2009年02月19日

木曽路はすべて山の中である

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月曜日の朝も晴天。

 

白馬から長野駅に向かう大型バスのターミナルでは、名残惜しそうに山を見上げたり昨日の滑りを思い出してにんまりする人たちが集まっていた。

 

乗客のうち9割が西洋人だ・・・。これってニセコに行った時と同じジャンか。あの時も札幌空港からニセコに向かうスキーバスには日本人乗客はゼロだった。

 

時間丁度ぴったり、まるで裏口で時間まで隠れてたんじゃないのって思うくらいOntimeにやって来たバスに、西洋人の皆さんは早速バス下部のトランクルームに荷物を放り込み始めた。

 

一個が30kgしそうな荷物がごろごろしてて運転手さんとおじさん二人で格闘してたんだけど、出来るだけ場所をきちんとする為に荷物のサイズをいちいち確認しながら、堅くて四角いものを下に載せて、その上に小型のトランクを乗せて、その上にソフトバッグを乗せる。

 

そうこうするうちに皆がバスに乗り込み始めるとどんどん座席が埋まってしまいはじめた。

 

その光景を見た運転手さん、突然怒りっぽい声で西洋人集団に向かって「おい!NO!こっち!」と怒鳴り始めた。

 

これには西洋人、全く意味不明。声を荒げているのは分かるけど、その理由が分からない。彼らからすれば外国に来てるのだから現地の人と喧嘩するのは避けたいだろうしバスには乗らねばならない。だもんで皆??な顔になった。

 

運転手さんからすれば要するに座席が足りないから降りてくれと言いたいのだけど、言葉が出てこない自分にいらいらするようで、手振り身振りで相手を指差しながら、やっと出てきた言葉が「あなざーばす!」だ。

 

これで西洋人、次のバスがすぐ来るから荷物はこのバスに積んで次のバスに乗れと言うことだなとやっと理解したようで、はいはいと言いながら定員をオーバーした数人がバスから降りていった。

 

普通座席に座りきれずに補助席に体の大きな西洋人がちょこんと坐ってたのは、思わず心の中で笑った。「あの補助椅子、絶対折れるぞ」。

 

けどま、運転手が客商売かどうかは別にして、わざわざ欧州や米国から高い金を払って白馬までやって来てるんだから、もちっと「おもてなしの心」が欲しいよねと思った。

 

バスが出発すると右手に八方尾根とジャンプ台が見えてくる。そして周囲に広がる山々。

 

遠くに見える山の名前を見るたびに山岳小説を思い出してしまったが、それにしてもこんな山に、それも雪の降っている時に登る人がいるのには唖然とするしかない。

 

小泉さんが「国民給付金法案が衆議院で再度採決をするほど大事な問題か?」と発言してここ数日の話題になっているが、ぼくも正直言って「死ぬほどの思いをしてまであんな山に登りたいのか?」と本気で思った。

 

だって彼らには親兄弟も家族もいるだろうに、死ぬような思いをしてまで、そして現実に死ぬ人もいるのに、それでも登りたいのか?もうこうなると山男は普通の常識では考えられないな〜、けど、それだけ情熱をかけることが出来るのも、すんごいな〜と感心してみたり。

 

そんな複雑な心境の中、バスは約1時間ちょいで長野駅に到着。「あっちは善光寺」ってサインが出てて、善光寺の重厚で歴史のある木造建築と近代的な長野駅のアンバランスが、これまた面白い。

 

ここでオリンピックやったんだよね、でもって去年は田中麗奈のスキー映画が作られたんだよね。

 

バスが予定より20分近く早く到着したので、駅で切符を買ってから待合室で信州そばにトライ。

 

「信州信濃のそばよりも、あたしゃあんたのそばがいい」なんていなせな言葉が頭を駆け巡りながら、立ち食い蕎麦のカウンターで海老天そばを注文。勿論ネギなしでお願いする。

 

「あいよ!」そう答えたおばさんは、大体60歳前後かな、いかにも地元の人で生真面目そうな顔。

 

もう一人のおばさんとチームを組んで仕事をしているのだろう、いつものようにちゃっちゃと麺を打って丼に入れると、そのまま何の気なしにねぎをぽい・・・。

 

実はこれが僕にとって一番辛いとき。というのが、もちろんこれは相手のミスではあるけど、慣れてしまえばついつい麺の次はネギとなる。ところがネギが入ったのが出されたら僕は食えないので、そんなときは「あ、いいですよ、もう一杯作ってください、お金は払いますから」と言うことにしている。

 

いくら客の注文とは言え、こちらのわがままなので申し訳ない気持ちになるのだ。

 

ところがこのおばさんは、入れてしまった瞬間に気づいて、「あらま!」と一言。でもってお箸で少し掻き出したのだけど、すでに大量のネギはつゆの中に浸み込んでしまってる。

 

それを見ていた隣の店員さんは「あらら、大丈夫よ、それくらい」だって。

おいおい、お前のせりふじゃないだろう、そう思ったが、まだそばがこっちに来てないので口も出せない。

 

ところが最初のおばさん、何を思ったか「ちょうどお腹も空いてたからいいやさ」と、あっけらかんと二杯目を作り始めたのだ。

 

「あらあら、あんたそんなことしなくても・・」

いやさ、だから二人目の店員さん、じゃあどうするの?

 

などと考えてたら天ぷらそばネギなしが出てきた。

申し訳ないなとか思いながら少し口をつけると、流石に本場のそばだけあって、実にうまい。麺もうまい。

 

で、竜馬君を呼んで立ち食いカウンターでそばを食わせ始めると、なんと最初のおばさんはカウンターの中から出てきて食券を買うのだ!

 

え?ということは、例え店員でもミスは許さないってこと?てか、作り間違いなんてミスの許容範囲内でしょうと思ったのだが、真面目なのか店の方針なのか、その食券をカウンターの切符入れに丁寧に入れてから、おばさんネギの入ったおそばを食べ始めたのだ。

 

日本でもある一部の地域の人は異常に真面目だったりする。これは地域性なのか風土病なのか分からない。

 

けど、そう言えばバスの運転手さんの態度と言い、あ、そうだそうだ、バスターミナルでリフトチケットを返して1千円の保証金を返してもらってたお客さんがいたんだけど、ターミナルの係員はじろっと客を見てから「これ、違う山ですよ」とぶすっと答える。

 

でもって「まあいいです、今回は特別に許しましょう、こっちで返金しますけど、本当はダメなんですからね!」と、ずいぶん高飛車。お客の方は金が返ってきたのでもうどうでもいいやって顔。

 

そう。長野の人は生真面目なのだ。

 

皆で決まりを作れば、状況がどう変わろうが必ず守る。とにかく決まりなのだ。守るのだ。

 

これに対して他の地方からスキーシーズンで働きに来ている若者等は、これは全く態度が違ってて、いわゆる普通のサービス。

 

もちろん長野でもおちゃらけな人も変化を好む人もいるんだろうけど、木曽路に入ってから見かけた人は、みんな生真面目で勤勉って感じを受けたのは事実だ。

 

以前に何度か書いたけど、日清戦争や日露戦争で出征した兵士たちは、各地域ごとに大きな違いを見せた。

 

九州出身の兵隊は、とにかく突撃に強い。後先考えずに鉄砲撃ちまくって突っ込むのだから、これは強い。攻撃には最高である。

 

けど一旦守りに入るともうだめ。守りに退屈してしまい、また塹壕から出て突撃してしまうのだ。勝てそうにも無いときだって、守りで退屈するよりは攻めたほうがましって感じ。全く命をなんと考えているのか(笑)?

 

これに対して東北の兵隊はとにかく守りに強い。一旦守ると決めたら何時間でも何日でも一つの塹壕に篭って戦うのだ。

 

日露戦争時の黒溝台の戦いでも、雪国出身の兵隊たちは守りを固めて頑固なまでに死守した。

 

これって、長い冬を雪に囲まれて過ごす人々が自然と身に付けたDNAなのではないかと思う。

 

帰りの長野新幹線に乗り込むとアルプス山脈がくっきりと空に聳え立っていた。あの山に多くのアルピニストが挑戦して命を落としたんだな。

 

あの山で長野オリンピックが開かれたんだな。

 

あの山で。今年も良い新日本紀行の旅になった。

 



tom_eastwind at 14:04│Comments(0)TrackBack(0) 諸行無常のビジネス日誌 | 日本

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