2017年04月14日

瀬島龍三とトム・ウエイツ

山崎豊子原作の「不毛地帯」をフジテレビがテレビ化したのが2009年。うちの会社でDVDは買ってたが観るのは先週が初めてだった。日本出張前に全部観ておこうと思い週末金曜の夜から日曜の夜まで一気に見終わった。

 

良いドラマだと思ってたが観る機会がなく今日になったが、何が一番びっくりしたかと言えば各回の最後に流れる野太く乱暴な声の歌だった。

 

番組自体は唐沢寿明が主演しており顔は軽いが演技が重くて好感を持てる。何より周りを固める俳優たちが実に良い。フジテレビ、あの頃は強かったよなー。

 

瀬島龍三がモデルとなっているが実際には色んな人々の話が混じっていて、戦争を挟んだ時代に生きた人々と戦後の人々、戦後起こった様々な事件が表裏一体となって様々な事件を作り上げ戦後の歴史を書き上げていく。

 

これだけたくさんの社会的政治的事件を書こうとすると事実だけを列記することは可能でも時代の内側の人々の気持ち、苦しみや悩みを時系列で書こうとするとどうしてもフィクションにするのが一番良い。

 

そこでフィクションに一番近いノンフィクションの瀬島龍三を持ってきたのはさすが山崎豊子である。

 

冒頭のシベリア抑留の悲劇とその裏にあったかもしれない国同士の駆け引き、この場面は実によく書かれており見応えがある。

 

そこから復員軍人として日本に戻り瀬島龍三は参謀の鋭敏な知識と能力を発揮して商社で内部に反感を買いながらも自分の信じる日本復興に力を注ぐ。

 

当時敗戦を体験した元軍人にはなんとも言えない鬱積した気持ちがあった。戦争中は軍隊と天皇を信じて戦い戦後は敗戦の責任の一端を感じながらも異常だった軍隊組織への反感を抱え愚痴をこぼせるのは海外の激戦地を生き残った仲間たちと開く戦友会の場だけであった。

 

しかし同時に戦前の教育を受けながらも戦後の日本を罪滅ぼしの為にも何とか良くしようとした元軍人も居た。瀬島龍三はその一人である。どれだけ毀誉褒貶があろうと彼だからこそ出来た戦後の復興がある。

 

商社、メーカー、政府、それぞれ立場は違って自己の昇進のみを考える人々や男同士の嫉妬と言う実に馬鹿げた事に血道を上げる人々も現れる。

 

この作品は何度も映画化されているしこのテレビ番組も実によく出来てた。日本の戦後を理解する上で一度は読むべき観るべき作品である。

 

ただ、番組の最後に聴こえてきた声、僕は正直ここに一番びっくりした。

 

この声、知ってる。日本に住んでた時、昔聴いてた声だ。

 

あ、この声・・・何よりもその声は物悲しく地底を引きずるような吠え声であり、、、あ、トム・ウェイツだ!

 

「トム・トラバーツ・ブルース」

 

1976年の作品であるが、まさに僕はこの頃だみ声のトム・ウエイツを暗くした場所で聴いていたものだ。

 

彼の作品はどれも暗くブルースでありそれ以外歌えない。当時のレコードでもあまりに極端過ぎてレイチャールズよりも憂歌団よりもブルースだしトム・ウェイツ独特の世界を作り上げていた。

 

それから僕は日本を離れてトム・ウエイツを聴く機会がなかった。何せ80年代当時のニュージーランドは明るい歌や音の大きな歌が主流であり米国の売れない泥臭い歌手の歌などかける店もなかった。

 

香港に住んでた頃もあそこは当時英国植民地だったので表はビートルズ、裏はエリック・クラプトンやローリング・ストーンズであったから地元の英国パブで米国の歌がかかることはあまりなかった。

 

オークランドに移住した時はまだyoutubeは存在せずGoogleもなかったし街中のレコード屋は売れない米国のCDは置いてなかった。

 

それに僕も毎日忙しくてトム・ウエイツの事はすっかり忘れていた。実は同時に僕は80年代後半から90年代の日本の流行った歌を殆ど知らない。

 

YoutubeなしにNZに生きるという事は相当の意識がない限り時代から取り残されるのは間違いない。

 

だもんで最近は一人でいる時はyoutubeを流しっぱなしにして「失われた時」を少しでも取り戻そうとしてBarbee boysの格好良さもすっかり気に入って聴いている。

 

そんな時にトム・ウェイツのテーマソングが日本のテレビ、それも山崎豊子原作に使われたのに正直びっくりだったから、番組の良さも当然だったけどそれ以上にトム・ウェイツの出現がこのDVDで一番印象に残った。

 

それにしてもこの番組を作ったプロデューサー、よくもトム・ウェイツを知っていたものだ。同時代の人間なんだろうかな。

 

歌の中に出てくる「Walting Matilda ワルティチング・マチルダ」はワルツの歌ではなく豪州の民謡である。田舎の原野を放浪する男を歌っているのだけど、これまた物悲しい歌である。豪州では古くから人気があり「国歌でもいいんでねーか?」と話に出るほどオージーの根の暗さを物語っている。

 

それにしても良い歌を久々に堪能出来て(何せ毎回最後まで聴いていた)満足な週末だった。



tom_eastwind at 11:24│Comments(0)TrackBack(0) 諸行無常のビジネス日誌 

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