2012年08月31日

「こころの免疫学」 藤田紘一郎

不健康という言葉がある。ぼくが子供の頃に日本では「ほうれんそうは鉄分がたっぷり入ってるから食べなさい」とか、おとなになってすぐの頃はコレステロールのとりすぎは死にやすくなるから卵は良くないとか結構本気で言ってた健康オタクがいた。

 

何時の時代も同じであるが、彼らは正式には健康オタクではなく洗脳免疫低下症候群、つまり本に書いてる事は常に正しく12時になるからお昼ごはんを食べる、米国の言ってることは何でも正しい、とにかく自分の頭脳で思考することが出来ず本や権威にしがみつき彼らに同調することで自分の存在価値を見出すという自己価値評価の出来ない洗脳に弱い人間の集団であった。

 

ところが後になって調べてみるとほうれん草の鉄分なんて戦後すぐから比較すると数十分の一に低下しておりその代わり人間の体にとってどうしても良くないだろうって農薬まみれになっていた事実。

 

卵を食べずにコレステロールを減らした〜と喜んでたらコレステロール低下で免疫低下してガンの発症率が劇的に増加したとか笑い話にもならない事実。

 

ぼくは小学校の頃から野菜が大嫌いであった。それは単純に“不味い”からだ。人間の舌は本来よく出来た食料感知器であり、腐ったモノを口に入れると不味いと感じて吐き出す能力があった。鼻も同じで匂いで有益か無益かを判断できた。

 

昭和30年代の日本は経済成長に忙しくお昼ごはんを作る時間もない、そんな時に出てきた加工食品がチキンラーメンだった。あれは美味かったな〜、農薬まみれになった栄養価のない野菜を食べるくらいなら白ご飯とラーメンで十分だった。

 

この本で最初に取り上げるテーマが人間の腸である。腸内細菌は実は人間の第二の脳である。脳が司令塔のように考えられているが動物の進化の過程を見れば原始生物は脳や脊髄がなくても腸だけは存在したわけで、身体が発達するに連れ脳が第一の司令塔になったが、脳を動かしているのはあいも変わらず第二の司令塔である腸だ。

 

そして腸の中にある細菌は例えばビフィズス菌のような善玉があり、体外から摂取された栄養素を分解しながらそれぞれの用途に使う。その一つがドーパミン造成作用である。笑ったり人を幸せにする気分を作るドーパミンは脳そのものからは作り出せない。脳にドーパミンの元となる物質を送り込んで初めて人は笑ったり喜んだり出来る。

 

そしてそのような物質は体外から食事という形で取り入れるしかなく、食事が正しい形で取り込まれなければ人は正しい感情を維持することは出来ず、これが人間に免疫低下を招き各種精神疾患になる。

 

1960年代になって日本人にうつ病と花粉症などのアレルギーが発症するようになった。これはまさに日本人の食生活の変化と同時期に起こった。食事の西洋化と伝統的和食の減少が人間の免疫を低下させた。

 

作者は学者としての実体験やデータから様々な接近方法を用いて食事療法の効用を説明している。もちろん世の中食事だけがすべてではない。人は他にも様々な要素で病気になる。しかし人生70年を生きていこうと思って認知症になることを気にするなら、少なくとも食事療法で防げるものがあるならそれはそれで実行する価値がある。

 

ここからはぼくの個人的な感想だが、医療は基本的に統計の世界であり統計では説明出来ない例外が常に存在することは事実である。ぼくのように子供の頃からほとんど野菜を口にせずほぼ毎日インスタントラーメンを食べて若い頃は朝ごはんはコーヒーのみって生活を送っても生きてるような例外がいるのも事実である。

 

なのですべての人間を例外なく枠に押し込めるような食料原理主義者には賛成出来ない。それでもこの本は押し付けるわけでなく「こんな考え方もあるよ、こんな事実もあるよ」とわかり易く説明してくれるのが好感度たかしである。

 

日本では未だ持って牛肉の霜降り信仰があるがあの霜降りは飽和脂肪酸であり常温では溶けない。つまり熱して体内に摂取された状態では溶けているがすぐに体内温度=常温に戻って塊になりこれが血管にそのまま付着して脳梗塞の原因となる。

 

マグロの大トロの霜降りは不飽和脂肪酸で海中のような冷たい場所でも固まらないから人間が食べても体温で固まることはなく血中でサラサラと流れてくれる。西洋では青魚などに含まれる脂肪酸をオメガ3とかオメガ6で区別したりしているが、この脂肪酸の供給(血液による供給)が安定していないと脳の作用に影響をおよぼす。

 

つまり何のことはない、西洋式の肉の脂身をがっつく生活では血液どろどろになり血管に詰まりが出ていずれ脳梗塞になるよと言っており実際にNZでも死亡率のトップに脳梗塞がある。

 

食用油の話がある。油は元々生鮮食品、魚と同じ生物なのだがそれが何故家庭の厨房で長期保管出来るかといえばそれは酸化を防ぐために熱処理をされてその結果として不飽和脂肪酸がなくなりトランス脂肪酸に変化して体内の免疫障害を起こしている。この油を大量に使って提供されるのがファストフードである。ジュースなどの飲み物にも25%くらいの砂糖が混ざっているが、普通の水に25%の砂糖を入れると甘すぎて飲めないという子供でもそこに添加物を加えると甘みがなくなり美味しいと感じて「また食べたい」というようになる。その結果は糖尿病と子供の頃からの異様な肥満に繋がる。

 

コーラとフレンチフライを手にした子供を見て泣きながらひっぱたく親もヒステリックであるが飲ませすぎる親も基地外である。

 

それにしても日本の食料品業界、タバコ訴訟と同じでいつの日か事実が表面化されたら消費者による集団訴訟、絶対ありでしょうね。

 

いずれにしても宗教としての食い物や肉体ではなく科学として肉体を分析して冷静に怖がりながら文明をバランスよく享受する姿勢が必要な人には必読の一冊です。

こころの免疫学 (新潮選書)
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tom_eastwind at 14:21│Comments(0)TrackBack(0) 諸行無常のビジネス日誌 | 最近読んだ本 

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