2015年12月23日

人吉で生まれた女

インバウンドという言葉は今年大流行である。日本もやっとここまで来たか感もある。

 

何故なら僕自身が旅行業でインバウンドやってた1990年代に「旅行業です」というと「安い航空券ありますか?」であり、ましてや「いえ、インバウンドなんです」というと多くの人にきょとんとされたものだ。

 

それほどにインバウンドという呼び方は業界用語であり続けた。

 

ところがここ数年の円安で中国から多くの観光客がやって来るようになり更に台湾や香港からはリピーターも増えて日本の田舎を旅するようになった。そこでインバウンドという言葉が一気に広まった。

 

日本で生まれ育った僕らからすれば何でもない山と谷と高原が観光資源になっているのだ。

 

九州の由布院は今でこそ国内海外観光客に大人気であるが、1970年代はまさに「何もない田舎の高原」であり「別府から1時間かけて何しにいくの?」であった。

 

それを由布院の旅館の社長が同じ景色を違う角度で捉えて「何もない良さ」を日本中に売りに出したらこれが当たった。

 

福岡の人に言うとびっくりするだろうが、現在の香港の観光客の人気スポットの1つが「門司港」である。ここの回転寿司が安くて旨いと評判になりガイドブックにも掲載されSNSで情報発信されている。

 

インバウンドの仕事をする時はとにかく自分の常識を捨てる事である。

 

東北の冬場の地吹雪など本当に「人が死ぬ」恐怖の自然現象だったが逆にこれを活かして雪を見たことがないアジア人観光客に地吹雪を(勿論安全な状態で)体験させるツアーもある。これなど原価率ゼロでっせ(笑)。

 

他にも九州はアジアからの観光客が多くJRを利用したツアーが盛んだ。JR九州は元々は赤字路線ばかりで国鉄時代はお荷物路線であった。それが民営化されて鉄道を利用した様々なビジネスを展開して成功している。

 

鉄道では「ななつ星」で全国に名前を売り(実はこれ自体は大して儲からない)熊本からはSLひとよしから始まり観光列車を走らせている。

 

そしてここに着目したのが人吉温泉の温泉観光協会である。

 

元々人吉は「大いなる田舎」の九州の中でも更に田舎であり九州の中心地の山奥にある。福岡から人吉に行くとなると「何しに?」と言われるほどだった。

 

平家の落人伝説で有名な五家荘も近くにある山里だが、人々は人情味がありおもてなしの心と豊かな自然を持っていた。

 

僕は1980年代に仕事で数回訪問したが仕事が終わると福岡に戻る終電はなく近くの旅館に泊まるしかない。

 

全く見知らぬ街(村?)の夜の道路は暗く、イノシシが何時出てきてもおかしくない。旅館で夕食を食べたらとっとと和室の布団にくるまって寝るだけであった。

 

それが今では外国人観光客をもてなす仕組みが出来上がっている。

 

SLで人吉を訪れた外国の人々に人吉の自然を利用したラフティングなどの川下り、夜は球磨焼酎に地元の新鮮な食材を使った料理で楽しんでもらい、何もない田舎を楽しんでもらう趣向である。

 

実はこの発想、日経ビジネスによると県外出身者の若女将が考えたとのこと。福岡県出身で海外留学を経験してホテル勤務をしてた時にこの旅館「清流山水花あゆの里」の若女将に就任、観光協会でもインバウンド担当を務める。視点を変えるという事だろうと思う。

 

日本では長い間プロとして外国人をお出迎えしておもてなしをするという発想がなかった。日本交通公社(現在のJTB)は政府系機関として外国人受け入れを担当していた時期がある。

 

外国から日本に来るインバウンドは市場も小さく要望は細かく一般的な旅行会社が請け負うには無理があった。

 

例えば破天荒ローリングストーンズがやって来たら変更だらけのホテルや食事や移動の手配を旅行会社が出来るか?ウィーン・フィルハーモニーならまだましだが今度は予算がないから儲からない。楽器の輸送や通関の知識も必要となる。

 

また1980年代は国内旅行需要が分厚くてそれだけで十分に食っていけた。

 

けど時代は変わり海外から日本にツアーが来るようになった。

 

円安が何時まで続くかは不明であるがいまのうちに日本の良さを知ってもらい田舎を旅して日本がいかに「平和を愛する国家」であり「他人と喧嘩しない人々」であることを理解してもらい自分たちの国に帰った時に「日本は戦争好きな国じゃないよ」と言ってもらえばこれこそ観光大使である。

 

人吉で生まれた人々や人吉に移り住んだ人々は地域活性化に向けて一生懸命である。彼らは数百年と続く家族の歴史を持っている。自分たちの街は自分たちで守る、その気持ちを持っているからインバウンドを取り込みにかかっているのだ。

 

人吉で生まれた女が人吉を守り子供たちに継承していく。・・・この街では僕の仕事は不要ですね(笑)。けど、是非とも頑張って欲しい。

 



tom_eastwind at 16:05│Comments(0)TrackBack(0) 諸行無常のビジネス日誌 

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