2008年02月28日

明日の広告

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「明日の広告」佐藤尚之

 

君が人を好きになった時にとるべき最善の方法は、その人のことをきちんと知ろうと目を凝らし、耳をすますことだ。そうすると、君はその人が自分の思っていたよりも単純ではない事に気づく。極端なことを言えば、君はその人の事を実は何も知っていなかったのを思い知る。

 

「映画篇」金城一紀著/集英社  (勝手コピーです)

 

 

1993年~95年のインターネット台頭初期からインターネットの未来性を見抜き、大手広告代理店のディレクターとして20年以上勤務しながら、既存の広告形態に警鐘を鳴らしてきた現役のクリエーターの最新作。

 

彼は食い物好きでも有名で、自分で「さとなお.com」というコラムでも日本各地の味を楽しく案内してくれる。

 

実は去年、ある他のブロガーの書き込みが原因で、さとなおさんと2回くらいメールのやり取りをしたことがある。

 

その時の文象(文章から感じる印象)が非常に人当たりが良く、それ以前にもまして彼のブログを拝読して、東京に行くときのレストラン選びの参考にさせて頂いてる。

 

その彼が本業である現役広告クリエーターとして、広告は今後どうなるのか?という点を、危機感を持ちながら、だからと言って「やめちまえ!」というのでもなく、現実的に問題点を提起しながら、じゃあここからやっていこうよと提言する本。

 

内容自体は彼も言うように、危機感を持つ先行者が指摘した件と重複するし新しい内容もない。ただ、基本に戻ろうよってよびかけが、実に良い。

 

華やかさに浮かれるのではなく、お客が何を望んでるのか、そこさえ掴めば広告はこれからもやっていけるよ、そういう呼びかけだ。う〜ん、広告業界だけじゃないよね。

 

ただ、現在の広告業界の構造を知らない人には意味不明な本である。つまり、業界で働いてるけど危機感がない人、その辺に読者層を絞り込んでいるのだ。

 

そりゃそうだ、元々が業界向けの講演の記事を起こして本にしたのだから、そういう意味では読者層が思いっきり狭まる。

 

ただ、彼もびっくりするように、1月の発売以来、すでに第4刷が出ている。

 

彼が本書の中で指摘する「広告やTV業界批判の煽りすぎもどうなのか?」と指摘する本が、これがまた日頃僕がよく拝読する「池田信夫ブログ」で有名な池田氏が執筆する本である。

 

NHK元ダイレクターと、電通の現役ダイレクター。両方の著書を読み比べて見ると、実に面白い。

 

結局、ギョーカイを出てしまい利害関係もなくなり、客観的というよりも、後輩に対して「お前らもう終わってんだよ、何やってんだ、やめちまえ!」と、ちょい主観的自虐的にギョーカイそのものを否定して本を出すNHK元ダイレクターと、「先輩、何言うんっすか、俺たちまだこのギョーカイでメシ食ってるんすよ、そんなに否定されて、じゃあ俺たち、どうしろって言うんっすか?」ていう現役ダイレクターの声を代表して本を出す現役ダイレクター。

 

ただ、この業界が他の業界と同様にインターネットの出現で100年に1度の大津波に巻き込まれ、さあ、これからどうするのか?と真剣に考えて右に舵を切る連中と左に舵を切る連中と、船の中で酒を飲みながら外の事を見ようとしない連中に分かれているのが、良く分かる。

 

これって、江戸末期の日本だよね。尊皇攘夷と開国派、地方の百姓は政府が変わった事も知らないまま、今年も米の取れ具合だけ気にしてるって絵柄だ。

 

君が人を好きになった時にとるべき最善の方法は、その人のことをきちんと知ろうと目を凝らし、耳をすますことだ。そうすると、君はその人が自分の思っていたよりも単純ではない事に気づく。極端なことを言えば、君はその人の事を実は何も知っていなかったのを思い知る。

 

「映画篇」金城一紀著/集英社

 

上記の文章は、「明日の広告」の巻頭に書かれている。さとなおさんは、これを広告の世界に持ってきて「ラブレター」を比喩として、広告がいかにして愛すべき消費者にラブレターを送り接触すべきかを本の中で説明してた。

 

本の後半では、彼が実際に関わった星野仙一の個人広告や、スラムダンク1億冊感謝キャンペーンを通じて、広告はどうあるべきかを語っている。

 

読了して気づいたのだが、結局元NHKダイレクターも現役電通ダイレクターも、言ってることは同じ。

 

「時代は変化しているのだ。君も変化しろ。変化のない動物は、遂には時代に取り残されて博物館行きだぞ」

 

・・・・・・・・・・・これって。

 

客を見る。見抜く、そして、彼らの語ることではなく、彼らの語りたいことを聞き取る能力。それが僕らに要求されている。

 

スラムダンクキャンペーン。誰にでも無節操に商品を売るのではなく、納得してくれた人にだけ提供したい。それがうちの商品。その代わり、一度買ってくれれば、最後までお付き合いします、絶対後悔させません、そんなビジネスが、これからのあるべきサービスになるのではないか。

 

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明日の広告 変化した消費者とコミュニケーションする方法 (アスキー新書 045) (アスキー新書 45)

 

 

 



tom_eastwind at 00:33│Comments(1)TrackBack(0) 諸行無常のビジネス日誌 

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この記事へのコメント

1. Posted by May   2008年02月28日 17:39
君が人を好きになった時にとるべき最善の方法は・・・、これって何にでも使える。興味を示して欲しい時は、興味を惹かないと博物館行きかぁ。その人が、今して欲しいこと、言って欲しいこと、見たいもの、聞きたいもの、そりゃあ真剣に考えると複雑だ。でも、真剣に考えなさすぎると簡単に離れて行ってしまうのね。

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