2011年09月02日

澱の深さ

香港から福岡、そして沖縄を回って大阪とやってきたわけだが、本当に原発の凄まじさを感じる。逃げられる人はとにかく逃げて日本の最南端である沖縄まで来た。福岡に会社を移した東京の会社も多い。

 

311のすぐ後は関西に大量に移動すると言われていたが結局ふたを開けてみると関西を通り越して福岡と沖縄の圧勝?のようだ。沖縄では毎月1000人以上の大和民族が移住してきてるとの事。

 

それでは何故大阪を選ばなかったか?その一つの原因には橋下知事の節電発言にあるのではないかと思う。東京じゃ仕事にならないけど大阪ならオフィス賃貸料も安いし人口も多いし工場もたくさんあるし、ところがここも東京と同じように節電と言い出したら、なんかガクっと来た、みたいな感じではないだろうか?

 

出張は疲れるが短期でこれだけの街を見て回ると同時進行の街の違いがよく分かるから面白い。香港から福岡に行く香港人は激減した。福岡と沖縄では多くの関東人が避難した。大阪では東京人がスキップした。そしてこの東京では街中の人々がすっかり下を向いて歩いている。

 

ほんっと、地域性てか、その地方の人々の考え方が良く見える。日頃は表に出さないけどこういう想定外の大震災が起こり人々が移動すると皆が結構本音で話をする。それを同時多発的にあちこちの街で聞けるのだから、そう考えると出張も社会勉強と言う意味では役に立つ。あまり文章には書けないがほんっと、その町の人々の本音がよく分かる。

 

アグネスチャンが発言した「香港でも韓国でも皆が上を向いて楽しそうにしている、日本も頑張らなくちゃ」と言ってネットで炎上した。「おまえ、日本が嫌なら帰れば?」から「中国人に言われたくねーよ」まで人種差別と金持ち批判の嵐だ。

 

しかしぼくのようにガイコクに生きて日本人として一生懸命働いている立場からすれば彼女と同意見だ。ソウルも見て来た。香港も見て来た。ついでに言えばシンガポールも見たし何よりニュージーランドと言う陽気で誰もが生活を楽しんでる街で、街を活性化させるために働いている。同じ日本人ではあるがアグネスチャンを批判する人々の心情は、ある意味もう「可哀想」でしかない。

 

実際に書き込みをした人々の年代は分からない。けれど考えてみればぼくは日本の絶好調の時代をぎりぎりで見て来た。1980年代、ジャパンマネーは世界を席巻して日本人は世界中に飛び回り、国内でも札束が飛び回り、明日は今日より絶対幸せだ、そう思える時代を生きてきた。そういう時代を知っているからこそ、つまり自分の頭の中に具体的な目標が見えているからこそ頑張る気持ちにもなる。

 

けれど現在の40歳以下の人々はそのような生活を知らない。彼ら彼女らが大学生になった時にはBMWのお迎えで豪華なお食事に行く事もなく毎晩のパーティを楽しみクリスマスイブの東京の一流ホテルで豪華な食事と素晴らしい夜を過ごすことなどなくなり、そんなおバカでも就職出来た先輩を見ながら自分は大学を卒業しても就職先がなく派遣やフリーターになる氷河期に入った。

 

つまり生まれた時から一度も「豪華」とか「贅沢」とか「社会が上昇して成長して明日は今日より絶対に楽しくなる」と言う高揚感が持てないままに社会人に突入して、就職後はそれまでの社会価値観が急激に変化して功績主義とか派遣社員とか父親のリストラとかばかり見てきて、要するに一度も「美味しい思い」をしていないのだ。

 

そのような彼らからすればアグネスチャンから「お前も頑張れ!」と言われても、まさに「要らん世話!」になるのだろう。見たことも聞いたこともない世界の話をされても今の現実は下を向いて歩くしかない。

 

なぜ生まれて来たんだろう、そう考える力さえ学校教育の中で奪われてしまった子供たちはただ毎日を何も考えずに過ごすだけだ。そんな若者にとっては大人が余計な小言を言うのがむしょうに腹が立つ。さらにそれが外国人から言われてしまえば「だったら帰れ」と言うことになるのだろう。

 

アグネスチャンの発言は世界の常識と言えるが日本では非常識となる、そこにも日本全体に沈殿する澱の深さを感じた。



tom_eastwind at 13:56│Comments(0)TrackBack(0) 諸行無常のビジネス日誌 

トラックバックURL

この記事にコメントする

名前:
URL:
  情報を記憶: 評価: 顔