2012年04月29日

BOSCH

冷蔵庫は去年買い換えたのだがうちの奥さんは冷蔵庫と倉庫の区別が付かないのは今も変わらない。

 

香港人の性格と言うのか自分の冷蔵庫をいっぱいにしておかないと気が済まないようだ。彼らには「食べること」が大事なのはわかる。香港人の日常の挨拶が「おはようございます」ではなく「御飯食べましたか〜?」なのだから「武士は食わねど高楊枝」なんてのは全く理解されない。

 

しかしぼくは日本で生まれ育ち「畑→配達→調理場→スーパーマーケット→冷蔵庫」と順番がある流通を信じてているし、自宅の冷蔵庫を食料で満杯にするのはどうしても好きになれない。何となくだけどみっともないって気がするのだ。

 

奥さんは買い換える前は「うちの冷蔵庫はちっちゃいのよ、だから大きなのにしないと余裕も出なくてダメなのよ」と言ってたが大きな冷蔵庫にしても結局は満杯にしてしまい同じ事である。だから買い換える前にも「お母さん、結局同じ事だよ、またいっぱいにするだけだよ」と言ったのだが全然聞く耳を持たず。我が家で一番発言権がないのは僕。

 

Boschはドイツのメーカーで車の部品から家電まで作っており娘は「ドイツ製ならOK」と言ってたのだが現物が届いてみると韓国のBoschで作ってる冷蔵庫であり娘は少しお冠だ。中国人からすれば韓国は一段階低い地位の国家であり中国の属国であるから属国で作られた製品など、どうよ?って感じなのだろう(笑)。

 

このBoschは優秀で冷蔵庫のドアを開けなくても氷が取り出せるのだけど、出来る氷の量が少ない。奥さんは「買うときにはね〜、これだけの時間でこれだけの氷が出来るって書いてたんだけどね〜」と言ってる。

 

でもってぼくは大量に氷を消費するので結局氷不足になり何のためにこんな冷蔵庫を買ったのかわからんって話である。

 

本題は氷ではない。冷蔵庫があればモノをいっぱい入れておかないと満足出来ない中国人の性格だ。香港に旅行に行った人なら分かるだろうが、中国料理の場合は小さなお椀になみなみと料理を盛るのが大好きだ。ぼくはどうもこれが好きになれず、いつも大きめのお皿に程々に盛るようにしているが、気づいたら奥さんは必ずちっちゃいお椀に料理を山盛りにしてる。

 

お互いの子供時代の生活体験が全く違うのでなんとも言えないが、ぼくが生まれた頃の日本はすでに豊かであり平和でありぼけてても生きていける時代だった。だからスーパーに行けば食べるものがあるのになんで自宅の冷蔵庫を一杯にするのよ、みっともないって思える時代だった。

 

けれど奥さんが生まれた当時の香港と言えばまだ生活は厳しく奥さんのお母さんは共産党から逃げてきた難民だから生活の苦労とか他人が何かしてくれるとか甘い事は全く考えずに自分で出来ることは全部自分でやる、それが冷蔵庫を常に一杯にしておいて食べるものを確保するってのが当然の行為だった。

 

奥さんが小学生の頃住んでいた団地のアパートの窓から見る景色は、香港の素晴らしい夜景をバックにアパートの隣にある公園でヤクザ同士がしょっちゅう殴りあったりする景色だったらしい。奥さんが住んでた街の若者は背中にモンモンしょって繁華街に出かけて集金したり喧嘩したりが普通で、おじさんたちはモンモンを消そうともせずに昼間からアパートの庭で麻雀してた。これはぼくが1990年代に自分の目で直接見た景色なので間違いない。

 

とにかくあの当時ぼくら夫婦が住んでた街は、住民の半分が元ヤクザで残り半分は現役ヤクザって感じの、ある意味すごいところだった。もちろん普通に働いている人もたくさんいるのだけど、そういう人の影が霞むほどに昼間から楽しい景色を見ることが出来る。ある意味彼らが普通の人に見えてきて、たまたまそういう職業を選んだんですねって感覚になる。彼らも社会を支える人々だったのだ(多分今でも同じではないかと思う)。

 

確かにな〜、こういう世の中で生きてたらとにかく自分の食べ物を確保することが何より大事ってなるんだろうな、実感として思った。共産党の圧政から逃れて難民としてやって来た母親、街では普通に喧嘩があり警察はその権力を自分の利益のためにだけ使い(これも本当の話。香港では警察になることは金儲けをすることだと1970年代には考えれていた)、一般市民は自分の身は自分で守るしかなかった。

 

その頃ぼくらは日本のグループサウンズとかサイモン&ガーファンクルとか聴いてて、スーパーに行けばインスタントラーメンが売ってて誰もが学校を卒業したら就職できて、ある意味すべてが平和で「予定調和」の中で動いていた。生意気な事を言っても責任を取る根性がないままに言いっぱなしでOKで平和なところから自分に災難が降りかからない距離を取って「ベトナムに平和を〜」とかやってた。

 

同じ頃うちの奥さんは冷蔵庫を常に食べ物で一杯にするように、道で警察に会ったら目を伏せてすぐに通り過ぎること、ヤクザの喧嘩が始まったらすぐ逃げることってお母さんに教えられてた。

 

21世紀のオークランドの日曜日の午後、りょうまくんに「ねえお父さん、なんで遊戯王のしずかちゃんが英語ではSerenityになるのかな〜?」と聞かれた。日本語のアニメに英語字幕なのでそういう事がよく起こる。「平和だな〜、やっぱり平和っていいよね」りょうまくんと二人で遊戯王を見ながらそう思った日曜日の午後でした。



tom_eastwind at 18:14│Comments(0)TrackBack(0) 諸行無常のビジネス日誌 

トラックバックURL

この記事にコメントする

名前:
URL:
  情報を記憶: 評価: 顔