2011年12月07日

ブリック&モルタルがクリックになった時

海外には日本人向け無料雑誌や週刊誌、月刊誌がある。日本人が1万人くらい住む町では日本語で無料情報を提供しつつ日本人市場向けに広告を出したい会社から有料広告を取る事でビジネスを成立させていた。

 

オークランドには現在3誌が紙媒体として存在しているがすべて月刊ベースだ。当社も学生やワーキングホリデイメーカー(ワーホリ)向け無料情報センターとして運営していた頃の2004年までは無料月刊情報誌を発行していた。当時はニュージーランドも年間4万人のワーホリがやってきて当社情報センターを訪問して、あまりの人数の多さにビル管理事務所から苦情が来たほどだ。

 

けれど変化は2003年頃からすでに表れていた。紙媒体を使ったビジネスモデルがインターネットに徐々にシフトを始め、日本から自分の携帯電話を持ってこれるようになりインターネットを使った無料学校紹介も広がり学生向け両替に日本の銀行も本格的に乗り出してきた。

 

何よりもビジネスモデル自体がブリック&モルタルからクリック&モルタルに変化をしていった。そこで当社は2004年に紙媒体を廃止してウェブサイトによる情報提供に大きく舵を切った。当時は紙媒体を発行している会社が紙媒体を廃止するという事は周囲から見ればコアビジネスに失敗したとみなされて「ネットなんて〜ばっかじゃない、要するに撤退でしょ〜」と笑いものになったものだ。

 

それから4年ほどして当社でニュージーランド発の商品を世界の日本人市場で販売する事を考えた時に世界中で紙媒体を発行している日系企業と連絡を取り、紙面を使ってアフィリエイト記事広告を載せる事を提案した事がある。

 

何でそんな事を思いついたかと言うと2008年の時点ですでに紙媒体はどこも広告主を集める事に限界が出て来て経費節減の為にページ数を削減したり広告の安売りに走っていたからだ。

 

アフィリエートであれば世界中の商品をお互いに紹介しあって広告主の減少があっても自社で商品を販売出来るのでかなり自由度の高い経営が出来るのではないかと考えたからだ。

 

けれどこの提案は結果的には全滅、どこの会社も乗らなかった。「そんな事しても売れないよ」とか「うちは広告を集めることが仕事で自分で広告を作る部門なんてないし」とか、海外で生きているとは思えないほどの保守的な意見が出て、ぼくが「そんな事言ったって変わるしかないでしょ、うちは紙媒体に未来がないから残存者利益を狙うよりもネットに切り替えた、しかしあなたたちは紙媒体で行くというならそれなりにビジネスモデルを変化させる必要があるでしょ、待ちの営業では未来はないでしょう」と訴えたのだが、だ〜め、でした。

 

何でこんな昔話を持ち出したかと言うと、今日ある会社から手紙が来て、それまでの週刊発行を隔週発行、つまり毎週発行していた新聞を2週間に1回にするとの事。その手紙を読みながら思った、何で日本人は時代に合わせてビジネスモデルを変更させることが苦手なのだろうかと2004年の頃を思い出したからだ。結果的に誰が生き残っているのか?

 

今の時代がどれだけネットが発達しても情報伝達手段として紙媒体が完全に消えることはない。けれど紙媒体の必要性が激減することは間違いない。ましてこれからスマートフォンやIpadの時代になればますます古い情報しか載らない「新聞」の価値は低下してネット広告にシフトしていくのは目に見えている。

 

見えていても自分が最後の一紙になれば残存者利益は取れる。しかしそのようなチキンレースで他社が潰れるのを待つようなビジネスモデルが果たして健全と言えるだろうか?チキンレースをやる限りスタッフの給与を上げることは出来ないしサービス残業が発生するし休みもなかなか取れなくなる。

 

それでも海外で新聞に携わる喜びは海外生活を始めたばかりの日本人にはうれしいだろう。だから働く人を探すのに困る事はないだろう。しかし労働条件が向上しない限りその国ではいつまで経っても「中の下」から抜け出すことは出来ない。

 

チキンレースをやる中で潰れていく新聞会社のスタッフは最悪日本に帰るという選択肢があるから日本で毎日や産経が潰れると言った大きな問題になる事はない。しかしどこの国でも日本人がいつまで経っても中の上に行くことは出来ない。

 

結局は個々の経営者の判断であるが、ぼくは日本人が外国の地域社会である程度以上の生活が出来るようにしっかりとした雇用体系や給与体系、休暇などを確保するのが経営者の責任であると考えている。ぎりぎりの給料と労働条件でこき使う事はどうなのだろうかと考えている。それは経営者にとっては労働者の生活など関係なく、稼ぎの範囲内でしか給料は払えませんと言う考え方もあるだろう。

 

けれど経営者が時代に合わせてビジネスモデルを常に変化させることをしなければ時代に取り残されるだけではない、その会社で働く人々の生活にまで影響が出るのである。そういう事を考えれば目先の恥など大した事ではない。ビジネスモデルの変更は経営者にしか出来ない。その意味で経営判断は非常に重いのである。

 

日本の紙媒体も大変な苦労のようである。毎日と産経、どっちが先に逝くか?と言うネタで笑えないような笑い話がある。ある日産経の記者が仲間に言った、「潰れるならうちが先じゃないとやばいよね、毎日が潰れたら記者は朝日と読売に職を得ることが出来るだろうがその後の産経記者まで受け入れる余裕はない。だからうちが先に逝ってくれれば朝日か読売に転職できるからね」

 

時代は常に変化している。中島みゆきの「世情」と言う歌を知っている人も多いだろう。知らない人はぜひとも一度youtubeで聴いてもらいたいものだ、いつの時代も変化する事だけが生き残る道だということが感じられる。変化しないものは退場するしかないのだから。



tom_eastwind at 21:49│Comments(0)TrackBack(0) 諸行無常のビジネス日誌 

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