2012年01月14日

泥棒天国

ニュージーランドは治安の良い国と言われて実際に肌感覚でも同様である。とくに田舎町はまさに昭和時代の日本の田舎と同様であり街中お互いに顔を知っているから変な人間が来ればすぐに分かる。けれどオークランドとなるとさすがにそこまで治安が良いとは言えない。それでも日本の同様の都市、例えば東京、福岡などと比較すれば良い方だと言える。

 

ただしこれも本当に地域差があり、一番治安の悪いと言われるオークランド南部では車を降りて街を歩くことさえ躊躇いたくなる通りがたくさんある。ハーバーブリッジを渡ったノースショアは平均的に治安が良い。東海岸沿いには治安の良い地域や街が並ぶ。大雑把に言えば北と東が良くて南と西があまり良くない。

 

けれどどこの地域でも同じなのが警察の対応である。それは毎年クリスマス休暇明けになるとあちこちで言われる「自宅を留守にしている間に泥棒に入られたのよ〜」である。とくにオークランド東南部のホーウィックあたりの高級中国人住宅街からだ。

 

元々ホーウィックは地元キーウィのリタイアメントが生活をするのんびりした丘陵地帯だったが1990年代に香港の中国返還をひかえてNZに移住した香港人が多く住んでいる。彼らはすでにお金持ちであり今さら働く必要もないために(NZで働いても香港ほどには稼げない)カジノに行ったり友達とパーティやったりする。

 

彼らの住んでいるホーウィック地域はすぐ隣にパクランガと言う低所得住宅街がある。そしてこのあたりのガキんちょのコソ泥がヒマをあかしているついでに目を付けた中国人家庭の出入りを見張ってて、中国人が外国に旅行に出た間に大型トラックで乗り付けてまるで引越しのようなふりをして家財道具一切合財かっぱらっていくのである。

 

旅行から帰って来た中国人はびっくりして地元警察に届けるのだが警察が来るのは良くて翌日、週末が重なれば2~3日後なんてのは珍しくない。当然中国人は怒る「警察は何やってんだ!犯罪だぞこりゃ!」と文句を言う。

 

ところが警察は「ああそうですか、じゃあ報告書を書きますからその紙もって保険会社に行って請求してくださいよ、え?なに?保険に入ってない?そりゃどうしようもないな。まあとにかく調査しますけどあまり期待しないでくださいね、でっは〜」となる。

 

こうなると中国人はもう意味が分からない。いくら犯罪が多い香港でも警察はきちんと調べて指紋を取って足取り調査をしてくれる。何故治安の良いニュージーランドでそれが行われないのか?これは日本人でも同様で、この国の仕組みを理解出来ないと何故警察がコソ泥を捕まえないのかが理解出来ない。

 

この背景を理解するには国家の基礎となる税金とは何ぞや、左翼が考える「犯罪は何故起こるのか」、「少年の教育はどうあるべきか」などについてキーウィの考え方を理解する必要がある。これはキーウィ自身も気づいてない深層心理である。彼らは他の社会と比較する事がないからなぜこうなのかを考えようとしないから質問されても答えが分からない。

 

まず最初にあるのが、キーウィは社会主義から出発したので泥棒などの犯罪者がいない社会である。それでも泥棒をするのは社会構造に問題があるのであって泥棒の問題ではないと考える。

 

だから泥棒を許し社会が反省する。有名な話だが泥棒が自宅に入ってきて家主がバットで撃退したら家主が暴行罪で訴えられたという話だ。家主は素直に自宅にあるものを渡して後日なんちゃら委員会で社会の在り方を語るべきだという発想が今でも残っている。

 

これをそのままキーウィに聞くと「そんな事ないよ、泥棒が入ったらバットで撃退するよ」と殆どの人が言うだろう。ところが裁判所ではそのような判断はしない。何故なら裁判官は殆どが1970年代の社会主義者でありニュージーランドの裁判官は互選制、ちょっと説明は難しいが要するに試験に通れば誰でもなれるわけではなく「現役の裁判官が認めた法律家」だけがなれるのだ。そして現役裁判官は左翼なので裁判官になれるのは必然的に左翼的社会主義者と言うことになる。

 

そこでどうなるかと言うと、まずはコソ泥が自宅を荒らした場合は保険会社に請求して金銭的被害を補償する。犯人は捕まえない。何故なら捕まえるために新たに警察官を雇えば一人当たり年間10万ドルは費用がかかるのでそれを誰が負担するのかと言う話になる。

 

もちろんそれは税金で払う訳であり、そうなれば税金を上げても良いのかと言う議論になる。それなら金銭的被害は保険会社が払うのだから何もなかった事にして警察が動かない、これが誰にとっても一番の正解でしょと言うわけだ。

 

正義を実行する?泥棒を捕まえる?何の為に?実利を考えましょうよ。たかがコソ泥だし裁判所に連れて行っても初犯は無罪、二回目はPD(公益労働週1回3か月程度)、三回目以降でも刑務所に入れると監視費用がかかるので自宅軟禁(HomeDetention)で終わり。そんなんで警察がいちいち捕まえる意味がないから必然的にコソ泥は放置するのがニュージーランドである。

 

じゃあ警察は何をしているのか?交通違反の取り締まりと(これは儲かる!)週末の若者の酔っ払い取り締まりだ(これは腕試しに良い!)。警察が本気で取り組む捜査は、家庭内暴力とか殺人事件、麻薬などだ。

 

だから泥棒をあまり熱心に取り締まらないというのは、一つには社会主義的発想がありもう一つは現実的に増税してまで取り締まる必要があるのかという考え方だ。

 

もちろんこの考え方もこれから少しづつ変わっていくだろう。これから社会が二極化してくれば犯罪が悪質になっていく。そうなってくれば「割れ窓理論」が出て来て犯罪は小さなうちに摘み取れとなる。ただ国家の成り立ちが親である英国のような社会構造ではないし裁判所が劇的な変化をすることもあまり考えられないので、一般市民は当面は泥棒が入りづらい家の作りにするとかで対応していくしかないだろう。



tom_eastwind at 14:22│Comments(0)TrackBack(0) 諸行無常のビジネス日誌 

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