2012年08月06日

君たちに明日はない4・勝ち逃げの女王

おなじみ垣根涼介の「君たちに明日はない」シリーズの第4巻。真介が随分大人っぽく脳みそを使って考え始めているのが興味ある。原発事故以降の作品であるが原発の事は書いてない。なのに何となく「会社にしがみつくだけでいいのか?」とか「自分にとってやりたい事は何か?」「人生って一度っきりでしょ」とか。

 

本来はリストラ、つまり依頼先企業の社員の首切り面接担当官として仕事をしているわけだが、今回はどれも何だか「吹っ切れた感じ」の面接が続く。首切り面接担当官と話をすることで自分がやりたかった事を再度発見する話とか後味がすごくすっきりしてて良い。

 

音楽会社の首切りを担当した時の話だ。

★抜粋開始

迷うのはいい。自信がないのも仕方がないのも許せる。だがコイツ・・・まだわかっていない。そしてこの言い方では何の答えにはなっていない。バンド活動をやめたにもかかわらず音楽活動に携わるこの会社に勤めている。

 

だからこそこの局面で揺れている。ブレている。自分を捨てきれていない。いや、捨てなくてもいい。だが、捨てないなら捨てないで、ある部分をわりきる勇気というものを持ってもいない。つまるところ、自分にとって本当に大切なことは、他人からは与えられない。自分自身が気づくしかないのだ。

 

実力と才能は違う。音楽はテクニックじゃない。次々と見せつけられる実力の差やセンスの差に、それでも挫けずにその行為をやり続ける情熱こそが、絶え間なく技術を支え、センスを磨き、実力を蓄えてくれる。それらの裏付けがあるからこそ、さらに情熱を持ってやり続けられる、それが、才能なんだ。

★抜粋終了

 

このあたり、今の移住希望者にも通じるものがある。迷うのは良い、自信がないのも当然、けれどいつまでも答えを出せずに前進出来ないのはどうなのか?かと言って踏み出す気持ちがなければ、それは捨てる勇気がないのだから割り切ってそのまま日本で生活をすべきだろう。

 

一番ダメなのは「見かけだけ、口だけ、新橋のガード下だけ」で、本当はやろうと思っていないことをいかにもやろうと見せかける人々であろう。

 

夢はあったのにいつの間にか日常生活に慣らされてその生活に浸っているうちに抜けられなくなって、けどそんな自分を認めたくないから飲みに行った居酒屋では後輩相手に「おれさー、昔はこんな夢があってこんな事やっててさー」と毎回同じ事を繰り返す。後輩も予定調和で「そうですよね〜」と相槌を打つ。決して「じゃあ何で今からでもやらいんすか、夢に向けて」とは聞かない。居酒屋の愚痴は結局お互いに傷を舐めあう場所であり夢を語る場所ではないのだから、そこでガチで質問したら「KY」になってしまう。

 

話は変わるが米国籍をあえて離脱する記事があった。

 

★抜粋開始

米財務省はこのほど、米国籍放棄者の最新四半期リストを公表、投資ファンドのカーライル・グループの買収専門家やイスラエルの最高裁判事など合計189人が名を連ねた。

189人は最近では非常に少ない人数で、専門家によれば米国の所得税率が低い間に(現行の低税率は2012末に失効する)国籍を放棄しようと思っていた人はすでに実行しているからではないかと分析している。

一方で、国籍離脱からリスト公表までにはおよそ6カ月間かかるので、今年終盤に離脱者リストは増加するとの見方もある。今年の最初のリストでは、交流サイト(SNS)最大手フェイスブックの共同創業者であるエドアルド・サベリン氏が国籍を放棄したことが明らかになっている

 今回リストに載ったのは、カーライル・グループの取締役で香港在住の買収専門家のグレゴリー・ゼラック氏や、金融大手JPモルガン・チェース(香港)のプライベートエクイティー・ファンドの責任者のマイロン・ズー氏など。

 80人超が中国系とみられ、所得税のため国籍を一つにしたのではないかとみられている。香港の最高所得税率は15%で、キャピタルゲインや配当、相続は課税されない。さらに米国と違い、外国での所得は本国に持ち込まない限り課税対象にならない。

 米国では、他の多くの国と違い、国外での所得も合算して課税される。一方で、中国はインドやロシアと同様に二重国籍は認めていない。イスラエルのダフィニー・バラウ・エフド氏は、同国の最高裁判事に任命されたため米国籍を離脱した。同氏は、イスラエル人の両親の下で米国に生まれ、米国籍を付与されたが、イスラエルでは判事になった場合二重国籍は認められないためやむなく米国籍を放棄した。

★抜粋終了

 

米国籍からの離脱、その理由は人それぞれのようだが共通する点は「自分のライフスタイルに合わせた国を選ぶ」というところだ。

 

中国系であれば高税率の米国籍を持つよりも香港籍のみにしてしまった方が税金がずっと安い。仕事といっても彼らのレベルになれば世界中どこでも作業が出来るし米国籍でなくても米国への短期の出入りに問題はない。

 

イスラエルのように二重国籍が認められない場合は自分の好きな国の国籍を取得する。日本人は何かと米国が素晴らしい国家だと思っているが、実際に米国で成功してみると生活しにくいと感じる人もいる。

 

ニュージーランドにも米国からの移民が毎年500人くらいやってくる。あんな豊かな国から何故?と思うだろうが、ロサンゼルスから自家用ジェット機でやってきて永住権申請をする彼らはニュージーランドにあって米国にないものを求めている。

 

それは「治安・安全」である。どれだけ仕事で成功してお金持ちになってもある日ニューヨーク5番街でテロに巻き込まれたら終わりである。また自分が直接巻き込まれなくても、テロが起きてからさあ逃げようとしてもその時にはニュージーランドの永住権のルールは変更されてビザが取得できなくなるかもしれない。だから最近やってくる米国人は予想される危機に対応して事前の措置を行なっているのだ。

 

米系中国人の場合は税金対策で米国籍を捨てるというのも分かりやすい話だ。ユダヤ人は何冊のパスポートといくつの名前を持っているのだろうか、個人的には興味のあるところだ(笑)。

 

彼ら全員に共通しているのは、状況判断の正確さと決定の速さだ。これは人間として生まれてきて誰でも持っている能力である。それを磨いて強化するかどうかは自己責任だ。そして米国籍を捨てるような人々は相当な決断と実行能力を持っている。これがあるかないかで、自分が自分の人生の主人公になれるかどうかが決まる。

 

今朝は朝食を何にするか?何時の電車で会社に行くか?出勤前にコーヒーを買うか?気に入らない上司をぶん殴って会社を辞めてロックンローラーになるか?海外に移住してみるか?国籍離脱してみるか?

 

大きい小さいの問題はあるにせよ、基本は情報収集と決定能力だ。少なくとも新橋のガード下で愚痴るだけで情報収集も決定もせずに毎日流されているだけでは、何かを成功させるなんて至難の業ですぜ。

 

「君たちに明日はない」の場合は首切り面接という一つの機会を通じて自分の人生を考える時間を持つことが出来た人がいた。

 

冒頭にも書いたが今回の小説では原発の話が出てこない。けれど「その衝撃」をすごく強く感じるのは、東日本全体に甚大な影響を与えた原発問題が、日本人一人ひとりにとって人生を根本から考え直す機会ではないかということだ。これでいいのか?このままでいいのか?そんな語りかけを感じた「君たちに明日はない第四巻」でした。



tom_eastwind at 13:44│Comments(0)TrackBack(0) 諸行無常のビジネス日誌 | 最近読んだ本 

トラックバックURL

この記事にコメントする

名前:
URL:
  情報を記憶: 評価: 顔