2014年01月15日

「鳥の目」

日経ビジネスが全面的に紙面刷新をした。ここまで変化出来るとは大したものだと思いつつ読んでたら大丸の元社長奥田氏の経営塾コーナーで「鳥の目」が指摘されていた。

 

鳥の目の意味は自分の業界の中からだけでモノを見るのではなく外側、国内業界を越えたもっと高い位置から自分の生まれ育った業界を見直すという意味である。

 

大丸という老舗企業がそのような視点を持つことはなく、だからこそ百貨店業界は歴史だけは古いがバブル崩壊以降売上は急減し後ろ向きの合併や右往左往の営業戦略でますます苦境に陥っている。

 

奥田氏の鳥の目とは大丸が元気だった頃に米国勤務と1991年からオーストラリア大丸社長として「買い取り式」のビジネス・モデルを経験しつつ業態の変化の早さを目のあたりにして、外国から日本の百貨店業界を見た時いかにそれが遅れているかを肌で感じたからだ。

 

1970年代のニューヨークは百貨店黄金時代で当時は30店近くもあった百貨店が一気に失墜し34店になった。それは消費者のライフスタイルの変化であり郊外型モールやカテゴリー・キラーに市場を奪われてしまった。

 

ところが百貨店は業界内だけで競争相手は目の前にある百貨店だけと思い込み根本的に足元からすべてが変化していることに気付かなかった。もしこの時に消費者さえ気づかない消費形態の変化を鳥の目で見つけることが出来たなら危機意識を持って自己変革をしただろう。

 

しかし鳥の目を持たず大企業で一生食っていけると思い込んだビジネスは結局目の前で起きているちょっとした現象から問題の本質を読み取ることが出来ずに失墜した。これは日本の様々な業界で発生している。例えば出版不況、要するに状況を読めず時代の変化を理解出来ないままにいつの間にか体力切れで市場から退場となっている。

 

街角の本屋はamazonに押されて次々と廃業しているが、市場が変化したのにいつまでも街の本屋をやってる事自体が「あんた、ほんとに本屋か?」と思ってしまう。

 

では鳥の目はどのように持てばよいのか?これは決して異業種交流など「おれ、凄いんだぜ!ほら、こうやってさ夜も勉強しているんだぞ!」的マスタベーションでは作れない。

 

別にほんとに空を飛べと言ってるわけではない。が、とにかく自分の業界に関係ない本を読むこと。どんな本でも良い、ひたすら自分の利害と関係ない本を読みこむ事。哲学、文学、歴史、文化、業界紙、とにかく読書をしてさまざまな分野を網羅することで次第に世の中の全体像が見えてくる。

 

逆に言えば全く読書経験のない人がいきなり孫氏を読んでも役に立たない。けど読まなくてもよいわけではなく、読める時に読める本を読んでおくことだ。それが孫氏ならそれでもよい、その時は何か分からなくても後日武田信玄の本なんかを読んだ時にストンと腹に落ちるから。

 

印象としてはパズルをやっている感じと思ってもらえば良い。最初はわけの分からんパズルのピースがあるがとりあえず端っこから少しづつ埋め込んでいるうちにいつの間にかなんかの形が見えてきて、段々パズルの要領が良くなり速度が上がりそのうち全部が出来上がる、それが世間だ。

 

もし紙の本が重たいと思うならキンドル買って読んでも良い。大事なのは装丁ではなく内容である文章だから紙であろうが電気であろうが媒体は何でも構わない。大事なのは「本を読むこと」なのだ。

 

最初は面倒くさいかもしれない。けれど1年も続ければ段々頭の中で世の中全体が見えてきて自分が世の中を鳥の目で見ていることに気づく。そうなると自分のいる業界が現在どのような状態か見えてくるしそれは歴史上の違う時代違う場所で同じような事が起こっていたのが分かる。

 

そうすれば今自分がどれほど危険な状態にいるか、状況を挽回するためにどのような方法が良いのかを歴史の先達が教えてくれる。何せ先達は過去のある時代に同じような状況に陥り様々な手段で状況を挽回しようとして成功も失敗も経験してきたから、今自分が取るべき道が見える。

 

もちろん本を読むだけでなく旅に出ることも非常に役立つ。まさに奥田氏のように海外に出て日本を振り返るという方法も非常に有効だ。

 

ただしこの場合の旅はいわゆる観光三昧ではなく「今自分が旅先のこの街で生活するとしたら?」とか「何故この人は今このような無意識な行動をしているのか?」とか「何故このホテルにはこのような備品があるのか?」とか「何故このトイレにはこんな設備があるのか?」などを考えてみることが大事だ。

 

あ、トイレと言えば羽田空港国際線のレストラン街のトイレを見てみると普通の日本の生活ではまず見かけないものがあることに気づくが、それを見て何も気づかなければそれは単なるお遊び旅行になる。

 

目の前に起こっている現象を何気なく無視していたら鳥の目は身につかない。鳥の目を持つ、それは本を読むことでも旅をすることでも十分に可能なのだ。大事なのは意識して自分をそのように変化させることだ。



tom_eastwind at 20:03│Comments(0)TrackBack(0) 諸行無常のビジネス日誌 

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