2011年01月10日

つまようじ

「先が尖っておりますのでお気をつけ下さい」
真面目そうな顔をした若い店員さんがそういって丁寧に差し出したつまようじ。

・・・つまようじって、先が尖ってるなけりゃ意味ないよね・・・。

苗場スキー場のフードコート内でのことだ。りょうまくんとお昼ごはんに何食べようかって事でカレーライスにしたのだが、これが旨い。1250円のカツカレーだから美味しくて当然と言うかもしれないが、冬場の雪山でこれだけ美味しいカレーが食えれば充分ではないか。

りょうまくんは歯にものが挟まったようで「お父さん、つまようじちょうだい」との事でもらいに行く。これがニュージーランドなら反対だ。あいつの方がお父さんより英語うまいんだからあいつが使いっぱしりになるのだがここは日本なのでお父さんが使いっぱしりである。

冬の間だけのフードコートだからアルバイトの店員さんだろうと思う、見掛けも学生さんって感じ。ぼくは最初にカウンターの上に置いてた物入れを見た。ソース、しょうゆ、ナプキン、けどやっぱりつまようじがない。

そこでこの店員さんすかさず「何かお探しですか?」と明るく聞いてきた。「はい、すみませんがつまようじありませんか?」と聞くと「はい、ございます、少々お待ち下さい」と言ってカウンターの内側にある爪楊枝を一本取り出して「先が尖っておりますのでお気をつけ下さい」となったわけだ。

う~ん、考えた。誰が彼にこのような事を教えたのかを。

彼はお店で研修を受けた際に、または今までのアルバイトの経験からお客様に爪楊枝をお渡しする際はちゃんと注意をするんだよと学んだのだろう。そして今も言われたとおりにきちんと仕事をしている。

その意味においては立派なものである。違う意味においては恐ろしくもある。なぜならこれは今の日本が無責任とわがままが勝手放題に跋扈跳梁している象徴だからだ。

まず、爪楊枝とは先が尖ってないと使えない。だから使うほうだって尖ってる事を前提に使う。なのに店のマニュアルに「先が尖ってるから気をつけて」となるのは、すでに今までどこかのわがまななバカたれが「きさまこら!爪楊枝の先が尖っててアブねえじゃねーか、何で一言いわないんだよ、店長呼べ!」みたいな事があったのだろう。

そして店側としても面倒を避けたいからバカにお詫びして対策マニュアルを作ったわけだ。

しかしよく考えて欲しい。飯食ってて箸が喉に刺さったと言って箸メーカーに文句言うか?

餅が喉に詰まって死ぬ老人が毎年何人も出てるのにそれは誰も餅を禁止しようとしないし餅メーカーを「もちがでかすぎる!」と告訴した人もいない。

ところがこれがメーカーを限定しやすいこんにゃくゼリーとなると、鬼の首を取ったように「ゼリーがでか過ぎる!固すぎる!」と裁判沙汰だ。こんなのニュージーランドではあり得ない事件だ。

実際問題としてはメーカーの責任でもないのにマスコミが囃したててメーカーの責任にしてしまい、お詫びをしなければマスコミ総勢で袋叩きにしてメーカーが倒産してしまう。メーカーにいい分があろうと関係ない、とにかくお詫びなのである。

そのようなマスコミどもの攻撃に一民間企業が太刀打ちできるわけがない。結果的に企業が萎縮して消費者保護と言う美名の下に実に馬鹿げた、そして無駄な時間を使うバカ向けマニュアルが出来上がったのだ。

これはある意味企業側の防衛であり、それなりに理解出来る。しかしその為にかかる原価は回りまわって当然消費者が負担するわけだ。「先が尖ってます」と言う為の費用は1250円の中に含まれているのだ。

それが1円なのか50銭なのか分からないが、誰もが尖った爪楊枝が歯茎に刺さったからと言ってお店を訴えるような無責任でわがままを言いまくる時代になったのか?

てか、これは消費者としての視点で無責任なわがままを言ってるわけだが、その消費者だって会社に行けば労働者である。そして今度は労働者として無責任でわがままな消費者の相手をしなければいけなくなるわけだ。

もう少し社会全体が自己責任を受け入れるようになれば爪楊枝のマニュアル分だけでも生活費は安くなるんだけどな~と思いながら、旨いカレーやさんを後にした。



tom_eastwind at 13:42│Comments(0)TrackBack(0) 諸行無常のビジネス日誌 

トラックバックURL

この記事にコメントする

名前:
URL:
  情報を記憶: 評価: 顔