2009年01月18日

国家に隷従せず

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隷従(れいじゅう)ってのがまず難しい言葉。

 

隷属(れいぞく)して従属(じゅうぞく)して、略して永住、じゃなかった隷従。

 

だいたい隷従なんて言葉を使っても何人がそれを読めるのか?

 

0重=れいじゅう。

 

霊獣=れいじゅう

 

まさか怪物の仲間とは思わないだろうが、至って難しい言葉。

 

だから本屋でタイトルを見ただけで避ける人もいるだろうが、ご心配なく、内容も同じようなものだ。

 

内容は1990年代後半から9・11テロ後の頃のジャーナリストの私的ブログである。当時はもちろんブログと言う言葉もなかったが、毎日適当に思いつくことをコラムにして、それをまとめた本として出版したのだが、政治家、右翼や左翼、民衆の批判をしている。

 

けど読んでるとジャーナリストの限界を感じさせる本だ。

 

ジャーナリストとか戦場の写真記者とかの究極のテーマとして「目の前で爆弾に吹っ飛ばされそうな兵隊がいる。君はその瞬間を写真に撮って世界に発表することで戦争を無くそうとするのか、それともカメラを放り投げて目の前の兵隊を救うか?」がある。

 

斉藤貴男という人は真面目な人だと思う。彼なりに一生懸命やってるのもよく分かる。だからついつい他のジャーナリストがやらない究極の追求をやってしまい、本の中で自分の限界を晒してしまうのだ。

 

これは決して悪い意味ではない。ただジャーナリストと言う存在は、まず世界に現実の動きがあってそれを追っかけると言う作業であり、誰も何もしなければジャーナリストの存在価値はないのだ。

 

つまり、どう転んでも現実の動きが主であり、ジャーナリストは動きを追いかける従なのだ。

 

その意味でジャーナリストは「国家に隷従せず」ではあるが、現実の動きには追従せざるを得ない。

 

いきなりしょっぱなから小難しいことを書いたが、斉藤さんのような優秀なジャーナリストでなければこういうことは書けない。

 

何故なら世の中にまともなジャーナリスト、つまり現実を見てそれを批評して「木鐸(ぼくたく)」となるべきジャーナリストが殆どいないからだ。

 

その意味ではこの本は非常に面白い。

 

例えば厚生年金は戦時中にどさくさにまぎれた始まった仕組みで、元々国家が軍事費用を集める為に考えられた手段だとか。最初から国民の老後とか将来等考えてないのだから、今の事態が良く分かる。

 

今問題になっている非正規社員の問題も彼は2004年の時点で指摘している。先をしっかり見通した人だと思う。

 

煙草議論についても客観的な視点から書いており興味深い。個人の生活に政府がどこまで入り込めるのか?

 

戦後の日本は規制が中心だったけど、戦前の日本は牧民官であったとする点も面白い。戦前はごく一部の優秀な官僚によって羊たちは自由を与えられていたから民主主義ではないという点は、その官僚と民間が常に入れ替わる仕組みを作れば民主主義ではないか?

 

実際にニュージーランドでは官僚も政治家も二世もいなければ永久就職でもない。だから牧民官と羊が不定期に交代しているのだ。これが問題なく続いているのは、やはり汚職が世界でトップクラスに少ないし、その根っこにはGoodOldBoyが道徳を持っているからだ。

 

内容には僕からすれば的外れな問題提起もある。例えば小泉元首相と二人三脚で構造改革をやった竹中元大臣に対する批判など、じゃああの時点で他の選択肢はあったのか?そして彼の残した結果はどうだったのか?と言う現実の視点から見ればおのずと答えは出ると思うのだが。

 

それから根本的な問題として、日本が軍隊を持つべきかとかは、彼の意見が全面に出ているのだが、その論拠がどうしても「憲法に書いているから」となるのは面白くない。

 

軍隊であろうが原発であろうが、国民の総意を得るためには議論が必要だけど、その論拠が「だってケンポーに書いてるもん」ではダメ。やはり紙面を割いてでも戦争と国家の関係を子供同士の喧嘩と家庭の問題にまで落とし込んで書くべきだろう。でなければ触れないほうが良いと思う。でないと読者には消化不良になるもんね。

 

憲法は国民のものであり、法律も同じだ。憲法を守ることは必要だし、だから憲法に書いてある「国民の生命と財産を守り公衆衛生を行う」のは政府の役目だけど、国民自身がそれに疑問を感じれば、これは堂々と変更すべきだろう。

 

この本は社会問題を勉強する為の底本としては面白い。なので世の中がちょっとおかしくない?って感じ始めたら読んでみると良いかもしれない。けど解決方法は書いてない。

 

なぜならジャーナリストとは批判することが仕事であり、解決をするのが仕事ではない。だからそこに現実世界に生きる人間としての限界があるのだ。

 

本当に問題を認識して行動しようとすれば、今の時代は国会議員になるかどうかは別として「政治家」になるしかないのだ。

 

もしかしてこれは、作者が最初から意図的に「他人の批判をするだけでは話は前に進まないよ、この本を読んだら自分が何をやるべきか考えようね」と言う、暗黙の忠告をしているのかもしれない。

 

写真はビーチストリートから見る最近建築された高層アパートやオフィスビル。10年前に住んでた人からすれば「あり得ん」景色でしょうね。

 

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tom_eastwind at 00:50│Comments(0)TrackBack(0) 諸行無常のビジネス日誌 | 最近読んだ本 

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