2010年03月31日

マセラッティ

19ea595c.jpgマセラッティはニュージーランドで新車で買うと大体30万ドル+くらい。中古車でも20万ドルだ。

日本の新車価格からすれば安いとか東京のお金持ちからすれば安いとかあるかもしれないけれど、ニュージーランド国内で考えてみれば田舎の郊外の一軒家かオークランドのシティ内のアパート一軒分の価値があるんだから、こんなのに乗ってればスーパーリッチである。

今朝は出勤途中のハーバーブリッジの上で偶然にも立て続けに3台の高級車を見かけて、おうおう、どこの国が不況じゃいってな感じ。

たかが3台くらいで威張るな!と言われそうだけど、基本的にお金を遣わなくて渋ちんでどんな古いものでも修理して長い間使う気質のキーウィが、新築アパートを買えるようなお金があれば確実にアパートを買って投資にまわすだろうキーウィがこうやって高級車に乗ってるって事は、彼はすでに投資用アパートもありノースショア郊外に(多分かなり立派な)自宅もあり生活が安定しているからだと推測出来る。

キーウィのお金の使い方は、ある程度お金がたまるとまずは自宅購入から始まる。でもって次はフォードかトヨタのクルマ、これで調子こいて海辺の高級レストランで家族のディナーとなる。

でもって更に余裕が出てくると海外旅行や国内でちっちゃい別荘を買ったりするんだけど、これくらいに生活に余裕が出てきて初めて高級車が視野に入ってくる。

けどクルマくらい直接投資効率の悪いものはない。なにせ買ってから次に売ろうと思えば大体30%くらい価格が下がるし第一スーパーカーなんて燃費も悪いわけで、プリウスの4倍くらいガソリンが必要だ。

それに乗っててぶつければ一回2千ドルくらいの修理費がかかるし部品だって毎回欧州からお取り寄せになるので最低でも1週間くらいは使えない。

それでも乗りたいってのは、勿論クルマdaisukiって事もあるんだろうけど、何よりそれだけ生活に余裕がある証拠だ。

最初に見かけたのは黄色のランボルギーニで、そのすぐ後ろを走ってたのがかろうじて姿を捉えたマセラッティ。でもって左側の車線を見るとピカピカ新型のポルシェがぶんぶん唸ってた。

そうやってふと周囲を見ると、確かにノースショアからシティに向っている車は欧州クルマが多い。

ベンツならSLKだしBMWなら7シリーズなどはごく普通で、最近は車種よりも年式を見て「お、新車じゃん、この国でいつから皆さんは新車に乗るようになったのでしょう??」とびっくりする。

実際にこの国での人口は約400万人、クルマの普及率は二人に一台、つまり200万台のクルマがあるわけで、通常の四人家族ならクルマが二台あるわけで、ところが新車販売台数ってのは総販売台数の10%以下なんだから殆どのクルマが中古車として売買されているのが分かる。

それでもノースショアからシティに行くクルマの流れを見ると、高級車が目立つのは事実である。アジア人でもどこかの奥様だろう、立派なレクサスとか普通に乗ってるしベンツは香港人や大陸中国人奥様がdaisukiである。

ところがこれが国道16号線、つまりオークランドの西を走る高速道路に乗ると、大体のクルマは10年前のシビックだとか20年前のカローラだとか、おお、懐かしい日産サニー2ドアが普通に走ってる。

これはまさに地域格差であり、ノースショア市に住んでいる人々の方がオークランド西部、行政で言えばワイタケレ市あたりに住んでいる人よりもお金持ちであるってことが推測出来る。

これはあくまで推測であり地域別収入比較なんて見たことないから個人的主観でしかないけど、ほんっと、肌感覚では確実にノースショアがリッチであると感じる。

北高南低、東高西低ってのがオークランドの一般的な不動産市場であるが、オークランドを東西南北に分ければ北と東に高級住宅が集中しているし、それには理由がある。

お金持ちはお金が増えるってのは一つに親と子供両方の教育程度の問題があり二つにこの国では資産継承が無税であるって事がいえる。

学校教育を重視する家庭は子供を優秀な学校に入れたいと思う。親からの寄付金と優秀な子供を欲しい学校は授業に力を入れて学校設備を常に整備する。

するとこれがうまく回り始めて、良い学校には自然と寄付金を払える家庭が集まり、その学校は設備が整っているから自然と子供の勉強もはかどり大学に進む子供が増える。

すると自分の子供を大学に通わせたい親はそういう学校のある地域に住むようになる。ある程度の資産がある家庭は自然と優秀な学校に引越しするし、周囲に資産のある家庭の多い学校はさらに設備が整い生徒が優秀になると言う良い循環が生まれる。

でもってその地域が高級住宅街になると自然と治安も良くなるから、安全な地域に住みたいし引越し出来るだけの資産的余裕がある人は自然とその地域に集まってくる。

するっとそういう地域の家庭を狙った高級スーパーマーケットや専門店が集まってモールが出来て中には映画館からレストランまで揃ってて便利になり、今度はその便利さが買われてますます「良い家庭」が集まってくると言うことになる。

それが今のノースショアの流れである。(ちなみに東部は昔からの白人中心で旧家が多い)

この反対に位置づけるのが南部と西部である。

ニュージーランドは学校教育は無料であるが、それでも最低の教育もまともに受けずに卒業してしまう子供たちの親は大体共通点がある。

それは親が教育に無関心てことだ。大学なんて自分が行ったこともないのだけど勝手に「そんなの時間とお金のムダだよ!」と決め付けて15歳になった時点で学校をやめて働きに出される。

または(てか本当の狙い?)子供が失業している間に政府から受け取る補助金を家計に入れさせてそれで終わり。

実際にこの地域では何世代も政府の失業保険で生活している家庭が多い。親が貰ってる失業保険なんだからぼくも貰わなくっちゃってことになる。

けどこの15歳の子供は何の教育もない状態で毎日ぼけ〜っと玄関のポーチに腰掛けて走りすぎるクルマを見てるか、ショッピンセンターで昼間からごろごろして万引きしてみたり(捕まっても殆どの場合は無罪である)、仲間と酒やタバコやマリファナにふけって夜になると空き巣に入ったり(殆どの場合警察は動かないし捕まってもほぼ無罪である)、そうやって社会の底辺を死ぬまで行き続けるしかない。

けどそれでも何とか食っていけるのだからそんな家庭で育った子供は、やっぱり親父のように社会保障で生きていこうとなる。けどそのお金は働いて稼ぐお金に比べたら少ないので、いつまで経っても良い家には住めないし良いクルマにも乗れないし将来の見通しもない。これはまさに負の連鎖である。

大学の卒業式パレードはぼくのオフィスの真下を通るのでいつも見かけるのだけど、やっぱり卒業生の顔は知的だしその子供を誇らしげに見ている両親もしっかりした顔つきをして高級なビデオでパレードを撮ってる。

つまり頑張って大学を卒業することに価値があることを知っている若者が大学に行き、何とか頑張って卒業して高い収入を得るようになり地元でビジネスをやって成功し、結婚して生まれた子供は必然的に親を見ているから自分も頑張って親のように成功したいと思って大学に行き高い収入が取れるという「正の連鎖=良いサイクル」が出来上がる。

これに更に環をかけて良いのが相続制度である。この国ではある程度資産が出来ると家族信託を設立して、家族の財産をすべてそこに移す。こうしておけば資産を一番たくさん入れたお父さんが亡くなったあとも残ったかぞくがその資産を運用して利益を取れる。

つまり相続税が実質ゼロなので、お金があるところには世代をまたげばまたぐだけ資産が増えて行くと言う現象が発生する。

日本では土地もちのお金持ちでも三代続くと財産がなくなる仕組みだけど、ニュージーランドでは三代続くとローン無しの自宅が3軒なんてのも普通にある。

制度そのものが日本と違って、家庭をいかに豊かにさせるか、社会をどうやって安定させるかと言う視点を持っているからこのような現象が現れるのだが、多くの人は現在のオークランドの「現象」がそれなりに安定していると考えている。

頑張ればどんどん上に行ける、何もしなければいつまでも下のまま、けど誰にも平等にこの社会に挑戦する機会は与えられてるし、誰もがこの社会で挑戦して失敗したとしても充分な生活が出来るだけのセーフティネットが構築されている。

その社会構築にかかる費用は人々が働いて得た収入の19.5%のPAYEと12.5%のGST(一般消費税)が中心となっている(この二つで政府税収の約60%を占める)。

消費税は最初から内税なので殆ど認識されることはないしPAYEも19.5%で自分の子供が学校に行けて医療が無料で治安が(他国よりはかなり)守られているのなら安いものだ、多くのまじめな労働者はそう考える。

一生一度も働かなくても無料学校で英語を教えてくれて医療は無料でそれに失業保険で65歳までメシが食えて65歳からは老齢年金がもらえて、まるでオレの生まれ故郷のパシフィックアイランドみたいに毎日ぶらぶらのんびり出来て、これならわざわざ銀行強盗することもないよな、あ、マリファナもOKだもんねと多くの低層者は考える。

そうやって二つの層がなんとか折り合いをつけながら運営されているのがニュージーランド、特にオークランドと言う街だ。

来年からオークランドは市政変更で東西南北の「シティカウンシル」が合併するようになる。これが今後どのようにグレートオークランド全体の変化をもたらすかは今だ誰も不明である。

いずれにしても方向性としては、マセラッティまでは要らないけど30年前の床に穴の空いたシビックプロトタイプには乗りたくないなってのが一般的な人の気持ちなので、あまり格差が広がって治安が悪くならないように、けど働いている人がバカらしく感じて働かなくならないように調整をするのが市役所であり政府である。

その政府の来年の税制改革ではPAYE、つまり働いた人が払う税金を安くする代わりにGST、つまり誰でも生活している限り払わないといけない税金を上げていこうと計画されている。つまり、皆もっと働けって方向ですね。ちなみに今のニュージーランドは国民党政権2年目です。

写真はかろうじてマセラッティの後姿。それにしてもIphone、使い勝手が良いです。最近はデジカメ持ち歩く事もなくなりました。


tom_eastwind at 09:53│Comments(0)TrackBack(0) 諸行無常のビジネス日誌 | 移住相談

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