2008年08月03日
若者はなぜ正社員になれないのか
最近は格差やフリーターに目を向けて、彼らを調査の対象として書かれた本が激増している。
そう、まさに激増。データにして統計的に分析したり、その心情を一緒に生活することで理解しようとしたり。
この本あるブログで見かけた記憶があったので、東京の本屋で購入。
結論=これはハウツー本でもなく自己啓発本でもなく社会批判本でもない。文学的センスのある若者が自分の体験を文書化しただけの「読み物=小説」である。
「ハウツー本でもなく自己啓発本でもなく社会批判本でもない」からと言って内容がないようとか言ってるわけじゃない。
むしろその反対で、「おお、この作者の感性と表現力、すげえな。多くの研究者が今まで言葉に出来なかったモノを見事に文章にしている」って感じだ。
最近の中では出色。
というのが、作者自身が実際にネットカフェで寝泊りをして、日雇い派遣で生計を立て、その合間に面接をちょこっと受けて、時間と金に余裕が出来ればパチンコもして、喫茶店で周囲の若者が嫌がるのも構わずタバコを吸って、と言う「安定した?生活」を送っている若者の側から、つまり研究の対象自身が自分を分析しているのだ。
若者が一生懸命勉強して安定した会社生活にうまいこと入り込んだのは良いが、実は毎日が綱渡りであり不安定であり、これからの約40年を業績だけではなく上司へのごますりや人脈構築の失敗で「失敗する可能性=降格、左遷、首の危機」に晒されるし、無事に生き残ったとしてもその将来が目の前にいる役立たずの部長や役員ってなるのか?って事に気づいたらどうなるのか?
安定した生活を得る為に(入社の為だけに)「子供の頃からわき目も振らずに勉強して個性を殺してしまった今までの自分の努力」を、「会社生活から得られる不安定な立場と収入」とを比較して、一体おれってナンなのと、一生懸命生きることの無駄さを感じる若者がいる。
安定した生活を得るために、学校の先生の教えることだけが正しいとしなければ受験に落ちるから自分で考える力を放棄して、悪い未来と正面から戦っていこうと言う独立した気概を学校の画一教育の結果として放棄させられた子供。
親の世代の人々から、未来は悪くなるぞ、地球温暖化だ、高齢化社会、汚職、親の世代のようには増えない収入と言われ続けて、それでも未来は良くなるんだ、いや、良くしていくんだなんて明るい気持ちを持てる子供が、どれだけいるだろうか?
作者が言いたい「未来を知ってしまった絶望」とは、このあたりにあるのではないだろうか?
それでも全体的には軽く書かれている。見えてるけど、非難はしない。大声を出さない。
ハローワークに一歩足を踏み入れた時の話でさりげなく“苦しみのあまり「仕事を、もっと仕事を」と叫ぶのは理性的ではないし”なんて書いてる。
丁度良い軽さ、なのだ。書き過ぎてもいないし皮肉さもなく、かと言って怒りもない、丁度良いのだ。まさに哲学者の観点から書いている。
でも、彼が映し出す正社員ではない若者の姿も生活も、間違いなく今の世の中が作ったものなのだ。
200ページ程度の薄い本だし文章の切れも良いので読みやすい。ただ、日頃本を読まない人には、この本は恐らく面白くない。「何言いたいのあんた!?」で終わりになってしまうと思う。
もし日頃本を読まなくてこの作品を読んで興味を持つとしたら、それは・・・。
写真はホブソンストリートの朝、通勤時間です、、、なのに車、少ないね。もうスクールホリデイは終わってるんですけど・・・脳内スクールホリデイなのか?