2012年12月01日

スナイパーバレー

土曜日の午後は久しぶりにゆっくりと自宅で映画を観る。平日は家族がいて観ることが出来ないような映画は、りょうまくんを子どもたちの遊び場に送って奥さんと娘が買い物にいってる間に観るしかない。

 

何せテーマは暗くて、1990年代のユーゴ紛争をテーマにしたコソボだとか1970年代のソビエトのアフガン侵攻とか、まだ彼らには理解しづらいつい最近の歴史だから、彼らから見れば単に「気持ち悪い」映画でしかない。

 

こういう分野の映画はニュージーランドで入手することが難しい。政治的テーマが強いので映画館もやらないしビデオショップでも置いていない。仕方ないので日本のamazonで買って東京に出張した時にまとめてホテルに送ってもらいオークランドに手荷物で持って帰って自宅でゆっくり観るしかない。

 

「スナイパーバレー」の舞台は1999年のコソボ。セルビア人兵士によってアルバニア人の父親を処刑され母親は地雷で吹き飛ばされた12歳の子供が銃を持ち、セルビア人女性看護婦ミリアナを狙撃しようとする。

 

銃弾は彼女の肩を撃ち抜き、さらに彼女を助けようとした国連平和維持軍から派遣されたドイツ軍兵士も撃たれる。彼ら二人を救おうとした仲間の兵士は命がけで狙撃者を追跡してその背中に軍用銃を向ける。振り向いた少年はまだたった12歳のあどけない子供だった。

 

次第にコソボ戦争の実態が明らかになっていく。一体誰が誰を殺したのか?それはなぜ?

「もう何を信じたらいいかわからない!」

ミリアナの悲痛な叫び。父親に裏切られて許せない気持ちの彼女は自分を狙撃した子供に会いに行くが、その子の父親が自分の父親の命令で殺されたことを知った彼女は、子供の家から持ちだした子供の人形を置いていくしかなかった。

 

ある晩、留置場の中で12歳の子供は自分が殺そうとした娘に届けられた人形を抱いて泣きじゃくる。セルビア人によって処刑された父親とその墓参りで地雷を踏んで殺された母親の姿を思い出し、そして家族で幸せに過ごしていた子供時代を思い出し、泣きじゃくる。一体誰がこの幸せな生活を永遠に崩壊させたのか?

 

ミリアナと12歳の子供は何度かの訪問のうちにお互いが抱えている問題を理解し始める。無駄な殺し合い、意味のない殺し合い、政治に振り回されてお互いに憎しみを持ちついには殺しあうが、実は一般市民は皆仲間なのだという事に気づく。

 

日本、韓国、中国、これもまた同じだ。民衆はいつも政治に振り回されるが政治を除けば実はお互いに非常に近い民族である。ぼくはニュージーランドに住んで白人と英語で生活をしてその性格や人柄の良さに毎日幸せに過ごせているが、彼らの感性とぼくの持つアジア人の感性は全く違う。

 

全く感性が違うのに仲良く出来るキーウィと日本人。ところが民族的に近いものを持つ東北アジアの中ではぼくらは常に政治に振り回されて尖閣諸島だの竹島など、政治家の煽動に踊らされて最後に武器を持たされるのは一般庶民であり、ぼくら一般庶民が被害者になり政治家はしらんふりである。

 

よく似たもの同士がちょっとした違いを理由に仲違いし、全然違う者同士がちょっとした共通点を理由に仲良くなり、世の中不思議なものだ。

 

舞台となったバルカン半島は第二次世界大戦でもドイツとセルビアが戦った場所であり双方ともに様々な言い分がある。けれど間違いないのは、戦争で死ぬのは一般庶民であり政治家や支配者たちは常に高みの見物をしているって事だ。

 

「ミリアナ、君を守りたいんだ」

ドイツから派遣された国際安全保障部隊の若い兵士、これが実にかっこいい。ドイツのテレビや映画界で活躍する若い俳優がしっかり演技を固めている。

 

任務で派遣されたコソボでセルビア系住民とアルバニア系住民を分離して平和を維持しようとするが、上から降りてくる命令は「観察しろ、しかし何もするな」である。結局殺されそうな民衆さえ救えないのに、なぜ国連軍が派遣されるのか?

 

セルビア軍はどこから武器を手に入れるのか?その金はどこから出てくるのか?一体誰が武器を作っているのか?そして彼らに対抗するのようにアルバニア人も武装するが、その武器はどこから手に入れて誰がカネを払うのか?

 

世界の矛盾が少しづつ暴露されながら筋書きは進んでいく。

 

「くたばれセルビア人!」何の罪もない一般大衆同士が政治に踊らされて殺しあう現実、セルビア半島でつい10年ほど前に起こった戦争を、ぼくらは忘れていいのか?

 

フィクションとは実際には起こらなかった事を筋書きにしているが、じつはフィクションでなければ描けない歴史の事実がある。様々な事実を一つづつ繋ぎあわせて一つの物語を作る。それによって初めて歴史が見えてくる。

 

最後の場面では恩讐の彼方の人々が何とか昔の平和だった時代を取り戻そうとする。こうなって欲しい、こうあるべきだ、そんな筋書きがそこには残されている。

 

ほんの一握りの、どこまで救いがあるかわからないけど、それでもまだ明日に少しだけでも期待出来る未来があるはずだ、ほんの少しだけど希望と未来があるはずだ、そういうエンディングで終わったこの映画だった。

 

ドイツの作品、非常に出来の良い秀作だった。おしむらくはドイツ語で日本語字幕しか無いためにりょうまくんにはまだ理解出来ない。他の何本かもそうなのだが、なぜかこのような秀作で日本語字幕だけってのは何でかなーと思う。

 

このDVDも来週から会社文庫に仲間入りである。移住会員の皆さんもよかったら御覧ください。

 

 



tom_eastwind at 16:58│Comments(0)TrackBack(0) 諸行無常のビジネス日誌 | 最近観た映画

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