2011年09月27日

「ハイパーインフレの悪夢」アダム・ファーガソン


「ドイツ「国家破綻の歴史」は警告する」と言う副題が付いた歴史ノンフィクションだがテーマはインフレーションが社会に引き起こす恐ろしいまでの崩壊である。1975年に出版された当時はそれほど注目されなかったが2008年のリーマンショック時に米国の伝統的投資家ウォーレンバフェット氏が「金融危機を考える上で必読」と述べたと伝えられて評判になった。氏は否定するものの2010年に復刊された本である。


★上記は本書に寄せられた池上彰氏の文章抜粋です★



この本は第一次世界大戦で巨額賠償を背負わされたドイツがいかにインフレーションに陥ったかを歴史と時系列を突き合わせながら様々な角度から立体的に描いていくのだけど、まるで今の日本を見ているようで途中から怖くなった。



日本が長期負債を抱えていながらも他国の金融危機が先に起こりその度に安全資金と見做された日本円へ投機資金が移動して日本円は70円台に張り付いたままであるが、では日本円はいつまで強いのか?



通貨は二人以上の人間が信じ合うから存在価値があるわけでその信頼を失ったら紙切れになるというのは経済の世界では当然の帰結であるが多くの一般市民は通貨に対して紙切れと言う認識を持ってない。



では円は今のレートが適切なのか?これにはたくさんの経済学者が様々な意見を述べている。適正と言う学者もいれば高過ぎと言う学者もいる。しかし両者に共通しているのは、日本は莫大な政府の赤字を抱えているという事だ。



その赤字を800兆円と言う人もいれば1300兆円と言う言う人もいる。どちらにしても年間収入である歳入約40兆円の最低でも20倍、最高で見れば30倍以上である。



日本をバランスシートで見れば負債は多いが対外資産もあるし国内でも国債を使って新幹線や高速道路を作っているから財産が残っていると言える。いろんな見方が出来るのでなかなか正確な日本の画像が見えない。



ただ、一つだけ言えるのは財務省は赤字体質の国家を好きではないし国際会議の度に日本の赤字を指摘されるのは全然うれしくないし早急に国家を筋肉体質にしようとしているのは事実だ。



ぼくは野田政権に移ってから暫く政治ネタは控えていた。松下政経塾出身者がどのような国家運営をするかも個人的に興味があるし現時点で何か批評するのは時期尚早だと思ったからだ。しかしここ数日の増税論議で、おお、やっぱりこの人の方針は増税政権なんだなってのが理解出来た。



増税そのものは国家が必要とする限り行うべきである。しかしそれは常に公正であり透明であるべきだ。一部の連中がぼろ儲けをする中で多くの真面目な人々が到底払えない程の税金を課すのであれば、それは間違いなく国家の崩壊を招く。



今の日本がまさにその状態である。群馬県のダム建設は民主党政権の下で中止することになっていたのがいつの間にか既存既得権益連中の画策で再開されようとしている。不要なダムを作り車が走らない道路を作り国民の税金でぼろ儲けをする連中がいる一方で真面目に働いている人に重税を課せば、それは確実にデモや愛国心と言う名前の下で過激な行動が発生することになる。



そして何よりも怖いのは、普通の日本人が怒りだしたら思考停止状態に陥り、理屈では止まらず徹底的に行き着くところまでやってしまうという国民性だ。



今の日本で増税をするにしても、その前にやることがたくさんあるだろう。まずは無駄な公務員の削減、国会議員の削減、同時に公務員給与体系を民間に準拠させて賃下げをする事である。人事院見直しで0.2%?ふざけんなっちゅうの!日本のデフレは何年続いているのか?その間公務員給与はどれだけ「見直し」で賃下げされたか?全然バランス取れてないでしょ!



そのような目に見える不公平を放置しながら国民に「もっとカネ頂戴〜」だと?通るわけがないでしょうが!



ところが民主党では労組が母体になった議員が多いから公労協の利権には手を出せず、片方では経済界から支援を受けている議員もいるから結果的に撮りやすい処から取る、つまり一般労働者にすべてのしわ寄せが来ることになる、政府からすれば彼らが絶対に反対しない隷属のヒツジと思っているからだ。



しかし僕が一番怖いのはこのような増税と不公平とそれによるデモではない。デモはどれだけやっても所詮は示威行動であり政治的な影響を与える事は出来るが経済的な影響を与えることは少ない。



ところが財務省には経済的な影響、つまり政府が抱える800兆円〜1300兆円の借金を帳消しにする打ち出の小づちがある。それがハイパーインフレーションである。政府はその気になればいつでもハイパーインフレーションを起こすことが出来る。時期だけ決めたら後は役人が個人資産を外貨建てに切り替えてからインフレを起こす。



そしておとなしく国債を個人で買った人や銀行が持つ国債はすべて紙切れとなる。昨日まで1万円で何とか貧しくても夕食が食べられたのに今日は1万円でトイレットペーパー1ダースしか買えなくなる。



国債を購入した時の1万円の価値が、あっと言う間に100円になる。そうすれば国が抱える800兆円の借金は100分の1、つまり8兆円と同じになる。そうなれば国庫収入が40兆円あるから数年で国家の借金は返済できる。



ドイツで起こったハイパーインフレーションはアドルフヒットラーの台頭を招き欧州は戦渦に巻き込まれそれは世界に拡大して第二次世界大戦を招いた。



しかし今の財務省にそこまで先を読んで「だからハイパーインフレーションはダメだ」と考える勢力がどれだけいるのだろうか?または「国民なんてどれだけ絞っても我慢する奴隷羊なんだからやっちまえ!」と言う“イケイケ派閥”もいるのかもしれない。



もし皆さんも時間があればこういう本を読んでみてはいかがだろうか、長年のデフレに慣れてしまって「インフレもいいかも」と思う気持ちを一発で吹っ飛ばすこと間違いない、真夏のお化け屋敷並みの本である。 


 


ハイパーインフレの悪夢
ハイパーインフレの悪夢
クチコミを見る
 



tom_eastwind at 18:13│Comments(0)TrackBack(0) 最近読んだ本  

トラックバックURL

この記事にコメントする

名前:
URL:
  情報を記憶: 評価: 顔