2010年01月15日

大作家”ろくでなし”列伝  福田和也



小説とは何か?一体その伝達手段である文字を用いた表現方法は他の表現方法と比べて何が違うのか。

ここで作者の福田和也はこう言う。

「青い花があるとする。映画においてはその花の色は誰が観ても共通しているし絵画に於いても視覚で吸収するという意味では同じであり、視聴者は作者の色を押し付けられる。これに対して小説は「青い花」と言っても一人一人の中で色が違う。つまりそこに小説の自由性があるのだ」

「小説に時間は限られていない。映画や演劇も素晴らしいが時間が限られている」

つまり時間と自由性という点に小説は大きな特徴を持つのだと言いたいのだろう。

けどここまで小難しく書かなくても、一言、「追体験の面白さ」と書けば良いのにそこに文字をこねくり回しているのは、その後に続く内容で偉大なる大作家をこきおろす作業をするので、そのためのバランスを取っているのかもしれない。

小説は他の芸術と比べる必要もないし、だいいち気持ちを表現する手段として文字を使うとなればブログだって小説だ。そして小説は芸術じゃないかもしれないのだ、だいいち芸術って何だ?

だから難しい事は言わずに、人間は考えていることを文字に落としていく作業や文字を読む作業をやっていくだけで明らかに、それをやらないよりも賢くなるって言えば良いだけだ。

それ以上の小説、バルザックとか志賀直哉とかドストエフスキーとかを本気で読むレベルになって、初めて「小説とは何か?」って書いても良いけど、一般の人に入り口でここまで書く必要もないかな。

まあ、追体験が楽しくて本にはまって、自分が名探偵になったり江戸時代の武士になったり火星を旅してみたり、その中で文字に慣れてくる。

これが更に進めば書道が出てきて、それから絵画が出てきて、技術が発達すれば映画になって、そんな発展系で良いのではないか。

けどまあそこは稀代のひねくれものであり稀代の作家、評論家でもある福田和也のする事だから、奇人が奇人の事を書いているとするのがこの本の位置付けなのかもしれない。

ちなみにこの人の戦時ものはすごい。資料調べから入りここまで臨場感を湧かせながらその時代に生きている人のすぐ横で立ってみてたような文章力は、まさにキチガイである。

お互いにキチガイだからこそ分かり合える共通の納得感をせちがらいゲンダイに生きるきちがい福田和也が好き放題に書いた作者評。

良いのではないか、こんな本があっても。ある種の人々には何の糧にもならないし、ある種の人々を激怒させるのは間違いないだろうが、ぼくのような小説に何の利害もない市井の人からすれば、つまり単なる本好きからすれば「ある一つのネタ」として楽しめる内容になっている。


「ニヒリズムに落ちないで生きる工夫はある。よいおんな、よき友、よい思い出、よい本、よい酒。その五点を揃えられれば、人生は満更でもない」

ヘミングウェイの言葉。戦争を渡り歩き次々と素晴らしい作品を手掛けた彼ならでの言葉である。いいね、前向き。けど、女性の場合には、よいおとこ、となるのか?

よいおとこってカサブランカの二人のうちのどっちだ?よいおとこが一緒に飛行機で米国に旅立った彼氏であれば、よい想い出はボガードでよい友はフランス人警察官か。


けど中には怖い話もある。これが偉大なる作家の書いたことか?

切れ味の鋭くならない剃刀に不機嫌が生じた床屋が、切れない剃刀でそられながら平気な客の無神経さにかんしゃくを起こし、徹底的に剃ることに執着する。

「苛苛して怒りたかった気分は泣きたいような気分に変わって今は身も気も全く疲れてきた。目の中は熱で溶けそうにうるんでいる。喉から頬、頤(おとがい)、額等を添った後、喉の柔らかい部分がどうしてもうまくいかぬ。こだわり尽くした彼はその部分を河ごとそぎ取りたいような気がした。キメの荒い一つ一つの毛穴に油が溜まっているような顔を見ていると彼は真ンからそんな気がしたのである。」

ついに床屋は、若者の喉を抉ってしまう。

おお、気持ちわる。志賀直哉の作品だ。こいつ、どういう心情でこんな事書けるんだろ?


他にも色川武大が取り上げられている。

人生はどうしようもない
人間はどうしようもない
余りにも分かりきったことだ

戦前の浅草最盛期の最下辺の芸人を描く「あちゃらかぱい」では、天才的な芸能を持ちながらも家庭崩壊を描く林葉三が描かれる。

林葉三は戦前の浅草で即興の「スネークダンス」と言う踊りだけで食っていたがいつも乱酔しており、あるとき泥酔の余り溺愛していた娘をまで「――こんなもの、いらねえ!――」と窓から放り出し、それが元で亡くしてしまい、いよいよ奇行がはなはだしくなって、ついには娘の骨壺を持ち歩き、酔うと骨を齧るという陰惨さを見せて、ついにどこの劇場からも排除されてしまった。

・・・・子供の骨を齧りながら酒を飲んでた。この時点で地獄を見るようで、もう駄目だ。人間の最下辺を見せ付けられたようです。



大作家と言いながら奇行を行う人は多かったらしく、いずれにしても世界レベルの本を書く人ってのは普通じゃないわけで、他にもそんな人が紹介されてます。

え?この作家にこんな背景があったの?びっくり本としてもネタ満載です。ただし最初に言っておいたとおり、この作者、本当に一筋縄ではいきません。

普通にきれいなまともな本を読みたい方にはお勧めできません。初心者にもお勧めできません。どちらも本を嫌いになること請け合いですから。




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tom_eastwind at 17:07│Comments(0)TrackBack(0) 最近読んだ本  

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