2011年08月28日

人事を尽くす

香港から福岡に向かうキャセイ航空510便のビジネスクラスは半分くらい日本人ビジネスマンで埋まっている。昔は残りの半分が香港から日本に向かう香港人で埋まっていたが震災と原発事故以来もともと影が薄くなっていた日本への渡航が減少しているのだろう。

 

そう言えば日本とニュージーランド間の飛行機の間引きの事も書いておきたい。1980年代に成田からオークランドまでジャンボを飛ばしていた日本航空はその後最盛期には福岡、関空、中部からもオークランド便を運航した。

 

ところが日本航空自体の不況により政治的に運航されていた路線は次々と減便され、福岡は廃止、名古屋中部空港も廃止、関空は成田からオークランドに行く途中にお立ち寄りとなった。

 

挙句の果てに日本航空本体がオークランドから撤退、ニュージーランド航空に運航を全部任せることになり、更にニュージーランド航空も減少する搭乗客対策で去年までは新型機種で飛ばしていたのを今年からボーイング767に小型化した。

 

ただでさえ機内サービスの評判が悪いニュージーランド航空(これは社会主義時代の考えが残っているのが理由。つまり労働者と搭乗者は同じ同志であり仲間であり上下関係は存在しないのだから乗客は機内労働者に気を遣うべし、つまり水一杯飲むのにいちいち呼び出すな、労働者が疲れて寝ているときはお前ら邪魔するな、労働者が楽しくおしゃべりをしている間はお前ら口出すな、ちなみにおしゃべりは基本的に飛行機出発から到着までである)で日本人労働者は白人とおしゃべりするのが楽しくて仕方ないから日本語で話しかけてくる乗客などは迷惑でしかない、何か話しかけられても知らんふりだから、飛行機はちっちゃくなるわ日本航空のスチュワーデス的な上質なサービスはなくなるわである。

 

そうやって日本便をリストラして余った飛行機を北京や上海や広州に飛ばす。この方がずっと儲かる、つまり日本Nothing状態になっているのだが、その事に肝心の日本人が気づいていない。

 

そんなある時ある人が僕にこう言った。「私が乗った飛行機は満席でしたよ、いやー、日本とニュージーランドはNZ航空にはドル箱路線でしょ!」僕は「あのですね、日本便はどんどん減便されているんです、実際に飛ばす便が満席になるようにね、だからあなたの乗った便も減便して機体をちっちゃくしたから満席だったんです。これで乗客がさらに減ったら次は直行便廃止、福岡⇒上海⇒オークランド路線になりますよ」と言った。

 

NZ航空からすれば当然の措置である、搭乗客がいないのだから福岡から上海まで同じスターアライアンスである全日空で来てもらい、そこでメインの搭乗客である中国人と一緒に詰め込むのが正解となるのは理路整然である。

 

とにかく僕が嫌いなのがこういう日本人の危機感のなさである。日本と言う人口1億2千万人の穴倉に閉じこもっていると毎日は何とか回っているからまだ大丈夫とかおれくらいは大丈夫とか思い込んで周りで起こっていることを見ようともしない。

 

以前も書いた事があるが香港から日本に行く午後便のフライトのビジネスクラスに乗っている乗客の行動パターンは面白いほどに人種別違いを見せる。

 

白人ビジネスマンの場合は飛行機で移動しているのは仕事の一部であると考えているので機内でも飛行機が出発したらすぐにPCを立ち上げてみたり分厚いファイルを持ち出して計算を始めたり一般知識を蓄えるためにファイナンシャルタイムズやル・モンドを読む。

 

中国人は手元に経済週刊誌を広げて次はどうやって金儲けしようか、どこにビジネスチャンスが転がっているかを鵜の目鷹の目で探している。

 

日本人の場合は殆どが同じだがスポーツ新聞をだらーっと広げて缶ビールを飲みながら吉原で最近人気のお店チェックをしたり巨人が勝ったとかの記事ばかり読んで過ごしている。

 

今回のフライトでも香港から福岡に行く機上では日本人ビジネスマンはたどたどしい英語でスポーツ新聞頂戴と言い相手が日本人スチュワーデスと分かった瞬間にビール持ってこいとか日本語であれこれ注文しまくり、香港人スチュワーデスの目の前でスポーツ新聞のえろ記事コーナーの写真付きのページを開いてにやにやしている。

 

結局彼らからすれば子供の頃から仲間内の競争で戦ってきて有名大学に滑り込んで社会人になりビジネスクラスで出張出来るほどになれば「俺の地位は一生安泰、会社も永遠だもんね、あとはいかに社内で生き残るかだけ、その為には小難しい経済雑誌よりも巨人が好きな先輩と話を合わせるためにスポーツ新聞読むんだもんね、何せおれも巨人好きだしエロ雑誌も好きなんだもんね」となる。

 

その危機感のなさは僕が1990年代に香港で見かけた北海道拓殖銀行職員の横柄さや長期信用銀行のでたらめなオフィス運営にぴったり重なる。あの当時の彼らも自分たちを「勝ち抜いた」と思い込み会社内のルールだけがすべてであり社会で何が起こっているかなんて考える必要もなかったのだ。

 

しかし現実はそれほどに甘くはなく1997年に日本を未曾有の経営危機が襲う。そうなって初めて彼らは自分たちのバカさ加減を知る事になるのだがその時は手遅れだ。

 

もちろん僕は彼らにスポーツに興味を持つなとか吉原の記事を読むなとは言わない。誰にも休憩は必要だしスポーツだって楽しいし吉原だって・・・けれど「それしか読まない」ってのと「それも読む」のではかなりの違いがある。

 

西洋人だって休暇は一か月近く取るしその時はパタヤビーチのプールで何もせずにただクライブカッスラーやジョン・ル・カレを楽しむ。夜は美味しいタイ料理を食うしもしかしたらちょろんなんてのもある。

 

けれどそれはまず危機感を持ち自分が今どういう立場にいるかを理解してやるべきことをやってからリラックスする事である。

 

今回のフライトでも日本人ビジネスマンが堂々とスポーツ新聞を広げているのでだんだん自分が日本人であるのが恥ずかしくなり途中から言葉を広東語に切り替えようかと思ったくらいだが、時すでに遅しぼくは機内では日本人とばれている。あとは自分くらいは少しは身に付く内容のものを読んでPC開いて乗務員の皆さんにも「おや、日本人でもスポーツ新聞読まない人もいるんだね」と思ってもらうくらいだ。

 

それにしても危機感と言うのは一体日本人にとってどのような位置づけになったのだろうか?誰もが自分は交通事故に遭わないけど宝くじには当たると思ってるのだろうか?会社に入りさえすればそれで「上がり」と思っているのだろうか?

 

人事を尽くして天命を待つという言葉がある。どこまで努力をしてもダメな場合は、それはある。しかし出来ることはまずやっておく、その上で「やることはやったんだから後は天に運を任せてのんびりとプールで過ごそう」と言う気持ちを今の日本のビジネスマンには持ってもらいたいと思う。

ただし気を付けてほしい、やることをやるというのはちっちゃな日本企業のちっちゃな社内ルールを学んで「人事を尽くした」と思う事ではない、社内の下らん人事ではなく世間の常識を覚えてって事だ。



tom_eastwind at 01:06│Comments(0)TrackBack(0) 諸行無常のビジネス日誌 

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