2010年07月24日

トップレフト 黒木亮

実はこの本と、これに続く「アジアの隼」がしばらくブログを書けなかった理由。もろにはまってしまい、読み終わるまで他の事が手につかなかった。

日本人が持つ構造的な限界と同時に日本人が持つ無限の強さ優しさの両方を、日本人が西洋の視点から小説として作り上げている。

舞台は英国を中心として中近東に広がる国際的プロジェクトファイナンスビジネスの話だ。

日本では大手銀行でありながら世界のプロジェクトファイナンスでは鼻にもかけられない一流都銀ロンドン支店のファイナンスマネージャーが活躍をするのだが、どこまで行っても日本の壁を抜ける事は出来ない。

結果的に海外で外国人相手に活躍しようとする日本人の足を、日本国内で上司のゴマすりばかりしている連中が引っ張るという図式になっているのが今の日本である。

例えば米系投資銀行が狙いをつけて主幹事行になる為にありとあらゆる策略を練っている間に邦銀のロンドン支店では数ヶ月先にやってくるであろう頭取の、泊まるホテルの部屋のタイプから始まり料理の好き嫌いを考えて毎晩のレストラン選択を3つくらい準備、予約しておき、頭取が麻雀をするとなると同じホテルに麻雀部屋を用意して日本から持ってきた麻雀卓を並べて支店で麻雀が出来る社員を夜遅くまで待機させる。

邦銀と外銀にこれだけの差が出たのは護送船団方式という事もあるだろうが、やっぱり最後は所詮頭取になれる人間は社内のゴマすりが上手くて、自分が頭取になったらこうしてもらいたいと言う事を実際にやってもらって喜び、自分の眼に叶った人間が次の頭取になれるという、つまりバカの系譜である。

日本も1980年代までは皆が一丸となって戦ってきたのだが、その果実の上に座り込んで手放そうとせずに、しかし自分では何の責任も取ろうとしなかった金融界の罪は重い。

しかしそれはある意味日本の縮図であり、ここで金融界だけをせめても意味がない。日本が全体として総論賛成各論反対、無責任意見続出の挙句に長老の一言ですべてが決まってしまう、そのシステムが日本全体に染み込んでいるのだから。

だからこそこの金融マンはそこに日本人としてどう解決のしようもない悲哀を感じてしまう。

しかし同時に、米国系の相手を食い潰すビジネスモデルは根本的に間違っている事は小説を読む中で感じていく。そして日本人が持つ「お互いに成長しよう」「相手の笑顔がこちらの報酬だ」と言う、本当の意味でこれからの国際社会を成長させる一番の源泉を持っているのが日本人だとも描いている。

金融が舞台で難しい言葉も多いが、巻末に英語と日本語訳を入れてもらってるので、英語の勉強にも役立つ。これから海外で生きようとする人には必須の一冊であろう。

トップ・レフト ウォール街の鷲を撃て (角川文庫)トップ・レフト ウォール街の鷲を撃て (角川文庫)
著者:黒木 亮
販売元:角川書店
発売日:2005-07-23
おすすめ度:5.0
クチコミを見る


tom_eastwind at 14:35│Comments(0)TrackBack(1) 最近読んだ本  

トラックバックURL

この記事へのトラックバック

1. トップレフト ウォール街の鷲を撃て  [ 投資一族のブログ ]   2010年10月21日 21:12
「その記者には全面否定しておいた。しかしとにかく、諸君らには万全の注意を払ってもらわ なきゃ困る。噂が立っただけでアービトラージャーどもが動き出し、『標的』の株価が上がって 買収も糞もなくなるのは専門家のきみらが一番よく知っているはずだ。」 アービトラージャ...

この記事にコメントする

名前:
URL:
  情報を記憶: 評価: 顔