2011年11月25日

国境がなくなるという意味〜りょうまくんへの政治講座

明日はニュージーランドの三年に一度の総選挙。前回の選挙ではジョン・キー率いる国民党が勝利し、その後三年の間に金融危機やパイク炭鉱爆発事故、クライストチャーチ地震など様々なトラブルに対してリーダーシップを見せて多くの国民が彼に対して信頼感を寄せている。

 

りょうまくんがぼくの投票用紙を見ながら「お父さん、どっちに入れるの?」と聞いてきた。「お父さんは国民党に投票するよ」と言うとぽけーっとした顔で「ねえお父さん、毎週300ドルのおカネを払う政党ってどっちなの?」と聞いてきた。

 

あ、失業手当の事だな、学校で友達から何か聞いて来たんだろう。

 

ニュージーランドはMMPと言う選挙制度を採っている。日本と同じ小選挙区比例代表制だ。120議席1院制で二大政党となっている。

 

中道右派が現在政権与党の国民党。中道左派が野党労働党である。国民党の主な支持層は中小企業経営者や農民(NZでは農業従事者は一般企業経営者と同じ能力が求められる)。労働党はその名の如く一般労働者。

 

面白いのは現在のNZの自由経済市場制度を1984年に導入したのは労働党でありその結果として労働党支持層の国家公務員労働組合は次々と民営化され(BNZNZ航空、現在のフォンテラなど各種公社)民間の働かない労働組合員は無能による首切りや仕事がきつくなったとして自己退職して失業者となった。

 

市場自由化までは政府に「雇用」と言う形で寄生してまともな仕事もせずに生活費を賄っていた人々が市場から立ち去り能力のある若者がリスクを取って自由市場で起業して経済を成長させた事で結果的にニュージーランドは1994年から国家財政が単年度黒字になり2007年度までずっと黒字を続けて無料の教育と医療、失業手当を最大50年近くも支払う社会保障制度を守ることが出来たのである。

 

このような失業者はわがままな痛みを理由に1989年の選挙で労働党を政権から追い落として国民党が政権を取った。ところが国民党は当初の選挙公約である「昔への再帰」を放棄して労働党政権が取った自由経済主義をさらに強化させて結果的にニュージーランドは1984年から現在に至るまで方向性の揺らがない自由経済+手厚いセーフティネットを共存させることが出来たのである。

 

しかし現在ニュージーランドは大きな変革を迫られている。それが国境のボーダーレス化である。単純雇用が次々と海外、具体的にはインドや中国に流出している現在、国内雇用を生み出すためには海外の単純労働者よりも優秀な能力を身に付ける必要がある。

 

そこで高等教育に力を入れる国民党は今は時給を上げよりも教育に力を入れるべきだ、何故なら世界はすでにボーダーレスになっており簡単な仕事はすべて発展途上国の優秀で安い給料の若者に奪われると主張する。

 

これに対して労働党は今すぐ時給を15ドルにして低所得者の所得税を下げて高額所得者の負担を増やせと言う。けどそんな事をしたら何が起こるか?

 

まず企業経営者は経理などの定型業務を費用の安い外国企業に委託する。例えば中国の大学で経理と英語を学び卒業してから会計事務所に入ったような若者はNZの企業を担当する。彼らは優秀でありハングリーでありながら給料はNZの若者より数段安い。

 

これからNZで起こるのはこのような世界の標準化である。つまりNZで生まれた若者が中国で生まれた若者と競争をするようになるのだ。あまり能力もないしやる気もないキーウィの若者とハングリーで優秀な中国の若者が競争したらどっちが勝つか、答えは明快だ。

 

だから労働党の要求する時給の急激な上昇は国内雇用を減少させ若者の雇用機会を奪ってしまう。そうすると労働党が次に言い出すのは「NZの企業はNZ国内で雇用をしろ、業務の発注も国内企業に限定する」そうやって雇用を守ろうとする。

 

そうなれば次に起こるのが企業の海外引っ越しである。自由経済で誰でもリスクを取って会社を経営する事が出来るのは同時に経営の裁量が経営者に任されているからだ。それが政府によって雇用や業務発注まで指示されるようになれば海外に出ていくのは当然の結論である。

 

そうやって優秀な企業はNZから出ていき残るのは失業者と働く場所のない若者だけになる。そうなると政府は手厚い社会保障を守ることが出来なくなり結果的に国家が増税するしかなくなる。ところが増税すれば国民はますます疲弊する。そうして国家が倒産してしまう。

 

結局政府がやるべきことは規制を作る事ではなく緩める事であり企業に自由裁量権を与えて彼らにリスクを取らせて働かせて付加価値を生み出して、これが納税と雇用に繋がるようにすることなのだ。結果的に能力がなくて仕事を得られない人々には政府が直接失業手当を払って公平を保つべきであり営利である私企業に要求することは全く筋違いなのである。

 

ニュージーランドは1981年にデフォルトを起こして国家が経済崩壊した経験を持っている。多くの政治家はその事をしっかりと記憶している。だから何があろうとも経済成長を目指すのだ。

 

ただ同時にNZは自然や人々を大切にする国だ。原発を持たないしこれから持つ予定もない。その点では国民生活を一番に優先している。私企業も自然や人々を乱雑に扱う事は出来ない、そこにはしっかりと規制がかけられている。

 

だからこそ納税者がいて失業手当が毎週300ドル払われてそれでも国家は健全経営が出来るのだ。さありょうまくん、どっちの政党の主張が正しいと思う(笑)?



tom_eastwind at 12:26│Comments(0)TrackBack(0) 諸行無常のビジネス日誌 

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