2012年08月23日

「富裕層の新納税術 海外タックスプランニング」 古橋隆之

日本で生活する人の中には旅券さえ持ったことがないという人もいるわけで、今までは相続対策は日本国内で相続に詳しい税理士にお願いするのが一般的だった。

 

しかし相続税の増税から始まった財務省の税務大改革に対応するには日本国内で行える節税に限度がある。そこで最近出てきたのが海外を利用した相続対策である。

 

もちろん「節税なんてダメだ!税務署に言われる通りに全額納税するのだ!」と思ってる「愛政府」の方はどんどん納税すれば良いと思う。ただ、今の日本の税法が国際税法の大原則である「一つの収入に対して一回しか課税しない」というルールを破っているのは事実だ。

 

例えば中小企業の社長が自社株を持っていたとする。会社が利益を出せば法人税を支払う。法人税は実効税率で約40%としよう。会社が納税した後に個人が受取る配当に対して課税される。これが約50%(所得税40%住民税10%)。

 

つまり企業が100万円の利益を出した場合40万円を法人税として支払い個人が60万円を受け取りそこから30万円を納税すると、手元に残るのは30万円である。このお金に対して相続税が現行最高税率50%だから最終的に残るのは15万円。一つの収入に対して3回課税しているのだから大した確信犯である。

 

一生懸命働いて赤字の時は自分が補填して運営した会社も、利益が出ればその殆どを税金として持っていかれる。じゃあ金を払った相手、つまり政府はそのカネを何に使っているかというと自分たちの給料や天下り先に配分して、要するに役人になれば一生保証されて退職後も天下りという全くリスクのない奴らのためにこっちがリスクを取って稼いだ金を渡しているわけだ。

 

もっと大変なのは東京でサラリーマンをやってて土地を購入して自宅を建ててあまり現金を持っていない家庭である。例えば頑張って働いて昭和の中期に東京の土地が安い時に購入してローンの支払も終わり現在の価値が数億円になってる場合。

 

こうなると納税の為に自宅を売却しなくちゃいけなくなる。様々な免除手段があるにせよ現金が手元にない場合はどうしようもない、物納となる。しかしそれでは残されたお母さんはどこに住むのか?同居していた子供たちは?そんな「個人的な問題」は政府は考えてくれない。

 

そこで日本国内では相続専門の税理士がそれぞれのケースを考えて対策を作ってくれるのだがそれでも最初に書いたように国内での節税には限度がある。

 

かと言って海外相続って、親子が5年海外に住むって話でしょ、それは現実的に無理ですよってなるが、実は海外相続は海外に居住地を移さなくても可能である。

 

要するに日本での「課税の根拠」をなくしてしまえば良いのだ。その為に海外を利用するだけで、実際に海外で生活をする必要はない。「相続が発生するから税金が発生する」。相続が発生しない限り相続税は発生しない。本書ではその方法も含めて様々なケースを検証している。

 

例えば簡単な例で言えばリバースモゲージという東京スター銀行とかが出している商品がある。これは自宅を担保に銀行から現金を借りて本人が死亡した時点で銀行が資産売却をして清算、終了となる。この時点で本人の財産はなくなっているので相続すべき資産はなくなっている。

 

借りたお金の使用使途は一応決められているが一旦資金を入手してきちんとローン利息返済さえしていればあとは銀行担当者との話し合い次第だ。この本では「財産の所在地を変える」と表現しているが、要するに住宅という財産を自分が居住したまま現金化してその現金で海外で不動産を購入する。

 

この際にポイントなのは海外の法律でその国に相続税や不動産売買にかかる税金がどうなっているかだ。本書でも各国ごとに相続税があるかないかも含めて説明している。

 

例えばニュージーランドは相続税がない。そして不動産売買に税金がかからない。1億円で不動産を買って10年後に1億5千万円になっていれば5千万円は非課税の利益となる。

 

海外で不動産を購入したとしてもそれは相続の際には海外資産として財産目録に繰り入れられるではないかと思うだろう。ここで出てくるのがニュージーランドの家族信託会社である。

 

現在の日本の税法では日本国籍を持たない人に海外資産を贈与した場合は無税である。なので購入した不動産をニュージーランドの弁護士に贈与する。その後弁護士に家族信託を設立してもらいその後は家族信託を弁護士に管理してもらう。

 

これで東京の自分の持ち家に住みながら海外に資産を移し本人が亡くなった時でも資産がないから財産目録への繰入が不要となり財産がないので相続税が発生しないという事になる。

 

自宅に住みながら住居を現金化して財産の所在地を変えることはリバースモゲージ以外にもリースバックという方法がある。ほかにも様々な方法がある。この本には一般的な海外を利用したプランニングという事で米国やオランダ、シンガポールの利用方法を書いている。

 

但しこれは日本の国内法と海外の税法、両国が締結している租税協定の内容、条文と実際に運用されてる状況などを把握した上で個別具体的なスキームを作る必要がある。これは相当に難しい。普通に日本で税理士をやってる人に聞いても分からない。

 

何故なら日本の税法が全く予測もしなかった方法でスキームを作るわけで、誰に聞いても「間違いないない解決策」という答はない。

 

けれどこの点では裁判所は税法に関してはきちんと対応してくれており、本書内でも武富士、ユニマット、一条工務店のケースを個別具体的にスキームと裁判の流れ、そしていかに税務署が「課税出来ないか」の説明をしている。

 

相続税は今までは富裕層のみの話であり日本全体でも相続税を支払っているのは全体の4%程度だった。けど東京都内で言えば6%以上、更に五区であれば10%近くに増える。相続の控除額も減額されており、普通のサラリーマンでも都内に自宅を持っている場合は今から対策をうっておく必要がある。

 

縁起でもないっていうのは分かるが、何もしなくて結果的に困るのは残された奥さんや子供たちであり、相続が「争族」となるケースは後を絶たない。人生の対処方法として、出来るうちにやれることをやる、これもひとつのリスクマネージメントだ。



tom_eastwind at 15:09│Comments(0)TrackBack(0) 諸行無常のビジネス日誌 | 最近読んだ本 

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