2012年08月26日

「地球の論点」 スチュワート・ブラント

「現実主義的な環境主義者のマニュフェスト」と副題の付いた434ページの単行本。テーマを地球温暖化、原子力、遺伝子組み換え植物、人間が地球に与える影響、などなど地球が抱える基本的な問題を科学的な姿勢で捉えている。

 

作者は1968年から雑誌の編集人として活躍しており、スティーブ・ジョブズ氏が「自分が若い頃にハマった本だ」と2005年のスタンフォード大学の卒業式で述べている。

 

1968年と言えば米国では泥沼となったベトナム戦争にケネディ大統領の暗殺とヒッピーの台頭と米国にとっては暗い時代であり、その頃に人間はどうあるべきか、地球とどう折り合いをつけながら生きていくのかというテーマが語られた。

 

一つ一つのテーマの取り上げ方は科学的であり興味深い。とくに彼が反原発から原発容認の立場になった経過を見れば「正しく怖がる」ということがどういうことが分かりやすい。福島原発事故の後でも十分に通用する考え方だ。

 

感情論ではなく理論として、人間は自然とどう折り合いをつけながら生きていくべきかという視点から見れば、人間は随分矛盾した生き方をしている。時には喧嘩したり時には無用な程に気を使ったり、けどそれは自然からすればどうでもいいようなアプローチでしかない。

 

その姿はまるで一人の美女を巡って自分を何とかよく見せようとする哀れな中年男の様相をしている。「地球を救う」という言い方で美女にアプローチするが、地球からすればどうでも良い話である。

 

読んでて最後まで疑問に感じたのが「人類はこれまで“地球殺し”の役割を演じてきた。自分たちが生き延びるために近視眼的な自己都合しか眼中になかった〜後略p352」という文章が表すように、作者はすべてにおいて米国人の視点からしかモノを見てないという事だ。

 

持続する環境、それは日本が2千年前から取り組んでいる事である。この本を読んで感じるのは西洋人独特の「自分だけが正しくて自分だけが知っている」という傲慢さである。一つ一つの問題に対する取り組みはそれなりに理解出来るが合計した際の全体の誤謬(ごびゅう)については理解が及んでいない。

 

但し一つ一つの問題に対する分析は、すべてに対して感情論でしか対応出来ない一部の日本人にとっては学ぶべき点がある。

 

それにしてもこの手の独善的な西洋本を読むと反面教師的な感があり、いかに日本という国が歴史的に自然と持続する文化を守ってきたかがよく分かる。

 

動物愛護を語りながら自分の都合の良い時には鯨を殺して油を取り不要になったら捕鯨禁止にしてカーギル社の食料を売りつける、遺伝子組み換えが儲かると分かればモンサント社が世界中の種苗会社に圧力をかけて売り込む、とにかく西洋人というのはよく言えばドラグマティック(実質的)であり、何が正義かではなく正義をどう使えば金になるかを熟知している。

 

日本人が一番不得意とする分野である。しかしこれから西洋人と付き合うからにはぜひとも理解しておくべき分野である。正義はいくつもある。自分だけが正義と信じるのは自由だがその発想の狭さが自分を追い込んでしまう事には十分に注意すべきだ。

良い本である。敵を知るという意味で読んでおくべき一冊である。 

 

Stay hungry, Stay foolish 裏表紙に書かれたこの言葉は、現代の日本人にもそのまま通用する。


地球の論点 ―― 現実的な環境主義者のマニフェスト
地球の論点 ―― 現実的な環境主義者のマニフェスト
クチコミを見る
 



tom_eastwind at 17:31│Comments(0)TrackBack(0) 諸行無常のビジネス日誌 

トラックバックURL

この記事にコメントする

名前:
URL:
  情報を記憶: 評価: 顔