2012年10月08日

「頑張ります」ではなく「何が出来るか」について

日本の労働法では労働者の能力は企業が身に付けさせるものという発想がある。しかしニュージーランドでは能力を自分で身に付けてから採用試験を受けて下さいという社会構造の違いがある。

 

最近はニュージーランド移住の一つの方法として現地専門学校に通って卒業して就職のためのビザを取得して企業巡りをして採用してもらいワークビザ、そして2年程度働いた後に永住権を申請するケースも増えている。

 

というか、移住する日本人が増えているので選択肢として「企業で採用してもらう」というのはありなのだが、ここで注意してもらいたい心構えがある。

 

それは、ニュージーランドでは基本的に労働力は即戦力と見なしており採用の際に能力がなければ「これから頑張ります」は通用しないという点だ。

 

日本では大手企業が終身雇用が前提であった時代には社会人教育は会社が引き受けていた。大学を出て白紙状態で実践能力のない人間を自分の会社で使えるように箱に押しこむ為に短くても3ヶ月から長ければ1年近く新入社員教育を受けて現場に出されたものだ。

 

しかしこれはその労働者が60歳まで辞めずに働く事を前提にしておりまた大企業だからこそ初期投資として出来た制度だ。

 

だから日本の労働法の発想は「仮に労働者の能力が不足していても、まずは会社側が教育や指導によって能力向上を測るべきで、いきなり解雇をしてはいけない」のが日本の過去の判例である。

 

ところが現代のようにいつでも辞める事が出来るようになると労働者は会社の教育を受けて現場の知識を身に付けたらすぐに転職するような時代になると、会社としては初期教育の投資が無駄になるだけでなく他社に引き抜きをされることで自社の利益逸失ともなる。

 

ニュージーランドは労働法が世界で最初に作られた社会主義国家であるから労働者の権利は強く守られている。従って労働者は転職の自由がある。そうなると採用する会社側とすれば属人的に採用するのではなく業務推進のために必要な椅子の数で採用を決める。

 

そして採用に際しても即戦力となる人材でなければ教育という投資をしなければいけないので、初期投資の不要な人材を選ぶようになる。なので「頑張って」もらっても能力がなければ意味はないのだ。

 

今日から椅子に座ってもらい明日から売上などの実績を出してもらう人材になるためにもう一つ理解しておくこと、それはこの国の企業では一般事務員の需要は少ないという事だ。ネットがなかった時代であれば経理や総務の事務作業もあったから中間層の業務もあった。つまりそこそこに社会常識と一般的な知識があれば務まる仕事があった。

 

しかしネット社会では一般事務はパソコンで処理したりするからバックオフィス業務はなくなり経理事務そのものが英語を使う他国に外注されるので、業務としては思い切り二極化、つまり銀行で言えば投資家向け商品の企画や販売網作りが出来る超優秀な能力か支店窓口で顧客対応をするかである。

 

前者であれば普通の日本人はまず勝ち取れないポジションであり後者であれば英語ネイティブでもない現地事情も知らない日本人を雇う意味はない。大手銀行では1〜2名の日本人が働いてるがこれは主に日本からの移住者向けである。

 

だから採用の際に「私は日本語ができます」と言ってもあまり意味はなく、むしろ中国語が出来ますと言う方が有利であるくらいだ。自分に何の能力があるのか?なければ何を身につけるべきなのか、その点を最初に考えて就職から昇給まで含めてどのような資格を取るべきかを考える必要がある。

 

日本人が日本人であるというだけで有利なのはツアーガイドとか高級和食レストランである。昔ならこれにお土産屋さんがあったが今では日本人観光客は激減しておりDFSなども中国人店員ばかりである。

 

そしてツアーガイドやレストランの店員の場合若いうちの勉強であれば良いがどうしても給与が頭打ちであり他に金融収入などがない限り将来的にかなりきつい。

 

夢を持ってニュージーランドに来るのは良いが日本的な「就職すればどうにかなる」という発想は止めておいた方が良い。それよりも自分が「手に職を持つ」独立した個人事業主として会社と契約をする労働者として自分という商品を売るという発想でいた方が良い。

 

移住をして永住権を取得して数年生活して日本に帰る家族も多い。両親の介護の問題もあるがどちらかというといつまで経っても増えない給料と社会的地位が中の下に固定されてしまう閉塞感もあるのではないかと思う。

 

いずれにしても日本とは違い「就職」すること自体がけっこう大変であり就職したからと言って経済的に安定するわけではない事を理解して、少なくとも10年単位で経済的に自分の生活をどう構築するかを考えて欲しい。



tom_eastwind at 10:03│Comments(0)TrackBack(0) 諸行無常のビジネス日誌 

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