2013年03月23日

ジョークの効用

たっぷりとした小切手帳を持つ上品そうな女性が銀行の支店窓口で「何で私の小切手が使えないのよ!」と銀行の窓口の若い女性行員に対して怒っていた。行員は呆れたように済まなそうにこう言った。「奥様、済みませんがいくら小切手帳があっても残高がなければ使えないのですよ」

 

小切手社会ではよく使われるジョークだ。日本では普通の人はあまり触れる機会のないジョークでもある。

 

いろんな事にアイデアの出る彼が今回はなかなかいいアイデアが思いつかない。そんな時彼が言った。

「よっしゃ思いついたぞ!次のアイデアだ」

すると相棒が聞いた。「さすがだぜ、で、今回はどんなアイデアだ?」

「神に頼むのさ」

 

これはぼくが思いついたジョークだ。日本にいればおかしくも何ともないジョークだが西洋社会では結構使える。

 

ディバイン・ガイダンス(divine guidance)  という英語がある。意味は「神の導き」だ。オークランドの真ん中にあるスカイシティカジノは隣が古い石造りの教会になっている。

 

スカイシティカジノは他のもっと良い場所でなく何故ここに作られたか?それはカネに目が眩んだ連中がまずこの教会に来ていくらか寄付をして神のお告げを聞いてカジノに向かう為だ。そして欲に眩んだ奴のお約束通りカジノですってんてんになった連中が懺悔をする時の告解室もあるからだ(笑)。

 

このジョークはオークランドからロトルアに向かう乗合観光バスの中でよく使われるジョークだ。これなら日本人は何となく笑えるがキリスト教信者であるアメリカやオーストラリアから来た白人たちは腹を抱えて笑う。

 

おかげでつかみに成功したその日のガイドは一日楽しく働けてロトルアの羊の毛刈りショーの後でお土産を買ってくれた陽気なアメリカ人の払ったお金のうちのいくらかが自分のポケットに入ってあんまり買い物をしないオーストラリア人はウールーなんとかって自分の住んでる田舎町に戻って自分がNZツアーを申し込んだ旅行会社のスタッフに「オークランドでは楽しいガイドが付いてくれてよかったよ」って一言いうだけでその言葉は旅行会社からオークランドのオプショナルツアー運営会社のオペレーターにメールされ、オペレーターはまたそのガイドを次のツアーに指名するって算段で、ちょっとしたジョークが幸せな輪を作ることになる。

 

事このように、白人と仕事をしているとその場に合った気の利いたジョークが飛ばせなければ「面白くない奴」と逆にネタにされる。

 

道を歩いて犬の糞を踏んでしまって「Shit!」と言ってる友達に「君の悲劇は僕の喜劇さ(Your  tragedy  is my Comedy)」くらいの事をさらっと言えば相手も犬の糞を道にこすりつけながら笑って「次はお前の番だよ!」くらいの事を言えるだろう。

 

随分長くなったが事このようにジョークはその場を和ませてくれるし相手の機転の利き方が分かるから知能テストにもなる。

 

木曜日は朝から4時間くらい弁護士事務所に詰めて3件の会議を続けて行った。1時間半で最初の一つ、次の30分で新規案件の打ち合わせ、残りの2時間で外部を入れた一番でかい案件だ。途中の休憩はなく水だけ飲みながら喋りっぱなしだった。

 

今回の担当弁護士はフィリピン系の親を持ちオークランド大学法学部を卒業しておりまだ若いがうちの案件を年に相当(去年だけで20件くらいかな)こなしてもらっているので場数を踏んでいる成長株の一人だ。

 

いかにもフィリピン系らしく底抜けに陽気な奴で、親も資産家なのだろう「のんびり顔」で結構ミッキーマウス顔で時間があればキックボクシングの練習をやっており(それもうちの仕事でかなり練習時間は削られているが・・・すまぬ“笑”)去年は国際試合でどっかの国にチームで出場してた。

 

最後の2時間の会議はこの会議のためにウェリントンから出張してきた二人の投資銀行家との会議。うちの会社が移住を手掛けており特に投資家ビザ申請において今年はうちが業界トップに立つと聞いて、弁護士事務所経由で連絡があり、ビザ取得のための商業用不動産の提案をしたいとの事で会うことになった。

 

この投資銀行はウェリントンベースでもう30年近くやってて、日本での位置づけだと三菱地所みたいなものかな、ニュージーランドで様々な案件を取り扱っている業界大手である。今回は投資銀行のダイレクター(取締役)二人が出張ってきて日本で言う匿名投資組合のスキームを提案される。

 

作りは日本のスキームとほぼ同様で最初にSPCを作りGPBoardManagerを任命してVehicleを作ってそいつを一台づつ走らせる。Vehicleに載せるのはすべてニュージーランド国内の商業不動産物件で年利ベンチマーケット6%と3年後のキャピタルゲインが20%以上見込める物件だ。(この辺り専門用語で申し訳ない、わからない人は別途ウィキペディアでお問い合わせ下さい、さっき50ドル寄付しましたので)

 

ニュージーランドはキャピタルゲイン課税がないので例えば投資家が投資家ビザでビザを取得してニュージーランドに居住を始めてこのSPCに投資をして得たキャピタルゲインはその時点でニュージーランド居住なので日本での納税の義務はない。つまり丸儲けである。

 

この案件は去年の後半から話が始まり弁護士を間に入れて随分やり取りをして少しづつスキームを固めていって、やっと今回の会議で初めてお互いに顔見せをしたという、普通のキーウィビジネスではあまり考えられない手法だ。

 

つまりお互いに初めての取引相手なのでいつでも逃げられるように弁護士を間にかませた状態でやり取りをしながらお互いの知識程度の確認、何を知ってて何を知らないからの探りだ。

 

こっちは北半球の不動産ファンド組成ビジネスを十分理解しているし南半球の不動産ビジネスがいかに遅れているかは熟知しているので、ウェリントンベースの連中がどこまでこのスキームを分かっているのかを知るのが今までのポイントだった。

 

実際に会って話をしてみると、彼らはウェリントンベースであるが実際には北半球、アメリカやイギリスなど金融中心地で15年とか20年とか働いてきた連中であり為替、商業用不動産、ファンド設立と運営など、見事なまでにプロだった。

 

こいつら、金ピカだな。まさにニュージーランドの政府と直結して常に法律の内側にいながら最高の情報とコネクションを使って、どこの物件にどの政府機関が何年のリースで契約するかを早い時期から把握してファインドを組成して見事なまでに法律の細部まで理解して決して一線を越さないぎりぎりのところで仕事をやっている。

 

いやー、それにしても細部と現場を知っているな、こいつら完璧に現場の殺し屋だな、そこに転がっている石ころ一個まで把握して狙撃をするような連中だ。この国でこれくらい精密な狙撃ができるやつって少ないぞ。

 

だから話している内容は相当に高度であり精密でありお互いに、ぼくは日本の法律を引っ張りだして問題点を提起して彼らはニュージーランドの法律を持ってきて問題点を提起して、お互いにどこが落とし所かをその場で判断して「よし、こいつはこうしよう、これならいける」と決定して次のステップに上がっていく。

 

正直、ここまで来るとミッキー・マウス弁護士はついてこれない。彼は法律は知っているが金融のプロではないので僕らの間で交わされている単語さえ(例えばFireWallとか)が何を意味するか正確に理解できないので聞き役に徹しているしかない。大丈夫、君は若いのだ、今はこうやって人の話を聞いて勉強しようぜ。

 

なのでお互いに自己紹介をした後の会話の90%はぼくとテーブルを挟んでぼくの正面に座った「ウォーキング・デッド」の主人公の警察官のような柔らかい笑顔の裏に殺し屋の眼を持つ二人だけで話しまくりになった。

 

お互いにピストルを構えながらそれぞれの責任の部分を押し付け合い利益の部分を取り合い・・・となるのが普通のこの手の会議だのだが、今回は彼らがかなり肩透かしを食らったようだ。自分が銃を構えて相手を見ると、相手の銃はホルスターの中で座っておりボタンさえ外しもしていない。

 

「こりゃ何だ、新手の詐欺か?」彼は最初はびっくりした顔をして本気でそう思っただろう、「うちはこのファンド設立自体で利益を取るつもりはない、そりゃ全部そっちで取ってくれ、うちは顧客のために働いて顧客から手数料を貰っている、もしうちが設立で利益を取れば、それは利益相反行為になるから出来ないんだよ」というと、「え?そんなんありか?・・・そりゃ理屈はそうだけどさ・・・」と、彼からすればクリスマスのびっくり箱を開けたら全然欲しくなかったおもちゃが入ってた小学生のような顔になった。

 

今回の会議で一番ぼくが笑えたのがこの点だ。やっぱりニュージーランドは英国圏ビジネスだ、契約は徹底的に重んじているが利益はできるだけ自分に吸い上げるって発想の彼らからすればぼくの東洋的な「信用を重んじて50年単位の長期取引をする」やり方は理解不能だったようだ。

 

彼らにすれば最初の契約の時点で出来るだけ沢山の利益が取れるように仕組む、ここが肝心であり、しかし一旦仕事が始まれば契約順守に徹するし、その結果契約上自分がマイナスになるとわかっても決して契約を放棄しない、その時は清く負けを認めて金を払う、または相手の取り分が多くなっても決して文句は言わない。

 

そうやって失敗したり成功したりしながら長い人間関係を作り、それが次のビジネスの時に「お、これならあいつを入れておこうぜ」って話になる。これが結局この国でのビジネスの真髄なんだなってわかる。結局最後は人脈だ。人脈構成の中で次第にバカは弾かれていき、それなりの階層が出来上がっていく。

 

木曜日の会議は思った以上に得るものが多かった。最初はお互いに軽いビジネスジャブを打ちながらその一つ一つで必ずポイントにジョークを噛ませて相手がどう反応するかを見て相手の瞬発力を計る。

 

そして話を決して違う方向に逸らさない。これ結構難しい。お互いに進む方向を理解していないと、話の途中で違う方向に船が進んでしまう。担当弁護士、最初の10分ですぐ彼の知ってる範囲内の話を持ってきて船を止めようとか違う方向に進めようとするから、ぼくも正面に座ってる投資銀行家も偶然ながらタッグを組んで柔らかく「おいバカ、ガキは黙っとけ」と命令した。

 

ぼくと彼は話を進めたい、弁護士がバカ事を話し始めた時点でお互いにその暗黙の理解が得られた。お、こいつは本気で船を進めようとしているぞって。

 

会議はそれからもずっと殆どぼくと対面の二人だけの話になり、細部まで詰めて投資案件の最終的なリスク、例えば地震とか火災とかをどうやって一次引受保険会社がカバー出来るかまで突っ込んで、ならばロイズを再保険としてかませる事で問題がクリアーして投資家ビザが取得出来て投資家が損をする事が絶対にないようなスキームに組成することが出来た。

 

利益の部分はどう確保するのか?テナントは入るのか?実はここが出来レースで、政府機関がいつどこに移転するとか組織の再編成がどうなるかってのはまさに内部情報だが、ウェリントンで二人のビジネスマンがどこのレストランで昼飯食ってたらあそこの組織がどこに行くかってのはすぐ分かる。

 

これをインサイダーと言うかもしれないが、何だかこの法律徹底順守の国でも、それは何となく違うのだ。この感覚を日本在住の日本人に説明するのは難しいが、なんてかな、内側に入って初めて分かることがたくさんあるのだ。

 

日本の常識は日本では常識だが世界では非常識のように、言葉では説明のしようがない部分であり、知りたければ住んで下さい、そしてどっぷりと内側の世界に入ってきてくださいとしか言いようがない。

 

法律よりも秩序、競争よりも協働、喧嘩よりも平和、そういう空気がこのニュージーランドに存在しており、それがニュージーランドの穏やかな空気を醸成しており、それでいながら必要があれば国連軍に参加して毎年3~4名の戦死者を出しても決して引かない姿勢を貫いている、この国はそういう国だ。

 

今日は土曜日の午後、日当たりの良いソファに座っているとついつい文章が長くなった。真っ青の空にふかふかとたっぷりに膨らんだ雲がプカプカと浮いている。

今日もこの国はなべてこともなし。さ、新しいジョークの一つでも勉強しようっと。



tom_eastwind at 17:21│Comments(0)TrackBack(0)諸行無常のビジネス日誌 

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