陪審員に選ばれた人は、弁護士がそれを拒否する権限があります。これは個人的に馬鹿にするものではありませんので、腹は立てないで下さい」本当はもっと丁寧な言い方をしているのだが、僕の語彙では、どうやっても「馬鹿」とか「腹を立てる」という言葉にしか変換出来な。翻訳については裁判長の責任ではない事を記しておく。

 

要するに、弁護士に都合の良い陪審員を選ぶ為に、都合の悪そうなのは最初に削除するという法廷戦略だ。が、そこまで裁判官が言う事も出来ないので「馬鹿にしているんじゃないからね」と、言葉を濁しているのだ。周囲でくすくす笑いが出てる。厳粛なる法廷で、裁判長が屁をひったようなものだ。

 

そんなこんなで陪審員選びが始まる。先ほど使った商店街のがらがらが、ここでもまた登場する。裁判長の目の前の席でがらがらやってるが、この場合「一等賞が出ました!」なんて鐘は鳴らさない。荘厳な顔つきで名前を呼ぶだけだ。

 

最初に呼ばれたのは中国系の若い女性。先ほど彼女が話をするのを聞いてると、この子はネイティブだから、聞き取りの問題はないな。参観席から、左手に12席ある陪審員席に向かう。彼女の姿を斜に構えて、今にも飛び掛りそうな目つきで見るはげたか、もとい弁護士軍団。

 

と、突然マイクが音を立て、ぷ〜、ではなく、「Challenge」と、冷たい声が上がる。弁護士による忌避、つまり拒否である。

 

ならば最初から拒否と書けという意見も理解出来るが、その場は「拒否」なんて,普通の世界の言葉が通用しない、まさに法廷の雰囲気なんですな。さっきの語彙不足とは話が違うと言われると、謝るしかない。

 

その時の気持をそのまま日本語にしていると、どうしてもこうなるのだ。彼女は悲喜こもごもな顔で自分の席に戻る。

 

二人目。今度は何といきなりロシア系。40代後半の、少しやせこけた彼は、黒く煤けたジャンパーに,よれたねずみ色のズボン。すそが引きずって擦れてる。埃だらけの黒い靴は、どう見てもウエアハウスで20ドルで買ったビニール製だ。おまけにこけた頬に無精ひげが目立つ。

 

こいつ、さっきの集合場所で係員に話し掛けてた時の英語を聞いてたが、IELTSで3くらいだったぞ。大丈夫か?てゆ〜か、裁判長の話さえ理解せずに陪審員席に向かっている可能性があるぞ。やっべ。

 

案の定、弁護士連中はにやにやしながら「大歓迎!」って顔をしている。起訴側の連中の「あちゃ〜!」という顔と比較すると、人生の悲喜劇がよく見えてくる。ある人にとっての悲劇は、ある人にとっての喜劇なのだ。

 

さて次。今度は韓国人の学生さんだ。銀縁眼鏡をかけた細身だが、こいつはやはり先ほどの集合場所で大声で英語喋っておちゃらかしてて、第二言語だけど十分に英語こなしていたので、学生歴+社会人経歴があるのだろう、すたすたと歩いていった。これも弁護側にはOK。週末は「いえ〜自由!」とか言いながら、草吸ってんじゃね〜のかって感じ。

 

次は目がイッテル中国人学生。背の高い、これも一皮剥けば、シティのホテルで友達を殺してスーツケースに詰め込んでワイテマタ湾に浮かべそうな、やば面。

 

又も弁護士連中、にやり。てゆ〜か、ここに至り、彼ら笑ってる!「おいおい、こんなにも移民が来るなんて!こいつら皆、うちの被告連中のお客さんじゃねーかよ、じゃんじゃん来いよ!」って、弁護士連中の高笑いがここまで聞こえてきそう。

 

その後も忌避が5件ほど続き、結果的に陪審員のうち白人は5名、マオリ系とインド系が2名づつ、露中韓が1名ずつの12名が決まった。面白かったのは、名前を呼ばれたうちの2名が不在だった事。白人の名前だが、彼らは正義の実現よりも、子供の学校の迎えの方が大事なのかもしれない。

 

全員揃ったところで別の部屋に移動、フォアマンと呼ばれる、「裁判長、全員の意見が揃いました」と言う、裁判の最後に発言する人を決める為の打ち合わせに入る。

 

僕は最初から、中肉の、知的な白人女性が選ばれるだろうと思ってた。5分後、案の定、彼女がフォアマンになったと、裁判長に報告。

 

これも笑い話だが、陪審員のうち白人女性の三人とインド系二名(女性)を除いた七名ならば、休憩の後に被告の六人と「総替え」して反対に座っても、誰も気付かないだろう。「あれ?一人増えたね、まあいいや」って感じで裁判が進むだろうって、そんな顔つきなんだもんね。

 

さあて、これでショーの始まり。被告である麻薬の売人と、その買い手?である陪審員の、3週間の法廷闘争が始まる。3週間後は日本だけど、裁判の結果を聞いてみたいな。

 

今回の陪審員団150名のうち、僕以外の日本人らしき人は一人のみ、まだまだマイナーな日本人でした。

 

 

人気ブログランキングへ



tom_eastwind at 00:07│Comments(0)TrackBack(0) 諸行無常のビジネス日誌 

トラックバックURL

この記事にコメントする

名前:
URL:
  情報を記憶: 評価: 顔