2010年02月20日

価値観の問題について

お客様のオフィスは品川駅港南口の高級オフィスビルにある。

だから恵比寿の定宿からタクシーで向うと、高輪口で降りれば1520円だけど港南口まで回ってもらうと2050円くらいだ。

恵比寿からだと線路をくぐって行く必要があるので、知る人ぞ知る「低いトンネル」を使うことがよくある。

この「低いトンネル」、正式名称はなんと言うのか知らないが高さ1m70cmくらいしかない地下道であり、「大雨が降ったら絶対に入りたくないトンネル」である。ありゃ、沈むわな。

じゃあ高輪口で降りて構内を抜けて歩けば良いではないかとなるが、歩くとこれがお客様のオフィスまで5分ほどかかるし、品川駅構内はふきっさらし。冬場は寒くてついつい港南口、つまり駅の反対側まで行って降りるのだ。

ところがお客様のオフィスはANAコンチネンタルホテルの向こう側なので、ホテルで降りてホテルを抜けてオフィスに行けば更に時間縮小可能。

だったら普通に考えれば、ホテルで降りれば?と言うことになるのだろうが、どうもここが僕の困ったところで、そういう事が出来ない。

なぜなら僕の頭の中ではホテル=利用者の場所であり、利用者でない僕が通り抜けだけの為に利用するのはどうも気がひける。要するに恥ずかしいのだ、そんな“ずる”をすることが。

「おまえ、ばっかじゃない?」まさにそう言われる事を覚悟の上で、やっぱり苦手なのだ。

例えば成田空港からリムジンバスで都内に向うとき。

「お客様、その場所でしたらxxホテルで降りてそこでタクシーを拾っていけば近いですよ」と言われる。けど、これが駄目。出来ない。

xxホテルはホテル利用者の為にサービスを提供しており、全く関係のない僕が勝手に他人の私有地に入り込んで調子よくホテルに停まっているタクシーを使うってのは、理論的に物理的に可能なんだろうけど、出来ないんだよな。

なぜかって言うと、恥だから。万が一誰かに指差されて「何してるんですか?」とでも聞かれたら、恥ずかしくて顔から火が出るような感覚になってしまい、まるでこそ泥やってるところを見つかったような嫌な気持ちになる。

これはもう個人の感覚の問題であり、これを他人と共有する事はないだろうと思う。

これは僕だけの価値観であり他人には意味不明で無意味で非建設的な問題なのだが、他人に理解出来ないから、無意味な感覚だから、非建設的だからと言われて僕の感覚が「あ、そうですか、じゃあ明日から変えます」と言って変わるものでない事は自分が一番理解している。

ただ最近分かったのは、そんな自分だけが持つ「変てこな感覚」をそのまま人に伝えてしまうと、その人は僕を「この人、おかしいかも」と思われてしまうことだ。

これが個人生活の中で発生するのであれば大した問題はない。「あいつ、ちょっと変わっているよな」ですむ。けど、これが海外で起業して一応会社の社長してて、その発言や行動の一つ一つが会社を代表しているものとなると、そうはいかない。

会社の社長ってのは一つのちっちゃな社会のまとめ役であり、そのような立場の人間の発言や行動は「おれは嫌だから」で通るものではないのだ。

少なくとも行動的にはやっても良いのだ、タクシーの降車場所なんて誰もチェックしていないのだから、港南口で降りて歩けば良いのだ。

けど誰かに「あれ、ホテルで降りたほうが近いんじゃない?」って聞かれたら、その時に上記のような理屈にもならない理屈を話して相手を困惑させた挙句にお客様が「あ、この人とは少し距離をおこう」なんて思われたら、これは企業としてはマイナスである。

だから何気なく「あ、そうですね、じゃあ次回はここで降りましょう」と言いながら絶対に実行しない、つまり本音と建前・・・・。

社長である以上、個人の好き嫌いで他人と喧嘩することはご法度である。喧嘩したければ社長辞めてからにしろ、である。

トヨタの社長が米国に呼びつけられているが、彼だって内心忸怩たるものがあるだろう。「ふざけんな、何でうちが政治の餌食にならんといかんのだ」なんて思ってても、それを言っちゃおしまいよ的なものがあるんだろうな。

出来る限り自分の感情を優先したいし、そうしないとストレスが溜まってしまうこともよく分かるのだが、今ぼくがやっている事は日本での活動である。

日本で活動する限りは、やはりある程度は日本のルールに従って「良い子ちゃん、世間に迎合して世間の常識を実践している」ふりをしなければいけないのだ。

ばっかな話だな、個人の価値観までもルールで縛ろうとする日本なんだけど、日本で仕事をする限りある程度の妥協は仕方ない。

一昨日六本木でミーティングをしたシンガポールから来た米国人金融マンの言葉。

彼は1991年から日本ビジネス社会に入ってるが、こちらがニュージーランドからやってきたビジネスマンであり英語で話しているから周囲には聞き取れないだろうと言う安心感からだろう、ミーティングの最後の方にぽろっと言った。

「ほんっと、この国は理解できん。なんでそうなるのかって結論に至る経過で理屈が存在しないし理論が存在しないし、まさに意味不明だよ」。

ぼくも個人的に彼に賛成だ。

サラリーマンの殆どが“気持ち”としては「出来れば残業無しで家に帰って子供と一緒にご飯食べたい」と思ってるのに、サラリーマンの殆どが“実際”は「残業して終電で自宅に帰って子供の声も聞かないまま寝てしまい、翌朝は子供が起きる頃には電車に乗っている」のだから、なんでそうなるの??と言う疑問はガイジンから見たら当然だろう。

価値観を無視してもルールを優先する日本って国は一体ナンのか?しかしその市場で商売をしようとすれば、「郷に入らずんば郷に従え」しかないのも事実。

自分が社長と言う立場でいる限り、現実路線でいくべきだ、そんなことを思った夜。

少しオトナになったのかな・・・・やだな。


tom_eastwind at 03:16│Comments(0)TrackBack(0)

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