2007年01月06日

世情

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CDが見つかったら買おうと思っていた、中島みゆきの「世情」。偶然入った福岡天神のじゅんく堂の地下にある、レンタルビデオやPS3、wii等を売ってる店の片隅に「ニューミュージックコーナー」というしけた棚があり、そこに置かれていたのだ。

 

1978年に発表された「愛していると云ってくれ」というLPに入ってたこの「世情」は、当時の時代背景をよく現してるが、何よりも、今の時代にそのまま通じている。

 

中島みゆきは、高校生の頃に大分のデパートでライブをやっていた時に初めて見た。「時代」で売り出して地方巡業、当時はデパートでパイプ椅子に座って無料のライブだった。今では考えられない事だ。

 

白い割烹着を着た近くのおばさんが子供を連れてパイプ椅子に座って、訳の分からない当時で言う「ニューミュージック」を、不思議そうな顔で聴いていた。

 

何せギターを弾いてますと言うだけで不良と思われていた時代なので、おばさんからすれば不良の全国大会で優勝した生意気な女、という印象しかなかったのだろう。(1975年の全国ポプコンで優勝)

 

丁度社会に出たその年に発売されたこのLP。ベトナム戦争が米国の敗戦に終わり、日本が国際的発言力をつけ始め、日本社会全体が大手企業を中心に盛り上がっていた頃だ。

 

企業戦士と言う言葉に励まされたサラリーマンが、自分の結婚式の当日の朝まで徹夜で仕事してたとか、子供が生まれても病院に行かないのが当然、ましてや奥さんが職場に電話でもしてこようものなら「何と言う女々しい奴だ!」と、周囲からお叱りの声を受ける時代だから、蝶よ花よなんて唄ったり、ましてや「君が好きだよ〜」等唄おうものなら、「軟弱者!」と云われた。

 

世の中はいつも 変わっているから

頑固者だけが 悲しい思いをする

 

変わらないものを 何かにたとえて

その度崩れちゃ そいつのせいにする

 

シュプレヒコールの波 通り過ぎていく

変わらない夢を 流れに求めて

時の流れを止めて 変わらない夢を

見たがる者たちと 戦うため

世の中は とても 臆病な猫だから 

他愛のない嘘を いつもついている

 

包帯のような嘘を 無破る事で

学者は世間を 見たような気になる

 

シュプレヒコールの波 通り過ぎていく

変わらない夢を 流れに求めて

時の流れを止めて 変わらない夢を

見たがる者たちと 戦うため

 

「シュプレヒコール」なんて、今はすっかり死語だろうが、当時は70年安保体制や浅間山荘事件、総括と言う名目で学生同士が殺しあってた運動の名残があって、国会前で学生がデモをやったりしてた頃によく使われていたドイツ語だ。

 

Sprechchor デモや集会で、参加者がメッセージスローガンを一斉に唱えること」

 

この歌は「3年B組金八先生」の「腐ったみかん理論」の回でも使われていたそうだ。僕自身はこのテレビを観てないが、あの頃の金八先生は、一大流行になった事だけは憶えている。

 

「包帯のような嘘を見破る」とか、中島みゆきならではの歌詞使いは、背筋がぞくぞくしてくる感じだ。他にもこのCDは、最初の一曲、と言うか、「元気ですか」と言う、朗読?詩?が入ってるが、これがまた信じられないほどの詞。

 

たった3分程度で、一つの世界を切り取って、僕らの目の前にぽんと放り投げる彼女の語学の才能は、まさに当時の最高峰だった、と勝手に思っている。

 

そう言えば同じ売り場にルネ・クレール監督の「巴里の屋根の下」があったので、他のクラシック映画と合わせて数本購入したが、著作権が50年で切れたので、たった500円で購入する事が出来て、何だかとてもお得な買物をした気分だ。

 巴里の屋根の下

昨日は早速、一人で真夜中に鑑賞。

 

CG技術が発達した今では、到底出来ないような俳優の演技や、忘れられた技術があちこちで見られて、それだけで十分楽しい。

 

映画を「絵や画」にして余計な言葉や効果音を省き、そこに素敵な音楽を乗せると、これで芸術が出来上がると言う事をルネ・クレールが教えてくれた1930年の撮影だが、これなど「良い作品は時代を超えて生き返る」んだな〜と思った。

 

LPがCDに替わり、遂にはインターネット配信という時代になったが、その時一番大事なのは、どう配信するかではなく、何を配信するか、だろう。そうなると、コンテンツが勝負になる。

 

今の技術革新が、古くても良いものを再発掘して、それをどんどん世間に再配信する事で、本物の良さが次の世代に伝わってくれるといいな。

 

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tom_eastwind at 16:19│Comments(0)TrackBack(0) 最近観た映画 

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