2015年02月22日

仕事ありますか?能力ありますか?

昼下がり、蝉の鳴き声が心地よく耳に入り思わずiPhoneで流してた音楽を消して自然の音楽を楽しむ。Aucklandの青空には薄い雲が流れてほんといいとこだなって思う。

 

この街の良い点は自然だけではない。ここに住む人々が他人に優しいという点もある。これはこの街に住み始めれば誰もが感じることだ。誰もが平等であり他人に親切だ。その理由も合理的に説明出来るが書くと長くなるので後日にするとして、実際にあった話を一つ。

 

今から約10年くらい前になるかな、僕の友人夫婦が鉄板居酒屋を経営していた。夫婦ともに元気でお昼になると店の前にお弁当を積んで売ってた。ある時そこにいかにも浮浪者といういでたちの中年男性がやって来て弁当を一つ手に持つとそのまま去ろうとした。

 

そこで奥さん、いきなり店から飛び出て「何やっとんじゃ!カネ払わんかい!」と英語でまくしたてた。すると偶然通りかかったYシャツ姿のビジネスマンが間に入り彼女に「ごめん、彼は僕の知り合いなんだ、けど今持ち合わせがないから僕が代わりに払う。それで良いね?」と聴いてきた。

 

もちろんそんなのその場の嘘であることなんてだれでも分る。けど彼女は黙ってお金を受け取り、浮浪者は弁当を手にその場を去り、ビジネスマンは何事もなかったように通り過ぎていった。

 

今のように浮浪者が増えたクイーンストリートではもうこういう場面を見かける事も少なくなったがそれでもキーウィの性根は、代償を求めない優しさにある。

 

そして今日の本題に入ると、キーウィは優しいだけでなく質実剛健である。手に汗をかいて労働してそこで得た対価で家族のための食事を用意する。

 

例えばAucklandのビジネスマンが冬の休暇でスキーを楽しむためにクイーンズタウン空港に降り立ち客待ちタクシーに乗り込むと運転手はいつもの明るい会話を始めたとする。

運転手「ハイ!どこからきたんだい?」

客「Aucklandからだよ」

そういうと運転手はルームミラーで客の色白な顔を見ながら

「あ、そうかい」と言ったまま黙ってる。

 

タクシーの運転手からすればAucklandで働いてる色白の連中なんてのはどうせ弁護士や会計士やバンカーやファンドマネージャー、要するに手に汗流さずボロ儲けしている「悪い奴ら」なのだ。

 

じゃあ標準的キーウィからすればどういう仕事がキーウィらしいか?やはり一番は農家だろう。広い牧場で羊や牛を放牧したり見渡すかぎりの農場でキーウィやりんごやレタスとかほうれん草作ったりとかである。

 

それ以外にもまずは大工が格好良い。ピックアップバンに自分の道具を積んで携帯電話一つで街中を駆け巡ってる、腕の良し悪しは別にして(笑)他にも一般的にブルーカラーと呼ばれる手に職モノ作りをする人の方が強い発言権を持っているってのは僕の個人的感想だ。

 

この事をキーウィ弁護士に指摘すると彼らもそれまでの饒舌を止めてちょっと戸惑ったように、「ん、んー」となるのが面白い。キーウィ社会は年収ではなく社会への貢献度なんだって事が弁護士にも分かってて自分がやってることが手に職系に比較すると「ちょっと、どーかな?」と分かっているのだ(笑)。

 

但しこれはあくまでも僕が外国人として25年間キーウィ社会を見てきた個人的感想なので当然違う意見もあるだろうから異論のある方はどうぞご自分のブログで反論を書いて下さい(苦笑)。

 

さて15年ほど前に書いた「仕事ありますか?能力ありますか?」という記事がある。内容はAucklandにやって来たワーキングホリデイビザ保持者が昼間のオフィス仕事を探すのだがなかなか見つからない。そこで仕方なく日本食レストランで働くのだが彼らの愚痴は「Aucklandには仕事がない」と言う。おいおいちょっと待ってくれ、仕事がないのではなく君に能力がないのだって現実を何故認めようとしないのか?

 

一体君にどんな能力があるのだ?英語は出来ない、日本で普通に大学文学部あたりを卒業して(仏文?)普通の会社にサラリーマンとして就職した君に一体どんな特技があるのだい?

 

日本で生活をしている中では自分が大きな歯車の中の一部品であるって事に気づかずに就職したらそれで終わり、後は会社の言われることだけやって家に帰ったらテレビ見て寝るだけの君に一体どんな専門性があるのだい?

 

会計士の資格は?弁護士の資格は?じゃあ調理師免許?建築設計士?システムエンジニア?大工?何もない。結局君には何の、世の中で一人で生きていくための資格がないことが分る。

 

ニュージーランドの技能移民の問い合わせを受けると僕が真っ先に話すのが「手に職」である。この国では専門性を持った仕事なら需要はある。ところが日本で生まれ育った人々は社会や企業の歯車として全く専門性がなく社会に直接貢献しないホワイトカラー仕事が立派と思ってそんなところに就職する。

 

しかし日本社会の矛盾に気づきいざ海外に出ようと思うといきなり自分が無価値だという現実に気付かされる。そして言う、「仕事がない、悪いのは俺じゃない」と。

 

仕事はある。「仕事ありますか?能力ありますか?」これから求められる人材はブルーカラーである。手に汗して働く人々が正当な評価をされる時代が来る。

 

ホワイトカラーなんてのは組織の中でしか通用しない置き換えの出来ない業務であり世間一般では立派と思われているが、組織がでかいから自分を組織そのものと勘違いして威張ってるだけだ。

 

もしニュージーランドに移住を考えているならこの国で必要とされる職種に転職して日本で5年ほど働いて専門性を身に付けてそれから移住を考えるべきだろう。現時点での僕のお勧めは日本食シェフと大工、それも個人住宅を主に取り扱える大工だがその気になれば農業だって十分に見込みはある。

 

とにかく自分に労働者としての価値を付加する事。昼間がサラリーマンで忙しいなら夜勉強する、そして自分を鍛えて磨いていく。それが一人で生きていくって事だ。



tom_eastwind at 17:24│Comments(0)TrackBack(0) 諸行無常のビジネス日誌 

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