2011年01月31日

食糧に関する誤解

日本で食糧自給率の話が出るときに必ずついてくるのが「日本で作らなくても海外から買えばよい」という議論である。

 

この議論で一番怖い点は「自分たちが食糧を外国から買うか買わないか」での議論があっても、相手には「売らない」という選択肢があるのだということが議論されないことだ。

 

125日】 国際的に食料が安価だった時代は終わり、世界の人口増や食事の肉食化の影響で今後、食料価格は高騰し続け、40年後に今より50%以上高くなると予測する報告書を英国政府が出した。このまま世界の食料システムを変えないと、世界で10億人が飢えると。今の世界の食料システムは自由市場体制(米国系食料会社などによる隠然支配)だが、国際的な食料管理体制の強化が必要だと。この報告書が示唆するのは「世界政府」の機能強化である。世界的な金融危機回避や貧困対策、地球温暖化対策、テロ対策などの分野でも、世界システムの強化が提唱されているが、それらと同様の、世界政府に向かう隠然とした誘導だ。この動きは、米英覇権体制の綻びと同期しており、覇権多極化の流れの一つである。

 

http://www.independent.co.uk/life-style/food-and-drink/news/food-inflation-is-only-going-to-get-worse-in-future-warn-scientists-2193301.html

Food inflation is only going to get worse in future, warn scientists 04974114.jpg

日本の食糧問題を語るときに肝心の購入先である外国のことを考えてみよう。どこの国でも食糧が十分にあれば外国に売って外貨を稼ぐことはある。

 

ニュージーランドには豊富な食料があり食糧自給率はおおざっぱに言って300%以上ある。つまり10個のキーウィフルーツを作っても自国の消費は3個で外国に7個輸出して外貨を稼いでいる状況だ。

 

しかし最近はその輸出先が中国や欧州を中心として日本向け輸出については消極的になっている。

 

この理由はまず日本の提示する価格が低すぎることにある。日本は自分の国がデフレで不況で安くないと売れないってことで外国にも「安くしろ!」とむやみやたらに主張するが、例えば日本がサーモン一匹を20ドルにしろ!と言ってるときに中国が30ドルでいいから売ってくれと言われればそりゃだれでも中国に売るわな。

 

そして次の問題が品質要求である。サーモン100匹買うのにすべてのサイズが同じでないとダメだとか見た目が同じでないとダメだとか、本来の意味の品質とは関係ない日本側の嗜好の問題をニュージーランドに押し付けてくる。

 

ニュージーランド側が「いったい何が問題なのだ?魚は缶詰にしたり切り身にしたりするんだからサイズや見た目は関係ないでしょ」というと日本側のバカ担当者は偉そうに「何言ってんだよ、日本じゃそんな魚は売れないんだよ、そんなこともわからずに商売しているのかよ、まったくガイジンはやってられねーな」とそっくり返る。

 

ガイジンからすれば日本は世界にたくさんある消費国の一つにしか過ぎなくて人口だって1億2千万人だけだ。

 

同じものを中国にもっていけばサイズや見た目は気にしない、美味しければ良いし値段だって買い手=消費者に転嫁できるからあまり気にしない。だいいち人口が12億人ですぜ!日本の10倍以上の市場があって言い値で買ってくれて見た目は気にしないってんだから、こりゃ誰でも中国に売るわな。

 

そして今、現実にニュージーランドで一番大きな水産会社のお得意先は日本ではなく中国になっている。つまり価格や品質が合わなければ「売らない」という選択肢があるのだ。

 

それでも日本はいつまで経っても過去の栄光にしがみついて今の日本がどれだけ世界から無視され始めているかを気づこうともせずに「食糧問題」を語っている。

 

世界はすでに、「これなんぼや?もっと安うせーや!」と無闇に値引きを要求する日本のわがままな消費者と、その日本だけでしか通用しないバカごとを世界に向けてそのまま垂れ流ししているバカな水産会社とはつきあっていられない状況なのだ。

 

そしてさらに問題なのは、食糧問題が政治問題になった場合、日本は確実に飢えるということだ。

 

今の日本は金さえあれば何でも買えるって感覚だが、これから世界中で人口が増加する中で誰だって飢え死にしたくないわけだからまずは自国の食糧確保に走るのは当然だ。そうしないと今のチェニジアのように国民が暴動を起こして政府が転覆してしまう。

 

そして日本に対して何らかの外交的要求または経済的要求を持っている国がその政策を実現するために食糧輸出の停止は当然ありうる選択だ。

 

日本が嫌いだから魚を売らないという話ではない。そもそも外交的駆け引きの延長線上にあるのが経済制裁でありその先にあるのが戦争である。

 

今の日本に戦争を仕掛ける国はないだろうが、日本に言うことを聞かせるために経済制裁をすることは十分ありうる。その時食糧は武器となるのだ。

 

売らないという武器がいつ使われるかはわからない。しかし例えば最近中国が発動した政策である「レアメタルを売らない」という武器は日本だけでなく多くの先進国に影響を与えている。

 

これなどは日本の経産省が早いうちから予測していたことだが誰も「まっさか〜?中国みたいな貧乏国が売らないなんてあり得ないよ〜」と楽観視した結果、中国に替わる代替国での開発を怠って、その結果として車メーカーが大打撃を受けそうな状況である。

 

食い物ではないレアメタル一つを取ってもこうである。ましてや食い物の力は恐ろしい。国家を転覆させるのは食い物がない時である。

 

例えばある国が日本に対して外交要求として外国企業の日本での営業を認めさせろ、規制は緩和しろと言いだした場合、日本は当然のように自国産業を守るために拒否するだろう。

 

その時にある国が「じゃあいいや、お前らには小麦粉は売らない、ほかの国も自由経済を堅持するって名目で日本向け輸出を停止させるぞ」となれば日本は外国の言いなりになって外国企業を受け入れるしかなくなる。

 

そしてどこかの発展途上国が「お、今なら日本に高く小麦粉を売れるぞ」と乗り出しても“ある国”はその途上国に対して違う攻撃を仕掛けてくるだろう。

 

そうなれば日本人が食えるものはいくばくかのコメと一日一切れの魚にたくわん二切れということになる。

 

食糧の安全保障とは何も戦争だけを意味しない。日本の外交的安全保障も含まれているのだ。

 

だから日本がすべきは今中国がアフリカでやっているように「外国の土地」を合法的に買って自国向けの農場にすることだ。今ならまだ外国の土地でも合法的に買える。個人が所有してその食糧を日本向けに送ることは外国も反対出来ない。

 

中国は日本からODAの名目で金を受け取ってその金で自国の食糧安全保障政策として新興国であるアフリカで土地を買って食糧や地下資源を合法的に得ているのだ。

 

世界で食糧問題を深刻に捉えて問題解決に向けて具体的な行動を起こしているのに、日本はその間ぼやーっとしてへらへらと笑いながら「そんなこと、あるわけないじゅあ〜ん」とふんぞり返っている。

 

食糧問題についてはほんとは行き過ぎた行政による衛生管理や国民意識の低下による食糧廃棄問題があるのだが、それを書き出すと長くなるので後日にネタにしたい。

 

ただ、ニュージーランドという農業輸出大国で今行われている日本無視は必ず他国にも波及する。その時になって後手後手で対策を考えても日本に勝ち目はない。



tom_eastwind at 13:08│Comments(0) 諸行無常のビジネス日誌 | 日本ニュース

この記事にコメントする

名前:
URL:
  情報を記憶: 評価: 顔