2016年05月20日
当確師 真山仁
久しぶりに読む真山作品。今度は選挙だ。主人公が3人いるような小説である。
選挙コンサルタントの聖と地元資産家の息子で優秀な大学を卒業してNPO法人「なかまネット」を運営している選。そしてもう一人が黒松幸子、社会活動家でNPO「MUTEKI」を運営している。1歳の時に病で聴力を失う。
彼らの戦う相手は鏑木次郎現職市長。けど面白いことに本が進むに連れ真山仁が主人公たちに語らせる言葉がいつの間にか理想にしか聞こえなくなる。そして鏑木次郎市長、やることやってるという感じでありそれほど悪人ではなく思える。政治家としてはしっかりやっていると思う。
最初はクールに出てきた聖、流され派の選、そして黒松幸子、次第に鏑木市長の行政に対して反発に出て最後は市長選挙になる。そこからの票の読み合い、相手の切り崩しなど読んでて実に面白い。
ただ後半少し筆致が変化しているのは本人が書きながら政治とは何かを考えてためらっていたのか?
文中で出てくる「共同体主義の限界」という言葉が面白い。
米国において資本主義は暴走する。それは個人主義だからだ。だから共同体主義で歯止めをかけねばならない。何もせずに放置すると資本主義は世界中で暴走する。
日本があまり暴走しないのは渋沢栄一以来会社の位置付けが米国と違い利益重視よりも利害関係者全体の利益配分にあるからだ。
みんな幸せ、思いやり。この二つの言葉がおそらく今の日本でもまだ生きているのだろう。「政治家が最も大切にすべきは良心と共通善だ」そうであって欲しいがそうでないのが現実だ。
やはり政治家は強くなくては生きてはいけない、そして優しくなくては生きる資格はない。