2014年02月02日

次世代を育てる 継承について

「成功した者が次世代を育てる。シリコンバレーの暗黙の了解」という記事を読んだ。んーむ、何か複雑な気持ちである。

 

というのも日本は1970年代あたりは企業の中で先輩が後輩を助け学ばせ時には叱り育ててきた。本人の能力よりもいかに周囲が支えて伸ばしてあげるかの方が成功の要素として大きかった。

 

僕自身の経験であるが、1970年代後半、先輩たちに「おい、今晩行くぞ!」と繁華街に連れられて飲みに行ってた。そんな時、先輩たちはぼくを頭数に入れずに先輩だけで割り勘にしたり誰かが今日払ったら次回はあいつがって暗黙の了解があった。

 

ある時ぼくは先輩に聴いた。「何でぼくにおごってくれるんですか?」すると先輩は「おれは先輩からおごられた。その時おれは先輩にお前と同じ質問をした。すると先輩は“おれがお前におごるのは、俺が先輩からおごられたからだ。お前は俺に払わんでいい、後輩におごれ”と答えたんだ」

 

先輩はそうやってぼくに酒の飲み方を教え、人脈を作る手伝いをしてくれた。

 

ぼくは今でも僕より年下の人間と飲む時は全額ぼくが払っている。それがぼくが先輩から教えられた文化だからだしその文化を良いものと思っているからだ。

 

先輩世代が後輩世代を助け、後輩がそのうち先輩になればまた後輩を助け、そうやって日本社会は継続的進化と強い組織を作っていった。

 

シリコンバレーでは社員食堂や社員用のスポーツ施設もある。これって日本も昔はあったよね。バブル崩壊後日本社会は激変したが、一番の変化はやはり功績主義になり先輩から後輩への文化の伝承がなくなり福利厚生が急激に縮小したことだろう。その結果として社員の結束は弱まり日本人が一番得意とする「すりあわせ」が出来なくなった。

 

そして西洋的な功績主義も結局は完璧には吸収出来ず(前提となる文化が違うから出来るわけがないのに)結局中途半端に「組織は崩壊したが何も生まれなかった」状態になってしまった。

 

何も過去を振り返って「あの頃よもう一度」と言ってるわけではない。ぼくは常に前を見て生きてる。しかし同時に歴史から学ぶものがあると考えている。

 

その意味で今の日本を見ていると1970年代の「良かった部分」を失い、その代わりに得たものが仲間意識の喪失では、あまりに寂しいではないか。

 

ましてや日本が捨て去った良き文化がシリコンバレーで復活してそれがあの街の原動力となっているとすれば、こんな皮肉はない。

 

うちの会社は元々は「3年働いたら辞めろ」が原則だった。この国の玄関口としてうちの会社に就職してワークビザを取得して3年働く間に自分の実力で人脈を作り永住権が取れたらとっとと地元企業に就職しろって言ってた。

 

それだと企業への忠誠心ややる気が出ないではないか?ましてや日本的なやり方ではない、そう思う人もいるだろう。だが僕が考えたのは当社だけの問題ではなくオークランドに日本人社会を作るって事だった。

 

だからうちの会社を卒業して地元社会に飛び込んで自分を鍛えて日本人の実力を地元に見せつける、そしてある日彼らを採用した地元企業の社長が「おい、お前が以前働いてた会社で働いてるって日本人がお得意先にいるぞ、知り合いか?」って言われるようにしたいと思った。

 

こんな事いう経営者も少ないだろうが結果的に元当社の社員というのがオークランドの様々な地元企業で働いてたり独立起業したりしながら、皆が横一列の繋がりを持ってぼくの全く預かり知らぬところで(笑)飲み会やったり情報交換やったり、時には就職の手伝いをしたり、ある意味大学の同窓生みたいな感覚で助け合いの組織になっている。

 

こういうのが僕の考えるオークランドにおける日本人社会の在り方だった。

 

それまでは誰もが誰もの足を引っ張り自分は努力をせずに他人をけなすかお互いの傷を舐め合うだけの日本人社会だったが、そうではなく仲間がそれぞれ努力をして成功した仲間がうまくいかない仲間を救う日本人同士の組織、そういうものが僕の目指す目標だった。

 

だからぼくのやってること会社で毎年利益を出してそれでどうこうと言うよりは、どちらかと言えば政治的な活動に近いと思う。日本人社会をオークランドに作り上げる。彼らは真面目で勤勉で嘘をつかず仲間を大事にする、そして地元社会に溶け込み地元社会の為に努力する、そういうのが僕の考える組織だ。その為の踏み台が僕の会社だ。

 

その意味でぼくはまだ成功者ではないが、それでも少なくとも自分のやりたい道を進んでいる。それは時代を継承するってことだし、それがぼくが若い頃に先輩から教えられた事だからだ。

 

オークランドがシリコンバレーのように発展することはないだろうが、少なくともこの街に住む日本人の仲間は手を組んで助け合える、そんな日本人社会を作りたいと思う。



tom_eastwind at 16:56│Comments(0)TrackBack(0) 諸行無常のビジネス日誌 

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