2011年01月04日

人を殺すとはどういうことか 2

読了。やっぱり重いな~、これだけのページ数しかないのにテーマがたくさんあり過ぎて、1ページ毎は読みやすく書かれているのに数ページ読むと「ああ、今度はこのテーマか、それも重いでしょ」となる。

2009年に発行された現役の終身刑受刑囚が塀の中で書いた本である。

人は人を殺していいのか?この問題を徹底的に突き詰めて、それを分かり易い言葉に書き直してるんだけどこれは相当に知識がないと上滑りになるか人権左翼の感情論にしかなり得ない。

ここに出てくるのは死を哲学的概念から見た場合どうなのかと言う視点。
次に実際に自分が殺人を犯した立場として、つまり現場から見た殺人と言う視点。
そして聞き取り調査を行う中で出てくる現実と人権左翼の主張の違い。

彼は最終的には「死刑はありだ」と言ってる。それは自分が人を殺したのだからいつ殺されても文句は言いませんという点で彼なりに導き出した結論であり、同時に彼が子供の頃から親に教えられて来たことと一致する。

「人にされて嫌なことは、人にしちゃいけませんよ」そして彼の規範で言えば彼が殺した二人は「俺に殺されても仕方ないくらい嫌なことをしていた」のだ。

作者は2人を殺害した罪で無期懲役を宣告されて重罪刑務所に入れられる。彼は塀の中で持ち前の探究心と学識を組み合わせて重罪を犯した人々に対して様々な「聞き取り調査」を行う事でいくつかの考えを持つに至る。

聞き取り調査では犯罪者の今の気持ちを平易な言葉で書きながらも彼が分析する際は犯罪心理学と照合しながら行うので、その調査結果は非常に面白い。

彼はまず「殺す」と言う行為をある程度定義付けて、良い(仕方ない)殺しも悪い(絶対に罰するべき)殺しもあると判断している。

次に同じ殺しでも組織犯罪者と堅気の意識の違いを分析していく。その結果として彼が自分なりに判断するのは、組織犯罪者の場合は軍隊同士の戦いでありそこには規律もルールもあるが、堅気の殺し、特に強盗殺人、放火殺人、強姦殺人などの場合は完全に本人の欲望や短絡的な発想、他人を全く思いやる事のない犯罪であり、ほぼ更生の余地はないと言うことだ。

犯罪者の刑務所に閉じ込められる時間が長くなってもいつかは出て行くのであれば、彼らはまた繰り返す。何故なら彼らは刑務所の中で長い時間をかけてお互いの手口を研究して出所する頃には高度化しているからだ。

そして彼ら堅気の犯罪の特徴は、普通の人なら理解出来るであろう「そうやったら次こうなるでしょ、だから結局損でしょ」と言う三段階の論理展開が苦手であり、普通の人なら我慢出来る事が全く出来ない。

また人を殺す時は何も感じないのに自分が死刑になるとか殺されるとなったら突然「や、やめてくれ!」となる。このあたりのバランス感覚が全く無いのである。

生まれた時はあったのかもしれないが親の問題や周囲の問題でいつのまにか失ってしまったのだろうが、どう考えても一生治らないような人間をまたも一般社会に放置して次の犯罪を作るのか?

だから前科何犯、それもすべて幼女虐待とかであればこれはもう死刑にすべきだ、死刑に反対する人に言いたい、いっぺん塀の中に入って彼らの本音を聴いて見ろと主張する。

一生塀の中で罪を償わせるなんて甘い甘い、彼らの殆どはそんな事は考えちゃいない、今日の夕飯と夜のテレビと仲間内の情報交換、あとは「早くシャバにでてえな」だ。

彼が犯罪者仲間に聞いた。「おい、お前そんな犯罪起こしておいて反省しないのか?」

犯罪者がさらっと言った。「ああ、反省しているよ、何故あそこで下手を打ったんだろうてな」

まず大事なのは市民社会では他人も法律を破らない事を前提に生活している。財産権、生命権をお互いに守ろうねと言うことを前提にしているから平気で他人に背中を向けられる。けど他人が平気で自分の背中に包丁を突き立てる奴だったらどうする?

今の日本の司法では犯罪者をミソもくそも一緒に扱っているし、更に更生支援にしても表面的なところで終わっているのが現状である。作者はそういう日本の司法制度の問題にも触れている。

日頃毎日どこかで殺人が起こってる日本の自宅のお茶の間でテレビニュースは見て「ひどいね~」とは言いながら、じゃあ死刑ってどうあるべきかとか再犯の場合誰に責任があるのかとか被害者の人権が無視されている現状を何も考えない。

けど、テレビを見ている貴方の自宅に誰かが忍び込んで来たら、そして包丁で襲いかかられたら、その人が実際に犯罪に巻き込まれた場合どうするのか?傍観者としてではなく、もう少し当事者としてこの問題を皆が考えるべきではないか、その為にもこの一冊はお勧めである。


tom_eastwind at 02:58│Comments(0)TrackBack(0) 諸行無常のビジネス日誌 | 最近読んだ本 

トラックバックURL

この記事にコメントする

名前:
URL:
  情報を記憶: 評価: 顔