2008年05月06日

函館

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本州の最北端から海底に潜り、1954年に1430名の命を奪った宗谷丸事故bywikiの起こった津軽海峡をくぐり北海道側に入る。

 

海峡の長いトンネルを抜けると、そこは北海道。そりゃ長い、30分も海底に潜っているんだから、長い。

 

北の玄関が函館と言っても、トンネルの出口に函館駅があるのではない。北に向けて弓なりになった湾を、右手に青森の陸地を眺めながらぐるりと回ると、大体15分ほどで函館に着く。

 

函館到着が13時58分。家族にとっては弘前も函館も初めての街だが、実は僕にとっても函館は事実上初めてに近い。実際は函館、30年近く前に来た記憶があるのだが、勿論その頃とはすべて変わっているわけで、最初から躓く。

 

つい最近改築された函館駅に着くと、ここはホームが終点なのでホームをずっと歩くだけで階段使わずに移動できる。う〜ん、うまく説明出来ないけど、要するに電車の始発駅みたいな作りなので、荷物を持って階段登ったり降りたりが不要。

 

一応函館で老舗だし有名だし名前からしても国際ホテルなんて言ってるので、駅を降りればすぐに分かるだろうくらいに考えてたら・・・おいおい、駅前広場はだあだっぴろく、右手にも左手にも背の高いホテルが見えるのに、一番肝心な函館国際ホテルがないじゃんか?

 

事前に電話した時も、「駅から大通りを歩いて5分ですよ、すぐ分かりますから」とホテルの人に言われてたのだが、駅を背中にした広場から周囲を見回しても、そんなもん、ない。

 

11階建ての建物だし、周囲のビルの合間からでも見えるかと思ったけど、全然だめ。駅を降りて正面を進むと、そこはもう駅前商店街と電車が走ってる。おっかしいな、ホテルは駅前じゃないのかよ?駅前って言ったよね?

 

冷たい春風の中、5分も立ってると家族からの非難の目つき。仕方ないので駅前ターミナルの案内所に行き、場所を訪ねると、20歳前半の彼女も、あっさりと「あ、そこの駅前の大通りを真っ直ぐ行ったところですよ」と指差す。

 

その指差した先には、海とフェリーターミナルと埠頭と貨物船が並んでるだけ。

 

hakodate ekimae toriおいおい、こっちが駅前大通り?????????

 

あ、そうか!函館では港が元々は街の中心で、その左側に駅が併設されて、右に国際ホテルがある。だから駅前の大通りと言うのは今の本州の感覚で言う駅の横の裏道なのだ。

 

hakodate hakkoda maruその昔青函連絡船がやってきてた頃は、駅前通から函館駅に行き、北海道のあちこちに皆さんが散らばっていたんですね〜。

 

だから僕らが立っている普通の感覚で言う駅前は、駅前ではなく街であり、昔は大門と呼ばれた遊郭があり、宿屋があり、飲み屋が連ねていた繁華街なのである。

 

もらった地図を見ながら、重い荷物を抱えて人気のない歩道を反対向きにぼちぼちと歩き始める。

 

さぶ!風は冷たいし、ホテルの場所は分かったけど、そんな建物見えないし、大体そんな駅前通りなら、何でこんなに空き地とだだっぴろい道路ばかりなのよ?!何で誰も歩いてないんだ!平日の午後だぞ、14時過ぎだろ!

 

7〜8分ほどふーふー言いながら歩くと、やっとホテルの天辺が見え始める。少しほっとするが、それでもまだロビーまでは遠く、更に5分ほど歩く。

 

結局ありゃあ、荷物があったら歩いて15分だべさ。かと言ってタクシーだとワンメーター、5百数十円。駅前で長い行列を作って待ってる運転手さんには、申し訳なくて乗れない。

 

やっとの思いでホテルに入ると、あ、そうか、そういう事ですかって、中途半端な距離の疑問が氷解。

 

このホテル、建築された当時は函館でも一流のホテルだから、立地も実は一流だったのだ。

 

hakodate mashu maru当時のこのホテルの利用客からすれば、フェリーターミナルから歩いてすぐだし、地元のロータリーとかえらいさん達の集まりでは、おっちゃん、元々自分で歩かない。すべて社用車で来るわけなので、函館駅からの距離なんて関係ない。

 

 

大体函館と言うのは、元々函館山のある地区が明治時代から栄えており、金森倉庫とかもホテルのすぐ横にあり、当時で考えれば最高の立地だったのだ、当時ならね。

 

ところが時代が変わり青函連絡船が廃止され、町の中心部が五稜郭のほうに移っていき、港を賑わしていた北方漁業が衰退していくにつれ、倉庫もフェリーターミナルも不要になっただべさ。そして周囲の建物は次々と壊されて更地になっていく。その結果ホテルの周囲は空き地だらけとなる。

 

そうなると、海外や内地から電車でやってくる旅行客にとっては、このホテルの中途半端な立地が、中途半端でなく厭らしいものになる。

 

でも、今でも「当ホテルは函館で最高のホテルでございまして、地元名士がご利用頂き、結婚式も会社のパーティも当ホテルで行うのが、地元の人々にとってのステータスになっております」ものですから、自家用車もなく内地からデカイ荷物を担いで歩いてくるような「名士でないお客様」は、歩けという事なのだろうね。

 

実際、僕ら以外にも同じ電車から降りた外人さんグループが、いくつかガラガラと荷物を引っ張りながらホテルに向かってた。

 

少なくともホテルから函館駅までの送迎バスくらい出しても、ばちは当たらんと思うけどね。

 

そうそう、地方にいけば、必ずこんなホテルがある。今は名古屋を地方とは言えないけど、名古屋城の目の前にあるキャッスルホテルは名古屋の名門。ところが駅前ではないのでビジネス客には不便。

 

これでウエスティングループですかい?となるが、ここもやはり地元の人からすれば「まあ、キャッスルホテルでご結婚なんですね」となるし、お客様を呼んでの会社のパーティともなると、黒塗りトヨタリムジンがずら〜っと並ぶってなもんだ。

 

とにかく地方には、その地方の名門ホテルとデパートが欠かせない。

 

福岡で言えば西鉄グランドホテルと岩田屋。函館で言えば、それが国際ホテルと棒ニ百貨店であろう。函館のホテルとデパートの共通点は、どちらも終わってるってところかな。

 

もうそのビジネスモデル、通用しないんですよね。あなた方がその昔から接客し続けてた人々はすでにこの世を去り、新しい世代の人はホテルやデパートの利用方法が全く変化しているんです。

 

そう言っても今もホテルで働く彼らは聴く耳を持たない。丁度、古ぼけて朽ち棄てられた大邸宅で出てくるお化けの執事のようなもので、彼にとっては僕らの言葉は耳に入らず、死んだ後も同じ事をずっと繰り返して、古きよき時代を守っていくのだ。当然だ、利益等考えなくて良い人が殆どなのだから。

 

ホテルのロビーは最近禁煙を開始したのだろうが、昔から壁に染み付いたタバコ臭さと何となく薄黄色が全然抜けてない。入り口横の「今日のご宴会」の上部には、少し埃をかぶったままの半永久的に張り付いてるプレートが、堂々巡りさん(ロータリー)とか寅さん(ライオンズ)とか少年会議所とか書いてる。

 

どれも楽しそうな集まりだ、時間があれば一杯引っ掛けてから顔でも出して見るか。

 

ロビーでは、このようなホテルにお定まりの人々が、お定まりの格好でたむろしている。いやさ、別に溝鼠色のサイズの合わない皴のよってるスーツは構わないし、ごま塩頭に赤い顔してビール臭い息で同じような仲間とロビーにいるのは良いけど、ロビーのど真ん中に立たないでくれる?

 

こっちは函館駅から歩いてきてふーふー言ってるのに、さてチェックインしようとすると、まるでサッカーかラグビーの守りみたいに、横一直線ディフェンスだもんね。ありゃまいったわ。

 

ホテルの人からしても、僕らのようなカジュアルウエアの個人客は透明人間なのだろう、ロビー入り口のベルキャプテンさん御一行もロビーのお客に眼が行ってるようで、歩いてやってくるなんて客がいるわけないと思い込んでるのだべさ。

 

函館良いところだろうしラーメン美味いだろうし、何よりJRの切符は3日後を買ってるし、ここ以上にサービスの良さそうなところに移るにしても、そりゃあ熱いフライパンから飛び出たら、煮えたぎった鍋に落ち込むようなもんだ。

 

しばらく考えたが、とりあえず疲れてたので、その辺のディフェンスのおっちゃん二人ばかりにガラガラの足をぶつけながらフロントに辿り着く。

 

あのがらがらってよく出来てて、相手が通り過ぎたと思って横切ろうとしたりすると、足元を移動中のがらがらの足に、もろに踏まれる仕組みだ。合法的に他人の靴の上を大きなローラーで横切れる、数少ない手段である。オークランドに戻ったら本格的にラグビーの練習でもするかな。

 

ロビーで昔ながらの鍵を受け取り、「あの、家族4人なのでスペアキーありますか?」と聞くと、普通ににっこりと「ありません」。ケータイのない時代は、4人家族が常に一緒に行動してた時代だもんな、かぎなんて二つも要らないよな。

 

部屋は海向きの8階なので、景色はとても良い。真正面に海が広がり、左手には函館山が見える。

ロビーがたばこ臭いなんて贅沢言っちゃいけない、僕らのお部屋のある階は、何と禁煙階なのだ!ぱちぱちぱち!部屋の広さを表すのに、さすがに四畳半とは言わなかったホテルマン、立派です。

 

そうこうしながら、函館の旅は始まったさ。



tom_eastwind at 06:55│Comments(0)TrackBack(0) 日本 | 諸行無常のビジネス日誌

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