2007年03月18日

お代は見てのお帰り

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最近は上方落語の人気が出ているという事で、ちょいとうれしい。それに漫才芸人でも、きちんと言葉で笑わせてくれるコンビが増えてきたのも喜ばしいことだ。

 

今までは、どっかのリーゼント頭が相方の頭を引っ叩いたりけなしてりして(おまけに実生活でも女性をぶん殴るなど)、それを笑いと思っている漫才が主流で、人間が他人を馬鹿にして喜ぶと言う低脳で下俗な趣味だなと嫌気が差していたからだ。

 

しかしまあ、そんな連中のやってる「行列の出来る〜」お笑い番組で使われている法律ねたを本気で信じて実行する、「あるある」並みの視聴者が続出したら、どうするつもりかな。

 

まあいいや。

 

言葉は言霊(ことだま)、それをうまく操り、他人を笑わせて一時の娯楽を与えてくれると言う高級な技術は、何ともお洒落な商売だと思う。それに、笑いは病気を治すという効果もあるという話も聞いた事がある。

 

普通の男は、女性をちょいと笑わせるためだけに、高級レストランを予約して高いワインを注文して、前日に本屋で買ったコネタ本でネタを仕入れて、それで「さあ本番!」と臨むのに、笑ってくれない女性の多い事。まあ、金さえ払えば笑ってくれると思うほうもかなり寒いが。

 

男たちは高いお金を払って場所を設定して面白い?話をしても相手に聞いてくれないのに、落語家は、相手にわざわざ寄席まで来てもらい、ちょいと一時の話をして、ちょいとお客様を笑わせて、それでしっかりと一人3千円とかのお金を貰うのだから、そりゃすごいわ。話をするだけで金をもらえると言う人はどれくらいいるだろうか?

 

最近では、漫才でも自由入場形式でお客の前で話をして、面白ければ納得する金額だけお金を払うと言う「お代は見てのお帰り」システムが導入されている場所もあるようだ。

 

まあ、落語家の在庫はゼロだし売り切れもない。これは、当たれば良い商売だ。その代わり、毎日が戦いだろう。世間様のようなお休みもなければ、毎日がネタ仕入れで、息を抜く暇もないだろう。常に最新の情報と、人が思いも付かない切り口で物事を見る視点が必要だからだ。

 

面白かったらお金を下さいなという商売は、落語に限らず神社の夜店でやる「轆轤首(ろくろくび)」とかでもある。

 

「さあさあみなさん、お時間のある方は是非ともこちらへどうぞ!親の因果が子に祟り、生まれてきたのがこのこども〜」で始まる縁日の旅芸人や、「はいはいそこ行くお客さん、おおいたち、見たことありますか!?お代は見てのお帰りで結構ですよ!」とやって、それならと物珍しさに入ってきたお客は、大きな板に付いた血を見てびっくり仰天。

 

金を払うかどうかは本人次第だから、これもありなのだろう。

 

日本ではこのように、元々「後払い」と言う仕組みが存在している。企業同士の取引でも、3ヵ月後の後払いとか約束手形等が常識だ。何故なら、島国では相手が逃げるとかあり得ないし、金を払わずにしらを切るなんて事をやったら、地縁血縁社会の日本では、誰にも相手にされなくなるからだし、もっと言えば、支払う方は誠実だという日本独特の環境があるからだ。

 

ただ、国際取引においては「お代は見てのお帰り」では成立しない。

 

その最たるものに旅行業があるだろう。例えばあるご夫婦が南米一周旅行で15日間の旅を楽しみたいとする。そうなると代金は一人30万円以上だろう。

 

海外旅行は様々な手配の組み合わせだ。まず飛行機が飛び、ホテルを予約し、レストランの席を予約して、バス、日本語ガイド等、南米各地の細かい手配が必要になる。

 

飛行機やホテル、レストランと言うのは設備産業であり、例えば航空会社なら、彼らはまず自己投資を行って飛行機を買って空港と契約して莫大な事前投資をする。ホテルも同じがだ、この業界に共通するのは、彼らが売っているのは「ある日のある時間」であり、「その時」が過ぎれば在庫がゼロになるリスクビジネスだという事だ。

 

洗濯機やテレビ等の家電製品なら、今日売れなければ明日売ればよいとなるし、レストランなら食材を明日使うこともできる。が、旅行業界では殆どの商品が、今日売れなければ明日は在庫としてさえ存在しない。時間が過ぎれば在庫が消滅するという商売だ。

 

だからそのリスク回避の為に先払いという仕組みが、当然出てくる。

 

だから、例えばオリンピック開催地のホテルや入場券は、旅行会社は2〜3年くらい前から仕入れを行ない、支払いもするが、ホテルの部屋は仕入れと言っても形はない。あくまでもホテル側の「あなたの予約を受け付けました」という確認書のみである。

 

払うほうからすれば、「ふざけんな、そんな2年も3年も先の、口先だけの約束で何十万円も払えるか!」という事になるのも、それなりに納得出来る。入場券もしかり、そんなオリンピックなんて、国際情勢が変化すれば取りやめになるかもしれないし、日本チームが参加出来なくなるかもしれない(モスクワオリンピックみたいに)のに、金なんて前払い出来るかって事だ。

 

しかし、ホテル側からすれば、オリンピックが開催されれば確実にホテルの部屋は需要があるし高く売れる。

 

もし前払いしてくれるお客と、当日宿泊してからでないとお金を払わないと言うお客がいれば、何せその日が過ぎてしまうと在庫さえ残らない商売だから、そりゃあ前払いのお客を選ぶ。

 

ましてや海外から来る客なんて、どう代金回収をすればよいか分からない。だったら、お金を先に貰わないとやってらんね〜よということになる。

 

何せ現地到着の数日前になって「やっぱり行くのや〜めた、金も払わん」となると、簡単に第三者に転売出来るものではないような商品だから、まるまる損をしてしまう。だからどうしても前払いという仕組みを導入せざるを得ない。

 

これは、言葉を変えて言えば、西洋ではサービスを提供する側とサービスを受ける側が平等であると言う考え方が根底にある。私はリスクを背負ってホテルを作った。ならばあなたも金を先に払うと言うリスクをいくらかでも背負って欲しいという事だ。

 

商取引の平等と言う観念がない日本で「お客様は神様」神話がある中では、前払いを要求することは非常に難しい。

 

東京の、外国人がよく利用するテルのレセプションのチェックイン時によく見かける光景が、例えば九州の山の中から出てきた雰囲気の日本人が「おい、カードギャランティって何ば言いよっとや?俺が金ば払わんで逃げるとか思っと〜とや!」と怒る場面である。

 

これは、九州人(例ですよ、他の地方でも同じと思いますが、あくらまでも、例です)はちゃんとサービスを受け取れば、ずるいことなど考えずに代金を払うと言う「支払い側の誠実」が大前提、常識として存在するから、泊まる前に金を払うという仕組みは、「俺の誠実心が信用出来んのか?」と、まるで疑われたような気持ちになるからなのだ。

 

ただでさえ短気で面子を大事にする九州人に向かって、「実はそうなんですよ、あなたを信用していないんです」と本音を言えば、おそらく喧嘩になるだろう。

 

しかし、事実はそうなのだ。ただ、だからと言って怒らないで欲しい。何故なら国が違えば、「何?前払いしなくて良いのか?それなら泊まってから払わずに逃げればよい」とか「漫才を見て楽しんで、お代は払わないよ、これ当然!」と言う常識も存在する。支払い側が不誠実である事が前提の国も、世界にはあるのだ。

 

ならば、ホテル側としても自分のビジネスを守るためには、前払いとは言わなくても、少なくともカードギャランティーはして欲しいということになるのは、当然ではないだろうか?

 

「わたしゃ海外なんて関係ないね、一生行かないし、外人さんと話すことなんてないからね」と、水上山地の人気のない農家で生活をする80歳のおばあちゃんが前払いなんて!というなら、これはそれなりに納得出来る。すべてがドメスティックだから。

 

でも、海外に目を向けるなら、海外企業と取引をするなら、顧客と企業が平等であると言う厳しさも同時に学んで理解してもらいたい。英語を学ぶのは手段であり、英語を通じてそのような「日本とは違う世界」がある事を知ってもらいたい、それが本当の国際理解に繋がるのだから。

 

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tom_eastwind at 00:46│Comments(0)TrackBack(0) 諸行無常のビジネス日誌 

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