2006年12月13日

M

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「男の人って、この歌好きなんだよね」呆れたようにそう言いながら、リクエストした僕の為に彼女が歌ってくれた、80年代の名曲プリンセスプリンセスの「M」

 

いつも一緒にいたかった 

となりで笑ってたかった

季節はまた変わるのに

心だけ立ち止まったまま

 

 

中洲の夜はもうすぐ明日になり、すっかり時の感覚を忘れた僕は、座っているスナックの椅子から、そのまま17年前の中洲に記憶がタイムスリップして、あの頃に戻った。

 

「そう、好きなんです、この歌の切なさがね。何だか殆どの女性は、男性は「がさつ」であると思っている。確かにそれは認める。合計得点で観れば男性は「がさつ」であろう」

 

「女性の中に、部屋を片付けず仕事もまともに出来ず、料理も下手で掃除も丸くしか出来ない人がいるのも事実だが、でも男女別の総得点で比較すれば、男性の方が「負け」だろうな。それは認める」

 

「でも、だからと言って僕が、「M」を好きになってはいけない理由はないと思うし、ましてや中洲で歌っていけない事はないだろ」

 

あなたのいない右側に

少しは慣れたつもりでいたのに

どうしてこんなに涙が出るの

もう叶わない思いなら

あなたを忘れる勇気だけ欲しいよ

 

という事で、日本出張の最後の目的地、福岡の中州で、久し振りに会った古い友達と飲む。この街は今から20年前頃、バブルの真っ盛りに青春を過ごした街だ。当時は、ボトルを13本くらい常時色んな店に入れてたな。「哀しい色やね」とか「大阪で生まれた女」とか、あの頃は大阪、まだ景気良かったな。

 

とにかくよく働き、陽が沈むと行きつけの屋台に顔を出して、保健所に「お客様への提供は衛生上問題」として禁止されている生料理「馬刺」を生姜醤油で食いながら、夏は焼酎のロック、冬はお湯割を楽しんでた。

 

〆にラーメンを食う奴も多かった。前の人が食べた丼を、床に置いてる洗剤入りのバケツでちょいちょいと洗い、隣の濯ぎようのバケツにひょいっと流し込んで、それで次のお客が食べるわけだから、普通に口紅がべた〜っとついている。

 

当時は焼酎なんて安酒は九州でしか飲まれていない「田舎の飲物」で、豚骨ラーメン等は、東京人を連れて行っても店に入る事さえ、そのにおいの為に拒否された時代だ。あの頃を知っている人間から見れば、今の全国的焼酎ブームや豚骨ラーメンブームには、少し隔世の感がある。

 

夏のプロ野球ナイターが始まる時間は、泥川だった中洲を挟む川辺に、残光が光っていた。当時はどこの屋台もテレビかラジオを置いてて、野球一色の時代だったな。

 

川の残光が段々ネオンサインに変わっていくと、夜の怪しい輝きが増していく。そんな街で、屋台で軽く食事をしてからバーに行き、大体午前2時頃まで飲み、それからは朝までやっているバーへ、飲み友達と繰り出す。ネオンの光をバーの窓から眺めながら、チャゲ&アスカの「男と女」を歌い、日が昇るまで飲んでたものだ。

 

You are only in my Fantasy

今でも憶えているあなたの言葉

肩の向こうに見えた景色さえも

So once again

Leaving for the place without love

 

当時仲良くしていた連中で、東京に出て交通事故で死んだKくん。彼女だったMちゃんはあの時、どんな気持だったんだろうな。そんな懐かしい思い出が、次々と出てくる。一緒に飲んでた連中も、家庭を持ち子供を作り、今では親父連中ばかりだ。

 

当時、誰が今の生活を予想しただろう。

 

バブルがはじける前、

高いローンでも家を買いさえすれば生活が豊かになると信じ、

給料は毎年上がると信じ、

ボーナスは年6ヶ月出ると予定してローンを組み、

60歳まで本社で働けると信じ、

年金がもらえると信じ、

病気になったら国が面倒見てくれると信じ、

それを基盤として生活を構築していった連中。

 

You are only in my Fantasy

星が森へ帰るように

自然に消えて小さな仕草も

はしゃいだあの時のわたしも

 

1980年。これからの時代は英語が出来なきゃ、そう思って一人で英語の個人教室に通った。友達は、「馬鹿じゃないか、営業なんて根性とやる気だよ」と本気で言ってた。当時、社会人になって英語を学ぶのは、10人に1人もいなかった。

 

パソコンが出始めた時代。見積書をパソコンで作るのが流行ったが、当時の入力は漢字一文字づつ入力するタイプで、A4一枚作るのに1時間以上かかる。「そんなもん使っても、仕事は取れん!」そう言う先輩をよそに、高校時代に学んだ英語タイプが偶然役に立ち、何とかキーボードを使って仕事が出来た。

 

今では当たり前の技術も、当時は「そんなもん、無用」という意見が殆どだった事を、当時生きていた人間として証言出来る。

 

出会った秋の写真には

はにかんだ笑顔ただうれしくて

こんな日が来るとは思わなかった

瞬きもしないで

あなたを胸に焼き付けてた

恋しくて

 

そう、誰もこんな日が来るとは思わなかった80年代。今日と同じ明日が来ると思い、中州に繰り出して遊んだ仲間達。そんな彼らの顔は、僕の記憶の中で今もあの当時のままだ。

 

今、隣にいる友達は、普通の子と「ちょっと違う」人生を歩んだ。今、その「違い」が、他の人との「大きな違い」になっている。本人はあまり気付いてないようだが。

 

誰も、人生のどこに曲がり角があるか分らない。行動する事の危険よりも、行動しない事の危険の方が大きい。変化する事を忘れた者に、明日はない。それを肌で経験したのが、もしかしたら僕らの時代なのかもしれない。

 

You are only in my Fantasy

あなたの声聞きたくて

消せないアドレスMのページを

指でたどっているだけ

 

M」の歌詞については、元々富田が交際していたM君との恋愛と思い出、別れの悲しみ、寂しさを詩に表したもの」だそうだ。

 

良い歌は、時代を超えて人の心を打つ。特にその時代に生きた人間にとっては、甘くて痛くて苦しい、そんな、走馬灯のような思い出の引き金になる。

 

So once again

Leaving for the place without love

夢見て目が覚めた

黒いジャケット後姿が

誰かと見えなくなっていく

 

So once again

You are only in my Fantasy

星が森へ帰るように

自然に消えて小さな仕草も

はしゃいだあの時のわたしも

 

よし、これからも変わりつづけよう。戦い続けて生き残る為に。

そう思った中州の夜だった。

 

写真は中洲の夕暮れ。大昔に利用していた川向のホテルなら東向きなので、夜明けが綺麗に見えるんですがね。知ってる人、笑ってやってください。

 

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tom_eastwind at 00:01│Comments(7)TrackBack(0) 僕の青春 

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この記事へのコメント

1. Posted by mayumi   2006年12月12日 22:21
彼のいない右側に、慣れることができなくて、先ほど年末オークランド行きのチケットをゲットしました。最後の2枚でした。今、このページを開けてびっくり。ほんの今しがた入院中の病院の階段で携帯を握りながら、口ずさんでいたんですよ、「M」を。人生は自分の手で変えることができるのでしょうか?これは偶然ではなく必然なのでしょうか。EASTWIND→JTB→そしてオークランドへ。
2. Posted by tom   2006年12月13日 06:21
M、偶然ですね!ところで、人生を変えられるかどうかなんて考えない方が良いですよ。

川の流れに乗って、誕生と言う川上から、死という河口に向かっていく、一方的な流れが人生ですから、それを変える事は出来ない。

でも、その川の中で、一番過ごしやすい波に乗れる事は出来るし、いかだに乗る事も出来る。その部分は本人次第だと思います。

tom
3. Posted by キティちゃん   2006年12月13日 15:40
NZでも生き残るために戦うのですか?私は、戦うことに疲れました。NZでゆっくり生活したいのですが・・・・。TOMさんにおんぶにだっこはできませんか?(笑)
4. Posted by mayumi   2006年12月13日 22:53
今、祈るような気持ちでこのページを開けたら、tomさんのコメントが!嬉しい!救われた気分。
日本人(に限らず、日本人的思考を持った人)に相談すべきじゃありませんね、つくづくそう思った。みんな「何、夢みたいな事いってんの?」と真剣に取り合ってくれない。
今、そう・・何かの波に乗っかってる気分です。
壁は山ほどあるんだけど、誕生日を一緒に過ごしてくてることになりました。
何千キロも離れたところから、何万の言葉を交わしたところで、何にもならない。触れることもできない恋人なんて恋人じゃないじゃん・・・て、思う。
もう一度、会って気持ちを確かめるために27日、4度目のNZに降り立ちます。
I wanna be with you now 二人でdistance縮めて・・って宇多田ヒカルの歌がありましたよね。

5. Posted by tom   2006年12月15日 06:12
キティさん、書き込み有難う御座います。誤解のないように言っておきますと、戦うほど働いてるのは、かなり僕の個人的趣味が入っております。

実際にキーウィは、もっとのんびり仕事しているし、僕の周りの人ものんびりと楽しくやってますね。

でもですね、人生って結局、どこまで行っても生きてる限りは何らかの努力なしには生きていけないと思うんです。例えば呼吸するだけでも体の筋肉を使ってるわけだし。

それなら、どうせ生きる事に力が必要なら、徹底的に使っていこうじゃないか、その行き着く先に、戦いってのが出て来るんだと思います。

戦いって、自分が相手なんですよね。他人を潰すとかが目標でなくて、自分を乗越えてどんどん強くしていく、そこが大事なんだと思います。て〜か、勝手にそう思ってるんですね。

tom
6. Posted by mayumi   2006年12月15日 22:47
私の彼(まだ彼じゃないけど・・・)もbusy busy と言ってますが、土・日はちゃんと彼女と過ごしてる。その代わり、ウィークデイは10〜12時間は働いてますね。
7. Posted by 妹   2006年12月17日 07:22
素敵。
たった今、音楽の流れていない部屋でこれを読んだけれども、
音楽が流れている錯覚に陥りました。
歌の歌詞そのままよりも、歌を聴いて・歌って感じる感覚的なものと、
感情がシンクロして、ぞくっとしました。
感覚・感情を大切にしながら、人間らしい生活をしていけるNZが大好き。

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