2017年08月18日

誰が為の「住みやすい街?」

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[ロンドン 16日 ロイター] - 英誌エコノミストの調査部門エコノミスト・インテリジェンス・ユニット(EIU)がまとめた2017年の「世界で最も住みやすい都市」ランキングで、オーストラリアのメルボルンが7年連続で首位となった。

 

EIUは世界140都市を対象に、犯罪、医療、環境、汚職、検閲などの項目を基に「住みやすさ」を数値化。リポートは、多くの都市で「テロの脅威への認識が広がっている」と指摘したが、この10年で見られた住みやすさの低下傾向は落ち着いたという。

 

メルボルン以下のベスト10は、ウィーン(オーストリア)、バンクーバー(カナダ)、トロント(同)、カルガリー(同)、アデレード(オーストラリア)、パース(同)、オークランド(ニュージーランド)、ヘルシンキ(フィンランド)、ハンブルク(ドイツ)となった。

http://blogos.com/article/240890/

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今回の世界の街住みやすさ調査でオークランドは世界で第8位の住みやすい街とされた。

 

僕がこの街に1996年から住み始めて20年過ぎた。1996年のオークランドは世界の田舎どころか北半球の誰も知らない街だった。

 

2002年頃にニューヨークに出張に行った時、日本から来てた若い留学生が働く和食レストランで「ニュージーランドから来ました」って言うと、そのうちの一人がきゃ!っと笑って「知ってるー!ニュージャージーの隣でしょ!」って言われた。

 

確かにあの時代、北半球の人々はニュージーランドなど誰も知らなかった。オークランドには日本のようなコンビニもカラオケボックスも夜遅くまで開いてるスーパーもなく、そこにあるものはのんびりした人々とのんびりした雰囲気とのんびりした景色だけであった。

 

けれど間違いなく物価は安く人は優しくお金がなくて自殺する人もおらず人々は助け合って楽しく生きていた。

 

それが21世紀に入りインターネットが発達して飛行機が高速化してオークランドが北半球に近くなった。

 

21世紀に入り米国テロ、アフガニスタン侵攻、中東戦争からアルカイーダ、ISの台頭、それが大都市でのテロに繋がり北半球の治安が大幅に悪化した。

 

日本の学校教育は幼児の頃から厳しい受験に晒され、無事に入学出来ても子供同士の虐めで自殺が出るようになった。

 

何とか社会人になっても今度は成果主義という社内の競争で仲間意識は薄れてストレスが溜まるようになった。

 

その挙句目先の給与は下がり続けて貯金も満足に出来ず会社を定年退職しても年金はアテにならない。

 

その結果として人々は自分の住む街に様々な不安を感じて第二の人生としてニュージーランドを選んだり、テロなど万が一の時の事を考えて他の国に住める権利=ニュージーランド永住権を取得するようになった。

 

リーマンショック以降、ニュージーランドという国が、北半球の大都市と比較しても「田舎だけどのんびりしているしテロはないし、それほど悪くないよな」ってのが段々北半球の人々に広まっていくようになった。

 

そして映画「ロード・オブ・ザ・リングス」が発表されると米国の人々が大挙してやってくるようになった。

 

それから中国、インドからの移住者が自国の将来を憂えてやって来た。もちろん英国からの技能移民も増えた。

 

その結果として毎年5万人の移民が北半球からやってくるようになった。投資移民、技能移民、彼等が自国で得た収入を元にオークランドの不動産を買い新しいビジネスを起こしそれがこの街の急激な発展をもたらした。

 

そして今、オークランドは北半球に知られるようになり、豪州、カナダ、北欧等と肩を並べるようになった。

 

しかし現実はどうであろうか?

 

住みやすい街。けどそれは誰にとってだろうか?確かにこの国に生まれ育ちローンを払い終わった住宅を持ちこの国の国籍を持ち子供たちが地元の公立学校に通い大学を卒業して今まで培ってきた地元のコネを生かして子供の就職先を見つける。そういう彼等にとっては発展途上のこの街は住みやすい街であろう。

 

それは北半球で厳しいビジネスをこなして高給を取りNZでも一流の仕事が出来ていける高級専門職の人々か、最初から不動産を現金で買って投資ビジネスで食っていける移民にとっても同様である。

 

高すぎる住宅とは言え今後値下がりする率は20%程度であり売らない限り損失は発生しないし5年単位で観れば毎年3〜5%の物価上昇と合わせて不動産価格も上昇する。

 

ローンがないからたたき売りする必要もない。毎年公共料金等の生活費も上昇するが給料も毎年上昇する。

 

つまり昭和世代の東京や大阪のように人口ボーナスで街が成長してモノが売れて土地価格や物価上昇と共に給料も上がる。

 

まさにアベノミクスが望んでいた状況が今のオークランドで現実として起こっているが、その波に乗れるのはあくまでも安定したサーフボードに乗っている人たちだけだ。

 

そうでない多くの、NZの良い部分だけを観てやって来た普通の人や昔から賃貸住宅に住んでいる人々にとっては給料は上がらず可処分所得は減り家賃は上がりオークランドの生活は苦しくなっている。

 

だからこそ5年前には殆ど見掛けなかった乞食が街に急増して犯罪が増えた。最近では南オークランドの小売店で強盗が続いている。

 

統計上では「住みやすい街」と言われても肌感覚では社会の二極化が始まっている。北半球から来たばかりの人々にはのんびりとした人々と風景であるが、昔からこの街でのんびりとした住みやすさを知っていた人々にとってはのんびりさが次第に減っているのを感じる。

 

ではこの統計は「誰にとって住みやすい街」なのか。移住する前にしっかり考えて欲しい。



tom_eastwind at 18:22│Comments(0) 諸行無常のビジネス日誌 

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