2017年02月24日

住むには良いけど仕事には?

経産省が2016年に日本に住む海外からの留学生約850名を対象に意識調査を行ったところ、日本で住むのはとても良いのだけど仕事をするとなると微妙という意見が多く実際に日本で就職する人は限られている。

 

それは就労ビザの取得の難しさや業務の内容の割には給料が低い(年功序列式)とかが原因であったり、やはり日本でつきまとう残業の多さなどが「働く環境」を重視する人々からすれば敬遠の理由にもなるのだろう。

https://news.careerconnection.jp/?p=20741

 

この、日本が働きにくいという留学生の認識は今の僕は理解出来る。けれど僕が20歳代の頃に日本に住んでてそんな話を聴いても「え?嫌?だったら母国に帰れば?会社に忠誠を誓い夜遅くまで残業して帰りは仲間と焼き鳥で一杯飲んで同士を確認するのが日本だぜ」で終わりである。

 

当時は残業なんて当然、むしろ若い社員は仕事を教えてもらい覚える時期であり給料貰って勉強しているのに残業手当とか個人の生活なんていうのは一切話にならなかった。

 

ある会社の営業チーム等は中堅どころの営業マンが上司にお伺いを立てた。

「済みません、明日の午後から休ませて下さい、こればかりはどうしようもないようです」

「ほう、そんな大事なのか、で、それは何だね?」

「はい、結婚式なんです」

「結婚式〜!それごときで休むのか!」

「いや、それが私の結婚式なんです、終わったらすぐ職場に戻りますから」

 

当時は年功序列で永久就職、転職や労働者の市場価値など誰も考えてなかった。皆が与えられた職場で会社の為に尽くすのだから家族は二の次であった。

 

その代わり会社では家族も含めた運動会や慰安旅行やパーティを開催してその時ばかりは「いやー、奥様のご苦労はよくわかります、その結果としてxx君は一生懸命働き今年も素晴らしい実績を残しました、これも奥様の内助の功があったからこそです、来年もよろしくお願いします!」と、家族を巻き込んだ会社社会が構築されていたのだ。

 

それは一旦就職すれば定年まで同じ会社で働くことが前提であり若い世代は費用対効果の合わない仕事でも将来は自分が見返りを受け取ることを知っていたから我慢もできたし理屈も理解出来たから喜んで働いていた。

 

しかしバブル崩壊後にサラリーマン社会は激変した。終身雇用制が崩壊して年功序列もなくなり成功度合いによって毎年の給料が決まる社会になった。

 

それでも大手企業等では今も「ムラ社会」が残っておりムラの中でのみ通用する常識(世間で言う非常識)と排他的な仲間意識が残っておりそれが社員採用の際にも明確に現れている。

 

世界標準で採用するなら今目の前にいる学生にいくらの労働価値があるかで判断すべきなのに「若いから下働き」とか「給料は年齢と共に上がる」とか外人から観れば意味不明の条件を押し付けてくる。

 

つまり日本にとっての労働者とは会社と言う組織の歯車であり一人ひとりの生産性ではなく全体の合和によって得られる総利益を優先しており、だからこそ一人あたりの労働生産性やその生産性による賃金決定と言う発想は出てこない。

 

僕がこういう理屈をある程度理解出来るようになったのも自分が外国で一労働者として働き生活しつつNZでも日本でも生活の中心にあるのは家族でありどんなに忙しくてもワークライフバランスを取りながら仕事をする姿を観て自分で実感してからの事だった。

 

特に香港人なんて労働虫くらいに思われて夜中まで働いていると思われているが実際は家庭第一奥さん大好きである。お正月は家族と一緒に親戚回りして一族の団結を確認してお互いに無条件に助け合う。学校の友達も大事で全員が社会に巣立った後でも友達同士が狭い香港で情報交換しながら成長していく。

 

そこに「会社」はない。誰かが作った会社は誰かの為にあり自分の為ではなく従って会社とは常に一定の距離を持ち常に自分の家族を生活の中心に置く。

 

社会全体と個人の家族の間に中間組織のような疑似社会である「会社」は存在しない。

 

会社もそんな事分かっているから労働者はその労働力や労働価値によって採用するし優秀なら給料もたくさん払う。しかしそれは「今の君」に払うわけで「これからの君に期待して」前払いをすることはあり得ない。

 

ニュージーランドで生活をしていると特に家族一番と言うのはひしひしと感じる。生活の中心に家族があり仕事は二の次なのである。

 

会社を退職する時だって会社の仲間は「おお、またね。次、どこかで会おうね!」であり日本のような「う、裏切り者—!」なんて感覚はない。

 

バブル崩壊後に社会に出た若者は会社に対する帰属心も薄いだろうけど昭和を経験した今の会社幹部等はまだ頭の中は「24時間働けますか?リゲイン!」である。

 

だから会社組織の仕組みも大きい企業になればなるほど変化していない。

 

日本で勉強する留学生も居酒屋でアルバイトしながら大企業の偉いさんたちが愚痴っているのを観て不思議に思うだろうな、自分たちの生まれた国とは全く違う疑似社会的な中間組織のある国だから。

 

日本は世界の中でも治安の良い国であり生活はしやすく物は安くてサービスは良い。だから住みたいと言う気持ちが出てくるのは当然だろうが、働く国と言う視点から観れば入社してすぐに能力に応じた給料が貰える米国のIT企業などの方がやはりずっと魅力的に観えるのも仕方がない事実だろう。



tom_eastwind at 18:26│Comments(0)TrackBack(0) 諸行無常のビジネス日誌 

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