2009年07月03日

スピーチ

そうそう、今回の魚試食会では、参加者が集まったところでパートナーであるMAORIが全員を前にご挨拶をしたのだけど、その時の記憶。

 

堂々とした体格の彼は、最初は英語だったんだけどすぐにMAORI語に切り替えたから話の内容は全く意味不明。けど力強い声で喋ってたからずいぶんと立派なことを話してたんだと思う。周りの人もうんうんと頷いてた。

 

それから再度英語に切り替えて一通りの説明をした後、「ところで今回のビジネスの日本側代表であるTomにも挨拶をしてもらおう、Tom、よろしく!」といきなり振られた。

 

ええ!そんなん考えたこともなかったぞい!

 

英語でしょうが。元閣僚とか弁護士を前にしてのスピーチなんて出来るわけないじゃんか!

 

その瞬間頭の中をよぎったのは20数年前、初めてクイーンズタウンで仕事をしたその冬の事。

 

お客様の搭乗予定の飛行機が満席で次の飛行機に振り替えをされた。それを降機地であるクライストチャーチのガイドに電話で伝えなければいけない。

 

対面で話すならまだしも、それとか同じ街に住んでいるクイーンズタウンの住人なら何とか僕の英語も通じるとは思ったが、違う街で全く知らない人に電話をするんだからどきどき。

 

ガイドさんの自宅に電話をする。どきどき。電話をとる音がした。「Hello」若い女性の声だった。ぼくは自分の名前を伝えガイドさんの名前を伝え用件を伝えた。

 

ほ〜、これで一仕事終わったぞと思ってた翌朝、事務所のマネージャーに呼び出されてお叱りを食らいました。

 

「お前さ、ちゃんとクライストチャーチのガイドに変更連絡しろってあれほど言っただろ!」

「え〜、おれ、ちゃんと伝えましたよ、相手にもOK?ときちんと確認取りましたよ。そしたら相手もo,okと言いましたよ」

「ばかやろ〜!お前が喋った相手はガイドの子供で、まだ3歳だよ!」

 

が〜ん!

 

外国に住んでガイドやってるから英語が出来るってわけじゃないのは、これでお分かり頂けますか(笑)?

 

そんな記憶が一瞬頭の中をよぎったけど、そんなこと言ってる余裕もない。

 

速攻でまずみんなの顔をぐるりと見渡しながら大きく笑顔。まるで一年前からスピーチを依頼されていたような顔で

 

「本日は皆様お集まりいただきまして有難う御座います」とか、「日本人は生まれた時から僕らは魚を食ってきた人種なので魚の事をよく知ってます」とか「日本の最先端技術とニュージーランドの素晴らしい自然の恵みである魚を全員で大きく育てていきましょう」だとか、よくもまあ思いつきでぺらぺら出るもんだなとか思いながら何とか無事にこなした。

 

面白いのは脳みその動きってか、頭の中の左側で0.2秒後に話す内容を組み立ててそれが右側にパスされて口から言葉として出て行く、でもって後ろの方では別の脳みそが「こいつけったいなやっちゃ」とか苦笑いしている感じ。

 

英語は広東語と違い少々アクセントを外しても話が通じるので、全体像をしっかりまとめて論理的に組み立てていれば聞いてもらえる。

 

英語学校に通ったこともないし日本でも最終学歴高卒の僕だけど論理と言うのは理解出来るので、英語会話でも「こういう言い方はだめっしょ」とか「ここはこうでしょ」というのだけは分かる。

 

もちろん文法もでたらめだしアクセントも酷いけど、それでも何とか相手に通じるのは、論理に一貫性があるからだと思う。

 

スピーチは全員の顔を見ながら話すので、相手の顔を見ているとこっちの話が通じているかどうかはすぐ分かる。どうやらこっちの言いたいことは通じたようで、皆さんそれなりに「ふむふむ、新参の日本人、これからどうやるかお手並み拝見」と言う雰囲気。

 

同じ日本人同士で日本語で喋っても会話が成立しない連中も山ほどいる。そう考えれば、こりゃもう言語発音能力の問題ではなく会話能力、一般的に言うコミュニケーション能力の問題かって思ったりしたスピーチだった。

 

一番最後に真っ赤なコートとサングラスをした上品そうなMAORIの高齢の御婆さんが指名されると、彼女はそれほど通る声でもないしましてやMAORI語!で何かを語り始めたのだけど、すると周囲にいる全員がまるでお葬式に参加して牧師の言葉に耳を傾けるように両手を重ねて腰の前に置き、軽く頭を頷くような姿勢になった。

 

MAORI語でっせ!ナンで白人まで全員そんなの?と思ってたら、彼女は最後に「アーメン」と英語、そして全員が唱和したのだ、「アーメン」。

 

あれにはびっくりしたな。一つの言葉だけで生活をしている日本国家では理解出来ないけど、ニュージーランドでは英語とMAORI語を両方とも公用語として学校で教えている。

 

だからMAORI語を話せない白人でも、最初の数行の言い回しと雰囲気で「お、こりゃ学校で教えられたあれジャンか」ってな感じで自然に体が反応するのだろう。

 

戦前の日本で言えば「恐れ多くも!」と言えば飯食ってる最中でも軍人が起立する「天皇陛下!」みたいなものか。けどその時にそれを見てた白人がどんな態度をしてたのか、そのほうに興味がある。

 

戦後の日本人が何かの言葉に自然に反応するとすれば何がある?

 

「地震だ!」

「サリンだ!」

「キムタクだ!」

 



tom_eastwind at 16:01│Comments(0)TrackBack(0) 諸行無常のビジネス日誌 

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