2011年08月09日

「我々は米国でもないし欧州でもない」

米国債が格下げされた影響を受けて北半球では大変なことになっている。「これは米国の終わりの始まり」と言う人もいれば米国債を大量に持つ日本や中国への影響を心配する人もいるが、これで米国が良くなると思っている人は全然いないようだ。

 

今回の国債格付けでジョン・キー首相が真っ先に国民に向けて宣言した言葉が「我々は米国でも欧州でもない」である。

 

ニュージーランドのジョン・キー首相はオークランド生まれで子供の頃に父親を病気で亡くしてクライストチャーチに引越し、カンタベリー大学で会計学を学び卒業後ニュージーランド国内において約10年間、投資銀行家として経験を積む。その後、投資銀行メリルリンチ社に勤務し、シンガポール、ロンドン、シドニーにて駐在。その間、ニューヨーク連邦準備銀行外国為替委員会委員も務める。

 

2001年にニュージーランドに戻り政治家の道を歩き始めてたった5年で国民党党首、2008年には首相となり、これで政治は政治屋や政治のプロでなくても出来る事が証明された。

 

てか運がいいよね、911までの米国の一番良かった時代を米国で過ごし為替ディーラーとして大儲け、その後に安全なニュージーランドに戻ってきて政治家となりあっと言う間に党首、そして首相、現在まだ49歳の若さである。

 

南半球の小島出身のキーウィがニューヨーク連銀の委員まで務め上げたのだから大したものであるが2008年の金融危機の際も、まさに金融のプロとしてニュージーランドの金融危機を乗り越えて北半球の大激震を南半球のちょっとした揺れで納めてしまい、ここ1年は景気を復活させて国を引っ張っていく実力を見せた。

 

その彼が今回の米国債格下げの際に真っ先に言った言葉が「我々は米国でもないし欧州でもない」だ。白人の彼が言うのだから面白いものだが、どうやらここに至ってオセアニア、つまり豪州とNZの世界的な位置づけがだんだんと見えてきはじめた。

 

これはまさにジョンキー首相の言うとおり、北半球とは距離的にも政治的にも離れており経済的にはまさに北半球から大きく離れて両国とも資源国として安定した位置にソフトランディングしたという感じである。

 

豪州は豊富な地下資源で地べたに座り込んでても世界中からお金が転がり込む仕組みが出来上がっておりニュージーランドは豊富な食料(食料自給率は400%以上)と南島の山を利用した水力発電でエネルギーの多くを賄っておりどちらも原子力発電所は持たず自給自足出来る国力を持っている。

 

21世紀はまさに食料とエネルギーの時代であるが豪州、NZともに食料とエネルギーは他国に売れるほど豊富に持っており世界的にも治安の良い場所にある。てか他国が戦争仕掛けてくることはまずあり得ない地政学的な位置である。

 

今回のジョンキー首相の発言「おれたちは英国や欧州から来たが英国人でも欧州人でもないしましてや米国でもない、キーウィだ」は元々は米国債格下げによるリスクはニュージーランドでは限定的であるという意味だったが、期せずして「おれたちはオセアニアの国家だ、もう植民地じゃない」と宣言したような印象を受けた。

 

もちろん政治的には英国に近くエリザベスが女王を務めている。米国人が使うのによく似た英語を話している。けれどやはりおれたちゃキーウィだ、おれたちのアイデンティティは欧州でも米国でもないんだ、北半球のような暴動もなければテロもない人々が安心して生活できる、人生を楽しめる、そんな着実な国作りをしているんだ。

要するに今までは北半球の白人社会からすれば「ほほほ、田舎ものね」とキーウィアクセントを笑われていたのが、少し自信がついてきた、ほら、派手なことはやってないけどリーマンショックの時も堅実に切り抜けたし今回だって切り抜けられる、田舎者かもしれないけど地道で着実だぜ、そう、そんな感じの為替変動の一日だった。



tom_eastwind at 19:19│Comments(0)TrackBack(0) 諸行無常のビジネス日誌 

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