2009年04月02日

ワルキューレ 真夜中の会議

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僕が英語を学び始めて真っ先に感じたのは、英語では欧州の地元の発音や言葉でも一切お構いなく綴りに合わせて英語で発音するって事だ。

 

最初に感じたのはMunich。英語ではミューニック。僕らは学校ではミュンヘンと習った。これはやっぱり開国した日本が最初に欧州に使節団を送り込み、その国の言葉で発音を覚えたからだろう。

 

ワルキューレは第二次世界大戦当時のヒトラー暗殺に関する実話をベースとした物語でトムクルーズ主演の映画であるが、社会派映画ではない。

 

・ヒトラーがどうやって台頭したかとか

・ヒトラーがどうやってドイツ国民を困らせたかとか、

・ヒトラーがどれだけ多くのユダヤ人を虐殺したかとか

・実はヒトラーはローマカソリック教会の後押しを受けてたとか

・大恐慌で大変だった米国資本家連中から資金供与を受けて戦争に進んだとか、

そんな歴史の表や裏の話をしているのではない。

 

単純にトムクルーズが英雄の役目を見事にこなして、それに最新の実写映像技術を取り入れて大金を投じて製作された対策映画である、じゃなかった、大作映画である。

 

今の米国の悪者探しの目をそらすために、「ほーら、ドイツのヒトラーはこんなに酷かったんだよ、ね、これに比べれば今のアメリカなんて大したことないじゃん」対策ではないと思う。

 

けど米国で映画を作るときは大体において、特にこういう系の戦争とかテーマ性のある奴に関しては、映画業界だけで作るわけではなく、必ず政府や軍との話し合いがある。

 

このあたり、ロードオブザリングスだったら人々を幸福にするんだから問題なし。

 

だけど、内容がアメリカの恥を晒すような映画、例えば「DeerHunter」なんてのは、米国がベトナム戦争を最終的に総括して「よし、謝ろう。そしてこれで終わりにしよう、これからは関係修復に動こう」と判断したから出来た映画だ。

 

今回のワルキューレは、言語ではWalkure(ワルキューレ)で、英語ではValkylie(ヴァルキール、みたいな発音)となる。

 

渋谷の映画館に入ったのが夜の18:00丁度。窓口でチケットを買い、すぐに近くの立ち食いうどんに飛び込んで簡単な夕飯を済ませて座席に坐ったのが18:20。ふ〜、ぎりぎりセーフと思いきや、なんとそれから20分ばかり色んな映画の宣伝をやるのだ。おお、これって変わってないな。

 

人気のある映画だし18時過ぎなのだから人が多いかと思ったら、これがスカンスカン。嫌いと言う意味ではない、ガラガラと言う意味。

 

この日僕は午後は投資家のお客様(最近増えてます)と会議を行い、次が夜の22:00から仕事の打ち合わせが入っており、それまで酒を飲むわけにはいかない。

 

ならば強制的に自分を酒から隔離しようと思って映画館に篭ったのが事実。それにしても日本人、よく働きますね。夜の10時から会議なんて、何年ぶりだ?

 

映画館に入るのは、これこそまたも二十年ぶりくらいではないだろうか。あ、けど香港では映画館に行ってたから、日本の映画館に入るのが二十年ぶりって感じだ。

 

ここは昨日のマンションと正反対で、正直言って「なんにも変わってな〜い!」だった。半円型のアクリル窓と売り子の口元のマイク、たくさん乗れるだけが取り柄の古いエレベーター、そしてエレベーターを降りると待ち受けてる「もぎり」のお兄ちゃん。

 

映画館はだあだっぴろく、最近よくあるようなプレミアシートなんて存在しない。ひたすら10数名が横一列、殆どブロイラー状態で並んで雁首並べて映画を見る奴だ。

 

変わったのは働いている人だけで、箱は何も変わってないし仕組みも全く変化してないんだな〜。これにもある意味感動。

 

この日に入った映画館は渋谷109前の「渋東シネタワー」4階。あれだけのサイズになると、あれだけお客が入らないと、いつも取り壊しの危機に晒されているのではないだろうか。何せ渋谷109の真正面で、思い切り広い敷地である。今時アレだけの一等地ではあんな出物は滅多にないのでは?

 

けど映画館の名誉の為に言っておくと、サービスは問題ないし椅子もふかふかで広いし、良い映画館でしたよ。僕が30年前に見てた映画館に比べれば、ずっと改装が進んでいる。椅子にはドリンクカップも付いてるし傘立てもあるしね。

 

いつも思うことだけど、毎日同じ場所で一生懸命働いていると、なかなか大きな変化に気がつかない。むしろ外から時々来るほうがその変化がわかるのだ。

 

さて長くなったがワルキューレ。よく引き締まった作品だ。無駄がない。無駄がなさ過ぎるくらいだけど、それはトムクルーズの演技ですべてが引き締まっている。この人、どんな場面でも全員を食ってしまい、彼の作りたい空気にしてしまいますね。

 

彼が笑えば太陽が光るし、彼が唇を引き締めれば周囲はきりっと引き締まる。そして彼が怒れば、周囲は「こいつ、本気で怒ってるんじゃないの?」と思わせるくらいの怒りを体中から発している。

 

映画の内容は、思い切りはしょっていると言えば言いすぎだけど、戦争を知らない人が見たら少し意味不明かもしれない。

 

何より笑ったのが、映画を見終わってトイレに行った時に隣にいた二人組みの若い男の子が「残念だな〜、トムクルーズ失敗したんだね〜」と言ったこと。

 

これはネタばれになるかもしれないけど、けど歴史的事実の基本だけは押さえておきましょうね。でないと映画全編に流れるあのど〜んとした暗さやトムクルーズの怒りは理解できませんぜ。

 

それにしても演技は良かった。やっぱりトムクルーズは英雄役をやらせたらすばらしいですね。

 

周囲の脇役も優秀なのが勢ぞろいで、実に重厚で雰囲気のある仕上げになっている。

 

テレンス・スタンプは「シシリアン」や「ウォール街」でも素晴らしい演技を見せた名優(どっちも名作、はい勿論僕もOntimeで観ました)、フルモンティでペーソスな演技を見せたトム・ウイルキンソン、王立演劇学校を主席で卒業し「ヘンリー五世」では多くの賞を総なめし、米国でも監督や俳優を兼務するなど素晴らしい実績を残すケネス・ブラナーなどなど、すべてが大舞台で俳優をやったり映画に出たりして大きな賞を取っている連中ばかりだ。

 

彼ら脇役グループとトムクルーズの演技の息のぴったりさには、これだけでもう充分観る価値あり。だからあんまり筋書きに拘らず、演技と演出を楽しむだけで充分に満足できる作品だ。

 

これは120分モノに仕上げてるけど、180分でも良かったのではないかと思う。

 

ワグナーの名曲ワルキューレに合わせてストーリーは進行していく。答えは分かっていても、すべての場面で「あ、あの事件の背景はこうだったのか!」とか「そうか、あそこでこうしておけば!」とか、軍事作戦としてこの事件を捉えるか政治的クーデターとして捉えるかで答えは変わるが、とにかく見ごたえのある一作だった。



tom_eastwind at 01:00│Comments(0)TrackBack(0) 諸行無常のビジネス日誌 | 最近観た映画

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