2013年03月11日

きみの朝

思わず、不覚にも涙が出た。

 

東京で仕事を終わらせ羽田発真夜中過ぎのフライトでシンガポールに飛び、早朝の空港のカフェで甘ったるい紅茶と甘ったるいチーズトーストの朝食を取りながらネットを開いたら東北大震災の記事を眼にしてしまった。

 

ちゃんと構えて読めばよかったのだが、朝の少しぼやっとした頭で読んだものだからそのまんまに脳みそに話が飛び込んでしまい、空港のカフェでみっともなく涙を流すことになってしまった。

 

多くの日本人が一瞬の津波で命を失った。誰もが10分前には「さ、お茶でも飲もうか」とか「ちょっと早いけど子どもを迎えに行こうか」とか思ってただろう、海辺の漁師は一杯飲みながら明日の天気を笑いながら語ってただろう、そんな普通の人々の生活を一瞬の津波が飲み込んでいった。

 

このブログはシンガポールのカフェで書いている。たぶん周りの人は何故この男が涙を流しながらキーを叩いているからわからないだろう。それは仕方ない、ぼくがこの街の近くでその前に起こった地震に対してそこまで気持ちがこもらないのと同じだと思う。

 

ただ、やっぱり日本人として、地震の前に家族と一緒に旅行にも行ったあの場所が一瞬にして崩壊してしまったというのは、悲しいとか悔しいじゃなく、なんてか自然の災害なんだから誰も何も言うことはないけど、なんだか涙がこぼれてしまうのは、理性ではなく心の奥底から湧き出てくる感情の問題だ。だからどうしても涙が止まらないのだ。

 

何だかな、あの時に多くの人の肉体から離脱した魂のいくつかがぼくの体の中に入り込んだような感じ。僕自身は誰も知り合いのいない東北なのに今も涙が出るのは、その魂が泣いているような感じ。

 

けれど。起こった事をどうこう言っても仕方ない、どうやって復元するかではなく、どうやって新しい街を創るかが大事だってくらいの理性は働く。ぼくはクライストチャーチで2・22の地震が起こった時に「むしろその場所を捨てて新しい街を作ろう、都市機能を周囲の街に移転させるべきだ」と書いたらごうごうと非難を浴びた。

 

「ひとでなし!人の気持ちが分からない!」かなり罵られたが、それでも今もその気持は変わらない。東北では街を高台に移す作業が始まっているがなかなかボタンの掛け違えというかうまく回っていないようだ。

 

ぼくはひとでなしかもしれないが、人として生きていくには苦しくても捨てることが必要な時があると思っている。その覚悟を持って生きていく、それが人であると思っている。勿論世の中には絶対に捨てられないものもあるしそのためには死ぬ覚悟もある。

 

けれどそれは、ぼくにとっては少なくとも生まれ育った街ではない。人々は仕事を探して、生まれ育った街を出て都会に向かう。それでもふるさとは常に心のなかにある。

 

室生犀星の詩です。

 

ふるさとは遠きにありて思ふもの

そして悲しくうたふもの

よしや

うらぶれて異土の乞食となるとても

帰るところにあるまじや

ひとり都のゆふぐれに

ふるさとおもひ涙ぐむ

そのこころもて

遠きみやこにかへらばや

遠きみやこにかへらばや

[小景異情ーその二] より

 

明るい夏空のシンガポール、クラークキーのスターバックスには米系の人々が行列を作って巻き舌英語でコーヒーを注文している。まだ早い時間なのに気温が上がってくるのをじわじわと感じる。短パンにTシャツの人もいればアイロンのかかった白いドレスシャツに綺麗な紺のネクタイを合わせたビジネスマンもいる。

 

誰もが普通の生活をこのシンガポールの街で送っている。いつもと同じ今日がまた繰り返してくると思っている。けれどそれは真実ではない。毎日が実は新鮮な変化であり、誰もが変化をしながら生きているが誰にもいつかは死が訪れる、東北の地震で亡くなった人々のように。

 

ならば、いつか死ぬのであれば今日を充実して生きよう。

 

多くの人びとは常に変化を恐れて昨日と同じ明日が来ることを望むし人と同じ事をしていればいいと思うが、結局それがストレスになり楽しい毎日を送ることが出来なくなりいつもストレスを抱えて生きていくことになる、死ぬその日まで人生の愚痴をこぼしながら。

 

それってあんまり楽しくないよね。

 

今日は3・11。たくさんの人が亡くなった。そんな人達が生きたかったあともう一日を「今日も退屈だねー、やることねーよな」と努力もせずに無駄に一日を過ごす人々もいる。

 

どうせ生きるんなら、火の出るような一日を生きてみようよ。そう思ったシンガポールの朝だった。 



tom_eastwind at 16:13│Comments(0)TrackBack(0) 諸行無常のビジネス日誌 

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