2017年12月01日

夏が来た

今週に入って急に暖かくなってきた。昨日も昼間は20度で太陽が落ちても19度と暖かい。これからはニュージーランドの抜けるような青さの青空が広がっていく。

 

そしていちごが美味しい季節になった。

 

自宅への帰路で路上でいちご売りのおじさんの屋台が出て来て大粒のいちご入り3パックで10ドル。これが甘い。見事に甘い。ニュージーランドのいちごは夏場に美味しくなるが12月に入ると本当に甘くてすがやかで、食べてて幸せになる。

 

ニュージーランドの国家収入の三分の一を占めるのが農業であるが、食料自給率は作物に因って異なるが大体300%である。つまりキーウィフルーツを10個作れば3個は国内消費、7個は海外に輸出して外貨を稼ぐ。

 

稼いだ外貨で日本等海外から自動車を輸入しているのがNZ経済である。自動車も自国で作れば豪州のように格好良いだろうが人口450万人の国で国産車を作ってもコストが合わない。現に豪州では自動車産業が儲からず自国製品を守るために自動車輸入には高額の関税をかけている。

 

そんな事するよりもNZとしては得意な農業で安全で美味しい食料を作り世界に輸出して外貨を稼いだほうが良い、そういう現実的な判断がある。

 

NZも1970年代にはThink Big Project(大きなことを考えようぜ計画)で戦後日本のような加工貿易を目指した時期がある。豪州から鉄を買ってNZで加工して世界に売り出そうとかである。

 

ところがそのような計画は殆ど失敗した。その理由は工場設置による公害、労働者の労働力の不一致(日本人のようにどこから折っても金太郎飴にならない労働品質)、人件費の高さにあった。

 

そして当時のNZは社会主義であったために農業がすべて国営で品質管理や品質上昇と言う発想がなく、折角良い大地があるのに良いものを作る考えがなかった。

 

そこで経済破綻した後の1984年にデイビッド・ロンギ首相率いる労働党が経済改革に乗り出した。それまでの社会主義計画経済を撤廃して完全な市場原理主義に移行したのだ。

 

社会主義経済下では国家運営であったニュージーランド航空、石油公社、農業公社、森林公社、NZテレコム等をすべてを民営化した、つまり海外企業に売却したのだ。

 

当時はロンギ首相に恨みを持つ公務員が「売国奴!」とか「首切り役人!」とか騒いだが、それまでが恵まれすぎていたと言う事を全く理解しない連中は次々と首を切られて合理化された。

 

それでも社会保障が徹底していたから首を切られた連中でも生活は出来た。彼等が中國や香港で生まれてたらどうなっていたことか。

 

この民営化が功を奏して結果が出たのは1993年以降の国家財政黒字化である。この間労働党から国民党に政権が移ったが市場化政策は変わらず更に良かったのは労働党では遠慮していた労働組合への干渉を国民党政権下で行いそれまで起業家や大企業の足を引っ張っていた労働組合を職場から排除することに成功した事である。

 

今の日本で時々テレビ宣伝で見かけるキーウィフルーツの「ZESPRI」も、元々はNZの国営公社である。他にも麻布で赤肉ステーキハウスを運営するAnzsco、フォンテラが民営化された元の農業公社である。

 

そして経済収入の舵を農業、観光、教育と切り替えてNZは経済成長を始めた。

 

観光ではワーキングホリデイ制度を導入して世界の若者を呼び寄せNZの自然の豊かさを理解してもらい今ではトレッキングの聖地として知られるようになった。

 

教育では世界から英語を学ぶ人々を呼び寄せて英語学校を作り治安の良い場所で安心して英語を学べる環境作りを行い現在の教育産業が成立した。

 

そして農業では原発のないNZで安心して食べられる農産物、子供に飲ませても安全な牛乳など畜産物を海外、特に中國等に輸出して外貨を稼ぐようになった。

 

更にここ10年では農業部門の中でワインが急成長している。NZの土地と気候がワイン作りに適している事を知った北半球のワイン醸造家がNZにやってきて畑を耕しワインを作り北半球に輸出して外貨を稼いでいるのだ。

 

最近はそれまでフランスでしか作れなかった赤ワインのピノ・ノワールも作るようになり、本家フランス、米国のナパバレーに続いてピノの生産地として世界に名を売るようになった。

 

農業で言えばちっちゃな国なので量的にはチリ等に敵わない。なので最初から少量だけど高級路線を貫いて値引きせずに良いものだけを北半球の健康を気にする人に買ってもらいたいとの方針が正解で、現在もNZの食料品は人気がある。

 

ワイン、南太平洋の魚、赤身牛肉、ラム肉、チーズ、バター、牛乳など自然の恵みで作られた食べ物は世界で売れてそれで外貨を稼ぎクルマを輸入する。

 

クルマも最近はテスラが走るようになりEV化が進むだろう。ガソリンスタンド(NZではペトロールステーションと言う)がこれから減少していき自宅でEV車に電気を供給して、停電の時にはEV車が電気を自宅に供給することになるだろう。

 

何にしてもNZの一番の利点は、北半球で失敗した事象を理解してNZでは取り入れないって部分である。

 

だからこそ田舎なのだし北半球のようなダイナミックさはない。何時も青空が広がってのんびりして時間の流れが緩やかで人々が笑顔で過ごしている。

 

どこで住むか?何が良いかは本人の選択次第だろう。

 

夏が来た。楽しい夏が来た。



tom_eastwind at 13:33│Comments(0) 諸行無常のビジネス日誌 

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