2016年04月14日

利と理

もう10年以上前の話だがAuckland在住のある日本人ビジネスマンから「そんなに働いてどうするの?そんなに自分だけ稼ぎたいの?」と言われて本当にびっくりした事がある。

 

なるほど、この人のアタマの中では働くことってのは自分だけの金儲けでしかないのだなー、この人自称ビジネスマンと言ってるけど僕の考えるビジネスマンじゃないなと分かった。

 

ビジネスには利と理がある。会社の存在とは社会に有益なサービスを提供することであり社会的に不要になったビジネスは印刷の植字工(文選)のように消え去るのみである。

 

しかし社会は人々にとって生活しやすい場所であるべきだ。その為に社会に必要な新しいサービスを提供する会社が出来てサービス提供を行い、同時にその会社は雇用と納税を通じて社会を潤す事にも繋がる。

 

ぼくの考えるビジネスモデルはそれ自体が理を持ち消費者へのサービス、雇用、納税と、参加する全員がそれぞれ利益を得られる事だ。理があるなら、社会に必要であればリスクを取ってでも参入する。だから仕事をしてても全然疲れない。

 

もちろんビジネスである限り「社会に必要だから最初から赤字でやれ」というのはあり得ない。社会に必要とされててもそこに利益が出なければ社員に十分な給料を払いビジネスを継続することが出来ないからだ。

 

ビジネスが継続出来なければそのサービスは終了となり人々は困ることになる。だから適正価格というのが出てきて参加者全員が納得出来る価格構成になる。

 

そして同時に大事なのはそのサービスに理があるかという点である。理とは物事の道筋とか道理である。簡単に言えば自分の子供に言えるようなビジネスか?である。

 

例えば僕が16年前から続けているビジネスの一つに医療通訳サービスがある。当時日本から来た旅行客が現地で病気になるけど英語ができない。添乗員もガイドもある程度英語が出来ても医療通訳は全く違う。

 

仕方なく現地の病院が雇った通訳は礼儀も知らず態度も悪く客は不愉快になる。通訳はまるで病気になったお前が悪い、こんな簡単な英語もできないお前が悪いという態度でそのくせ通訳は当時で1時間300ドルの通訳費用をもらっていたのだ。

 

そして病院によっては保険があってもその場で現金で払えという事が普通だった。日本の訳の分からん名前の保険会社の手紙より目の前の患者からもらった方が早い。現金の持ち合わせがない日本人は苦労したものだ。

 

当時旅行業であった僕はその状況を見て日本人にとって何か出来ないかを考えてお客様が日本で加入する旅行傷害保険の内容を読み込んでみた。

 

旅行傷害保険は旅先での医療をフルカバーしてくれる。その中には「現地で行われる通訳行為やその他付随する行為」が入っていた。それから旅先で支払い不要なサービスもある。これなら対応出来る。

 

しかしこれには日本の保険会社と契約をする必要がある。これがまず大変である。頭の固い日本の保険会社にどう説明するのか?高い壁だ。また同時に医療を分かる日本人スタッフが必要となる。

 

そこで僕はまずシドニーの日系大手損害保険会社に行きAucklandの医療事情を説明した。そして彼らが今までしかたなく使っていた費用の高いアジャスター(中継会社、通訳もここに入る)を使わずに直接当社とやり取り出来るメリットを説明した。

 

最初は「どうなの?」という顔をしてた彼らも僕が何度か訪問しているうちに理解して契約してくれて当社がAucklandのキーメド病院内に医療通訳オフィスを構えて日本の看護婦免許を持つスタッフを配置してプロのサービスを開始した。

 

そりゃそうだ、日本では毎日患者さんと接していたのだから相手の言いたいことが分かるし、ましてや「病気になったあんたが悪い、英語が出来ないあんたが悪い」という発想など絶対に出てこない。

 

すると他の保険会社もその話を聴いて次第に当社を利用してくれることになり結果的に日本の保険会社すべてと提携出来て現在の無料医療サービスが提供出来るようになった。

 

16年経った今でも「すべて日本語で日本人看護婦が通訳をしてくれるサービス」として利用されており年間約900人が利用してくれている。

 

そして何より良かったのはこのビジネスを通じて16年間のあいだ当社でメディケアスタッフとして働いてもらった日本人スタッフ達の雇用を生み縁のある人は永住権を取得してもらい、NZ政府には16年間きちんと納税をしていることだ。

 

ビジネスには利と理が必要である。利益も大事だけど理がなければそのビジネスは長続きしない。やってる人はいずれ疲れて退場する。実際そういう人々を多く見てきた。

 

参加した皆が利益を得ることが出来てそれが理にかなっていればお互いの長い信頼に繋がるし社会の成長があると思う。



tom_eastwind at 10:29│Comments(0)TrackBack(0) 諸行無常のビジネス日誌 

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