2010年04月27日

感染地図 スティーブン・ジョンソン

ミステリーではなくアクションでもなくホラーでもないノンフィクション。

これは普通の医学調査書なんだけど、読み進むにつれて一体犯人は誰だ?とか名探偵はどう活躍するのかとか次に出てくるお化けはどんなだ?とか、そんなミステリーとアクションとホラーの要素を含んだノンフィクションって、やっぱり「事実は小説よりも奇なり」を地でいく話なんだろう。

舞台は1850年代のロンドン、ソーホー地区である。ハードカバーの表紙に使われている当時のソーホーの地図を見たとき、どき!ものすんごい既視感に囚われてしまった。

あれ?この地図、どこかで見たことあるぞ。それも最近だ・・、なんだこりゃ・・・記憶の端をめくってみると、おお、この場所って、あそこじゃんか!ブロードストリート!

既視感どころか、この場所は僕がロンドンにいる間ほぼ毎日歩いた道なのだ。ゴールデンスクエアもよく覚えてる、周りの建物も全部見覚えがある。

1854年の9月最初の木曜日の深夜。

ゴールデンスクエアに住む住人がたったの数時間で次々と倒れ、数十人がその日のうちに死亡した。

家族全員が暗く窒息しそうな部屋で同時に衰弱していき、家族全員が数日のうちに全員死亡してしまったケースもあった。

この病気の怖い点は、死ぬその瞬間まで脳は普通に活動しており、自分がどんどん衰弱してやせ細って真っ黒になっていく姿を見つめながら死んでいくってことだ。

家族全員が衰弱してお互いに助ける事も出来ず、お互いに死ぬその瞬間まで見つめあっている・・・。

こわ。ソーホーのようなこんな狭い地区で1854年の8月から9月のたった10日間で500人以上の死者が発生したのだ。と言うことはぼくが歩いてたあの道沿いの建物の殆どすべてで死者が発生してたのだ。

ブロードストリート40番地から始まったコレラのアウトブレークはまさにパンデミックである。インフルエンザどころの騒ぎではない。

しかし世界の歴史を見てみると当時の500人など実はあまり大した数字ではない事が分かる。

イギリスだけでも1848年の大流行時は2年後に収束するまで5万人の命が奪われた。つまり当時の都市では公衆衛生に関する考えが全く発達しておらず、コレラは世界中の都市で猛威を振るっていたのだ。

そして何よりもこのノンフィクションに登場する二人の主人公が一体どうやってコレラを見つけ出して対決して最終的には封じ込めたか、そこから世界の公衆衛生に対する考え方が歴史的転換点を迎えたかがよく分かる。

今ぼくらは当たり前のようにきれいな水と空気と都市の便利さと心地よさを体感しているが、それは19世紀に都市化したロンドンで都市の為に戦った人々がいたからだというのがよく分かる本である。

都会に住む人には必読。読みやすく専門的な知識も不要。とくにロンドンの歴史を知りたい人にはばっちりだ。ただし食事前後に読むのは避けるのをお勧めする、確実に。

感染地図―歴史を変えた未知の病原体感染地図―歴史を変えた未知の病原体
著者:スティーヴン・ジョンソン
販売元:河出書房新社
発売日:2007-12-11
おすすめ度:5.0
クチコミを見る


tom_eastwind at 11:50│Comments(0)TrackBack(0) 最近読んだ本  

トラックバックURL

この記事にコメントする

名前:
URL:
  情報を記憶: 評価: 顔