2014年07月19日

「悪魔の選択」フレデリック・フォーサイス

この作者は僕が好きな英国作家の一人で、英国流に翻訳された日本語の文体に高校生の頃すっかりはまってた時期がある。

 

同時期に活躍してたアリステア・マクリーンやジョン・ル・カレなどの英国作家も重畳で長ったらしくて一つの文章を最後まで読んでも結局YESと言ってるのかNOと言ってるのか全く分からない言い回しに「読み込み」の技術を学ばせてもらったものだ。

 

その時は思いもよらなかったが、それが今では実際に元英国植民地、現在もエリザベス女王をてっぺんに置いてるニュージーランドでビジネスをして、まさにYESNOか良く分からんような話しかせんような連中相手に今度は原語で仕事をしているのだから人生って分からんものだ(苦笑)。

 

とくに当社が入居しているビルのオーナーなどは典型的英国系高級階層に所属するため、いつも薄く笑顔を浮かべて落ち着いてゆっくりと、何時話し始めたかもいつ本題に入ってどれが落ちかも分からず何となくいつの間にか話が終わって、結局今のは何だったんだろう?って事がよくある。

 

ちなみにアリステア・マクリーンの作品はどれも素晴らしいが一番好きなのと聴かれれはやはり「女王陛下のユリシーズ」だろう。原文ではH.M.S. Ulyssesである。彼女に仕える船, Her Majestic Ship の略だ。

 

こういうHMSを知ってるなんてのは何の金になるわけでもないが知ってると知らないのではオークランド港に到着した船を観た時の会話を豊かにさせてくれるのは事実で「あ、あの船は英国から来たんだね」と話が出来る。このビルのオーナーと会話する時にそういうネタをちょっと振るとオーナーさんいつもびっくりしてこっちの顔を覗き込み「この東洋の猿はこんな事まで知ってるのか?」てな顔になる(苦笑)。

 

ジョン・ル・カレだとやっぱりスマイリー三部作である。特に秀逸なのが、台風の香港で紳士やマスコミやハゲタカ連中がぐちゃぐちゃとどっかのクラブで(キャバクラじゃないよ、男しかいない英国風の会員制クラブ、ゲイバーじゃないよ)バーのカウンターの壁に格子状に並んでボトルを置く場所に糊の効いた堅い食事用のナプキンを投げ込む場面から始まる作品だ。

 

「政治が抱けるか?政治が食えるか?」僕はこの言葉が大好きだ。政治とかそんな虚構の世界に身を置いて仲間意識で固まって、、、おい、一人で生きるだけの根性あるんかって聴きたい。

 

フレデリック・フォーサイスの「悪魔の選択」はAmazonでもオークション価格で随分と高かったが、1980年代初頭冷戦時代の西欧、ロシア(当時のソ連)及びウクライナの状況を理解するために買った。

 

結果はOK,この一冊で大学の授業並みの知識が身に付いた。ウクライナって国が欧州2000年の歴史でどのような位置づけにあったか、冷戦時代の位置づけ、そして今日なぜ西欧とロシアの狭間で苦しんでいるか。

 

ウクライナに生まれなくてよかった、あそこで生まれてたら、おれは間違いなく最高のテロリストになってたな、殺す相手はソ連側でも西欧側でも良い、ウクライナの自由を保障しないすべての国の指導者を皆殺しにしてやるぞ、そう感じさせる「悪魔の選択」だった。

 

フレデリック・フォーサイスは元々がジャーナリストであるだけに徹底した事実関係の洗い出しと全体を観る能力に優れており事実を基礎としたサスペンスを書くがそれはいつでも起こりえる一つの仮想現実でもある。

 

そんな本を読んでる最中にウクライナ上空でマレーシア航空が撃ち落とされた。何かなー、30年前と何も変わってないじゃん、そのままじゃんって感じの一冊でした。



tom_eastwind at 13:54│Comments(0)TrackBack(0) 諸行無常のビジネス日誌 

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